前から気になってたカフェがある。
ケーキも美味しいし、雰囲気もいい、って聞いた。
家からちょっと離れてるけど、時間があるから、いいよな?
「ケーキが美味いって評判のカフェがあるんだけどさ。
お祝いで行ってみない?駅からもちょっと歩くみたいだけど」
そして、また駅に戻って電車に乗った。
向かったのは、海の方。
各駅停車でのんびりと向かう。
小さな駅のホームに降りたら、智の実家の駅ともアパートの最寄りの駅とも。
雰囲気も違う、流れてる空気も違う感じ。
なんとなく海の潮の香りが風に乗って流れているような。
聞いた通りに坂道を上がっていく。
「こんなとこにカフェなんてあるの?」
「うーん・・俺も人から聞いただけで、来るのは初めてだから・・・」
坂道を登り切ったところに、その店らしき建物があった。
大きな木の扉で、看板にはCafeHappinessの文字。
なんか・・・幸先いい名前じゃん!
「ほら!お祝いするのに、すげーいい名前!」
「うん、そうだね。翔は知ってて、ここ選んだの?」
「え・・いや・・・知ってたのはケーキの評判だけ」
「じゃあ、偶然だ」
偶然でも智のこと祝福してるみたいで・・いいじゃん!
重そうな扉を引っ張ったら、カランとカウベルっぽい音がした。
いらっしゃいませという声に足を踏み入れた。
壁には絵と写真が飾ってあった。
海の絵や人物画。
智が絵に引き寄せられるように近づいていった。
海の絵をじーっと見ている。
斜め下から見たり、横から角度付けて見てみたり。
そこから一番近いテーブルに案内されたけど、智は絵の前から離れない。
「智!まず、メニュー決めちゃおう!」
心ここにあらずって感じでテーブルに来た。
オススメのケーキを選んで、飲み物はコーヒーで、って。
かなりテキトーな感じに選ぶと、また絵の前に戻った。
「気に入っていただけました?」
水のグラスをテーブルに置きながらウエイターさんが微笑んだ。
その絵を描いた画家を教えてくれた。
俺でも名前くらいは知ってる画家だった。
そんな有名な画家の絵が、こんなさりげなく飾ってあるなんて!
「いいなぁ・・・僕もこんな絵、描いてみたい」
智がぼそっと呟いた。