これは、S田というとある内科専門医に言われた言葉だ。

S田は40代男で、奥さんは違う病院の内科の医者でバリバリ働いていて、小さい子供が1人いる。

 

その内科ローテの際、とても優しい子持ちの女医さんに、

先生は来年から内科に進むわけだけど、何か悩みでもない?」と聞かれた。

私は「市中病院での、夜の内科の救急外来が怖いです。」と答えた。

その女医さんは、「そうだよね、私も怖かった」と自分の救急外来でのエピソードをいくつか話した後に、「でもゆうて大丈夫だよ、これはもう数を見るしかないからね」と言ってくださった。

 

そんな会話に聞き耳を立てていたのがあのS田である。

女医さんが、「私も救急外来は嫌だよ。寝れないし、当直明けは帰れないし、そのくせ訴訟リスクはあるし。ただうちの病院では、子供がいる場合、大きくなるまでは女医は当直を免除されるんだよね。まあ、最初からそれを狙うのはあんまり良くはないけどね」と言った。

 

そこで、ついにS田が口を挟んできた。

彼は、「僕だってね、当直はやりたくないんですよ。でも誰かがやらなきゃいけないことだからね。女医は子供がいれば免除されるけどね。だから医学部入試で女性差別があるんだよ」と言った。ドヤ顔で言った。

 

私はその顔を殴りたい衝動に駆られた。

 

S田は、「当直はみんな嫌がるけれど、誰かがやらなければいけない。でも、女医は子供がいれば当直を免除され、その分の負担が男に回ってくる。だから、医療界で女医は邪魔な存在で、男の医師を増やす方が良い」というようなことを言いたいのであろう。なるほど、言っていることは理解はできる。日本の医者の現状は実際そうだし、男の医者が不満を持つ気持ちもわからなくはない。

 

ただ、S田がそれを言うのはおかしい。

なぜなら、S田こそがその恩恵をたっぷり享受しているからだ。

 

実は、私は別の病院で働いているS田の奥さんに何度か会ったことがある。

その時、確かに奥さんは言っていた。育児のために、当直は免除してもらっていると。

そして、旦那が子育ても家事も、一切何もやってくれない」と。

奥さんは、当直には入っていないものの、バイト医というわけでは決してない。

当直以外の激務は全てこなし、担当患者が急変したときには夜中の1時でも呼ばれて処置をしている。

その上で、子育てと家事を全て一人でやっているというわけだ。

 

S田が、子供の夜泣きや夜間の発熱に対応することも、子供に夜ご飯を食べさせたり寝かしつけたりせずに、研修医に偉そうなことを言いながら医者を続けられているのはなぜだろう。それは、奥さんが当直を免除されるというシステムを利用しているからである。

 

そんなことを言うのであれば、奥さんに当直をさせて、自分が病院に掛け合って夜に育児と家事をすれば良い話である。そもそも、女医のことをずるいと思っているくせに女医と結婚してあーだこーだ言っているのも矛盾しすぎていて訳がわからない。

 

自分の置かれている状況に気付かず、こういったことをふんぞり返ってベラベラ喋る輩が、実は少なくないのではないだろうか。