装束を着せられた翔は刀と懐紙を懐に入れた。
長くなった髪は水引でくくられている。
神のための存在になったような気がしていた。
自然と身が引き締まり立ち居振る舞いが相応しいものになる。
翔は神楽を舞った。
想うのはサトシのこと山のこと森のこと。
ただ神に身を捧げるように舞った。
人としての現身がここにあることが不確かになる。
ふわふわとした心持ちで奥宮へと向かう。
奥宮の祭壇に刀と懐紙を置いた。
そうしてやっと翔は自分に戻ってきたように感じた。
祭壇の前に座るとサトシが後ろから翔の体を包んだ。
「舞いの儚さがより強くなったね。
翔の覚悟がより強く感じられたよ」
「サトシ・・・・」
一年ぶりのサトシに翔は言葉が詰まった。
「髪、ずっと伸ばしてたの?」
「そう・・・サトシに・・・切ってもらおうと思って」
翔は装束を脱いで襦袢だけになった。
水引でくくられた髪の束にサトシの手がかかった。
ざく、ざくっと音がして少しずつ髪が切られていく。
サトシの手に髪の束が移った。
翔が懐紙を広げるとサトシはその上に髪の束を置いた。
丁寧にサトシは懐紙をたたみ、髪を包んだ。
翔は急に軽くなった頭を振った。
「翔・・・愛しい人。
僕に・・・・その身を捧げて」
床の上に広げた装束の上。
翔はサトシに身を捧げた。
奥宮に光が差し込む寸前。
サトシは翔に装束を着せ終えると姿を消した。
懐紙に包んだ髪の束も一緒に消えていた。