部長がゆっくりと思い出しながら 話しを始めた
「僕がニジさんと初めて会ったのは、彼女がまだヨチヨチ歩きのころだった」
「僕と『彼』はニジさんのお父さんの虹村教授に、学生のころからお世話になっていて、ひとかたならない恩がある」
「ニジさんは小さい頃は、言葉少なく、とてもおとなしい子で つぶらな瞳でニコ~っとほほ笑むのがとても可愛い子だった」
「ニジさんはお父さんのことが、とっても好きで」
「学者で研究者でお医者のえらい お父さんのことを誇りにおもっていた」
「そういえば、こんなことがあった」
「ニジさんは、ある日 お父さんに釣りにつれていってもらったんだけど 初めてでとても大きな魚をつりあげて、お父さんにすごくほめられたんだそうだ」
「それが本当にうれしかったんだろうね」
「小学生時代のほとんどの休日、彼女は近所の湖で釣りをしていたんだそうだ」
「今でも釣りは続けているんじゃないかな」
「で、教授のほうもニジさんをとても可愛がっていた」
「目の中にいれても・・・ってやつだね」
「ただ・・・彼女が中学に上がったころからかな、学校の勉強についていけなくなってね」
「すごくあせっているようだった」
「がんばってもがんばっても、お父さんを喜ばせられるような成績がとれない」
「偉いお父さんに、自分は似つかわしくない そう、思いこんじゃったんだ」
「それで、悩んで悩んで 追い込まれちゃって」
「一時期は自殺まで考えたこともあったそうだ」
「そんなニジさんを救ったのが『彼』の歌だった」
「『彼』は教授のもとで学びながら、音楽の業界でも素晴らしい成果をだした」
「もちろん皆も知っているよね?」
とうぜんだ ぼくちんは深くうなづいた
「追い込まれて追い込まれて・・・」
「真っ暗な地獄の雲の隙間から ”蜘蛛の糸”がおりてきた そんな気がしたって言っていたよ」
「ニジさんは彼の歌をきいて立ち直ることができたんだ」
「それからニジさんは『彼』の研究や音楽活動の手伝いをするようになった」
「二人はとても楽しそうだったし、『彼』はニジさんを妹のように大事にしていた」
「ある日『彼』はニジさんに こう言ったそうだ」
部長は悲しそうな声で言った
つづく