2019慶応・文の問題を取りあげ、今回も典型的日本語構文を取りあげ、SVO構文転換と、人称代名詞の問題を説明する。
【出題文】
少し考えれば作り事だと分かるのだが、われわれは心地よい物語を信じてしまいます。
この日本文を見て、別に難しくもなんともないと、思って次のように書く受験生が多いであろう。
If we think a little, we know it is fiction, but we believe a comfortable story.
これでも、日本の大学の英作文の配点の低さや採点の甘さを考えれば合格点かもしれない。しかし、このような英作を書いて合格したら、英語表現はこれで良いのだという間違った考えを持ってしまう。この短い日本文も日本語構文、また日本語表現の特徴が明確に現れている。どこに英語表現と異なる日本語構文、表現の特徴が見られるか。
1) 「少し考えれば作り事だと分る」の構文は、典型的な「AすればB」構文。
2) 主語、目的語が明確ではない。
3) 人称代名詞の問題。一般的な、誰でもすると思われるとき、日本語は主語が「われわれ」になるが、英語は Weばかりでなく、You, people, one など多様。また使い方が少しずつ違う。
4) 述語中心表現(この短い文に「考える」「分る」「信じる」と三つの動詞がある)。
このような日本語の特徴を捉えた上で、まず、2) 主語、目的語が明確ではないという日本語の特徴を意識して、「主語」「目的語」を明確する。
「少し考えれば作り事だと分かるのだが、われわれは心地よい物語を信じてしまいます」
⇒「われわれは心地良い物語を少し考えれば、それをわれわれは作り事だと知る。だが、われわれは心地良い物語を信じてしまう」
これを一回英語にしてみる。
When we think a little about comfortable stories, we will know they are fiction. But we believe them.
ここで、この出題文が典型的な日本語構文である「AすればBだ」の構文であることを確認。このような日本語構文は、まずSVOにできないかと考えてみる。すると次のような日本語に書き換えられることが分るだろう。
文前半:「我々は心地良い物語を少し考えれば、それを作り事だと知る」
⇒「心地良い物語を少し考えることが、私たちにそれが作り事だと教える」
これを英語にしてみると、
Thinking a little about comfortable stories makes us realize that they are fiction.
ここで、文法必須表現の at the thought of 「~を考えると」や at the sight of ~「~を見ると」の表現を思い出せる人は、この英訳をもっとシンプルなSVO構文で書けることが分るだろう。書き直してみると、
A little thought of comfortable stories makes us realize that they are fiction.
ここで、3) 人称代名詞の問題を考えてみる。ここまでは、日本語が「われわれ」となっているので、そのまま us としてあるが、実はこれは非常に危険なのである。日本語は「一般論」を語るとき、滅多矢鱈と「私たちは」「私たち日本人は」という言い方をするが、英語は、客観的な表現なら people、また「あなたも私もみんな」と個別的に「みんな」を言いたければ、you が一般的な英語表現。日本語で「私たち」=we だと思っている人は、それは違うということを理解しておく必要がある。このことを考慮に入れて、書き直せば、
A little thought of comfortable stories makes you realize that they are fiction.
となる。次に文の後半「われわれは心地よい物語を信じてしまいます」を英訳するが、「心地よい物語」は繰り返しなので、them とすればよい。また「信じてしまいます」は tend to believe と「信じる傾向がある」くらいのニュアンスを入れれば良い。ここで、全体をまとめてみる。
【出題文】
少し考えれば作り事だと分かるのだが、われわれは心地よい物語を信じてしまいます。
【訳例】
A little thought of comfortable stories makes you realize that they are fiction, but you tend to believe them.
構文転換から英訳へのステップを言葉で説明していくと複雑そうだが、慣れてくると、日本語から直訳英語を書こうとして、苦労するより余程、こちらの方が楽だと分るであろう。
なお、最後に「単数・複数」のことに触れておくと、「心地良い物語」は、a story か stories かであるが、「心地良い物語」を一般論として書けば、訳例のように複数形になる。