ショウが飛んでいく鳥を見送っているとサトシが話しかけてきた。

 

 

「今日は山を降りなきゃいけないけど大丈夫そう?

午前中、またサクラの様子を見に行ってから下山するから。

ショウくんは朝食を食べた後、もうちょっと休んでても大丈夫だよ」

 

「サクラのところに行くんですか!?

連れていってください!」

 

ショウは自分の気分が高揚するのを感じた。

サクラが見られるかもしれない!

サトシと一緒に登った山のサクラの見事さを思い出した。

こんな山の上のある樹なら、もっと素晴らしいものに違いない!

期待で胸が高鳴る。

 

サトシは少しの間黙り込んだ。

口を開いた時には、眉を顰めていた。

 

 

「休息は十分に取れたの?

山を降りる時には、また危険が伴うから疲れは取っといて欲しい。

山を降り始めたら、もう助けは呼べない。

ここからなら配送サービスのオプションを使って人も運んでもらえるけど。

途中の林の中に入ってしまったらそれもできない。

ショウくんが途中、疲れて動けなくなってしまったら。

そこに置き去りにするしかない。

滑落しないようにとかの安全確保はしてあげられるけど。

運んであげられるほどの体力はないからね。

そこを考えて、自分の行動を決めて欲しい」

 

ショウは自分が昨日登ってきた斜面を思い出した。

そして、前回サトシと山に登った時の下山の記憶も。

登るよりも下る時の方が大変だった。

滑り落ちないように足元に注意を払い。

脚には力を入れ続けなければいけなかった。

 

自分がもっと休息が必要なことは分かっていた。

それでも、サクラを見たいという欲求にも抗えない。

 

 

「サクラを・・・見たいんです。

ここまで来たのに、見られないなんて・・・」

 

ショウは残念な気持ちを処理できなかった。

手を知らず知らずのうちにギュッと握りしめていた。

冷静に考えると見に行けないことは分かっている。

でも見たい。

 

頭と心で結論が違う。

そんなことはショウはにとって初めてのことだった。

うまく擦り合わせができない。

ショウは黙りこむしかなかった。

サトシも何も言わない。

 

どうしていいか分からなくなったショウの目から涙が溢れた。

目から熱いものが流れていくことにショウは自分で驚いていた。

零れ落ちる涙をどうしていいのも分からない。

自分の意志が通らないことで泣いたことは初めてだった。

涙を流すショウをサトシは黙って見ていた。