2015年の1月1日というのはキリの良い感じである。元日である。正月である。おめでたい。元日のガンジス川、などとしょうもない駄洒落が浮かんだが、この駄洒落のおかげで今日がめでたいわけではもちろんない。

のっけから軽口を叩いてあまりまじめな話をする気がしなくなってきちゃったな。いっそ、くだけた話をするか。
えー、正月てなあおめでたいものでございます。正月になりますと人は家の門に松飾りを飾ります。おや、道の向こうからだれかくる。近所の下宿屋に住む粗忽者の三太郎じゃあねえか。

「おや、どうしたい三太郎。元日から鼻の頭ぁ出しやがって」

「あ、町会のご隠居。明けましておめでとうございます」

「おめでとうさん。なんでまたお前さんはキョロキョロとあちこち見回してんだ?」

「へい。この界隈、歩いてるとどこの家の門にも松の枝を飾ってあるもんですからね。飾ってない家のほうが少ないですね」

「そりゃあ正月だからな。正月てなあ松飾りをするのが当たり前だろう」

「なんで松飾りなんでしょうねぇ。松じゃねえといけねえ訳でもあんですかね?」

「松が基本だろうな。なんでって言ったってな、むかしから松飾りをするって相場が決まってるんだよ。でもあれだ、竹を立てて松と一緒にして門松を飾ってる家もあるよ」

「へい、門松。そういや正月の歌にありやしたね。年のはじめのためしとて、終わりなき世のめでたさを。マツタケ立てて門ごとに…ってなんで松茸を立てるんですかねぇ。やっぱ香りが良いからですかねぇ」

「ばかやろ。マツタケってなあキノコの松茸じゃねえよ。そんなもの立ててもちっとも見栄えがしねえだろ。マツタケ立てて、っていうのは松と竹を立ててって意味だ。門松のこった」

「やっ、マツタケ立てては松・竹立てて、の意味なんですか。松・竹立てて、ね。ふーん。なかなか奥が深い」

「深くもねえが、むかしから松と竹を飾るのが正月の流儀と決まってるんだ。松竹梅っていうだろう。あれの松と竹が上等で、おめでたいんだ」

「松竹梅は酒ですよね。特別うまい酒とも思いませんが、そんなにおめでたい酒なんですか」

「だれが特級酒の話をしたんだ。松と竹はむかしっから縁起もので、丈夫で長持ちだから重宝されたんだ。もっとも、ベトナムあたりじゃ旧正月に花を飾るって聞いたことがあるな」

「ヘェー、花笠音頭でも踊るんですかい」

「いや花笠音頭は踊らねえだろうが、やっぱり縁起ものだろうな。ベトナムじゃ旧正月をテトと言ってな。日本語でお節料理なんて言うあの『節』をベトナム語でテトと読むんだ」

「ヘェー。さすがご隠居、亀の甲より年の功。よく知ってますねェ。それじゃあベトナム人はお節のことをおテト料理ってえんですか。ちょっと言いにくいなぁ」

「おテト料理なんて言わねえだろう。むかしベトナム戦争では旧正月のテトに奇襲攻撃をかけたって話があるがな」

「めでたい旧正月に奇襲ですかい」

「ああ、ベトナムじゃテトには休むのがふつうだから、まさか攻めてくるたあ思ってなかったみたいだな。そこを突いた作戦だってよ」

「どうやって攻めたんですかねぇ」

「正月飾り用の花を積んだリアカーに武器をどっさり隠して運んだそうだ」

「ヘェー、その花で花笠音頭を踊ったんですかい」

「だからなんで花笠音頭に行くんだ」

「とにかく、海の向こうのベトナムでも、海のこちらの日本でも、正月には花や門松を飾るってえわけですね」

「そういうこった」

「なるほど、ベトナムじゃ門松を飾って日本じゃ花を飾るんですね」

「あべこべだよ」

「じゃあ、おいらもちょいと花笠音頭でも踊ってきやす。ご隠居、よいお年を…」

「もう年が明けてるじゃねえか。本当にしょうのねえ野郎だ」