緑内障は日本での失明原因の29%とされ、圧倒的な原因疾患の第1位なのです。進行が非常にゆっくりとしていて、高齢になるほど緑内障の患者が増えます。つまり、1950年代のように平均寿命が短い間は、緑内障が発見される前に命が無くなっていたので、緑内障はあまり問題とならなかったのです。しかし、今や90歳以上に長生きするようになった日本人にとって、多くの日本人が存命中に緑内障で視力を失うようになってきています。長寿国家の日本では、全ての日本人にとって緑内障は避けては通れない、大きな問題となっているのです。また、緑内障は70歳以上の高齢者だけの問題ではありません。白内障にしても手術適応がかつては60歳代以上の方が多かったのですが、現代では40歳代から50歳代の方からの手術適応患者が増えてきています。これに呼応するかのように、緑内障の発症の低年齢化も進んできています。

 命が長らえても、目の視機能を失ったら、生活の質は極端に落ち、充実した人生を送れなくなります。緑内障と同じく、多くの方が罹る白内障は目のレンズが濁る病気で、手術は患者が見え方で不自由を感じたら行えば良いと言えます。しかし、緑内障は視神経の障害で視野が狭くなりますが、末期になるまで気づきません。知らないうちに徐々に進行して、ある日異常に気付いた時は、時すでに遅しとなります。失われた視神経はもはや取り戻せないのが白内障とは違った問題点です。

緑内障の初期の内は薬も効果的ですが、中期以降、末期では猶更に、薬では進行を抑えるのが非常に難しく、手術が必要となります。ところが、いくつもの方法がある緑内障手術を適切にかつ完璧に行える眼科外科医が日本には非常に少なく、緑内障は治療ができない、と信じられているのが日本の現状です。

 現実には、初期のうちに緑内障を見つけられないことが多いのです。患者が緑内障に気づいたときは、すでに末期になっていることが多いのは問題です。緑内障手術時期を失っているからです。早期に緑内障を発見することが重要です。緑内障の進行が止まらないとか、すでに中期に入った患者に、「緑内障の手術をしましょう」と、勧めると、「緑内障って手術なんてできるんですか?」と驚かれて、逆にこちらがびっくりします。緑内障の正しい手術への知識が患者サイドではほぼ皆無なのです。薬についてもほとんど正しい知識を持たないだけでなく、手術についてはまるで情報を持てていないのです。これは患者だけでなく日本の眼科医でも手術の正しい知識を持っていない為に、緑内障の長期展望での、生涯にわたる緑内障治療の正しい計画が立てられていないのです。眼圧が少し高いから点眼薬を出して眼圧を下げましょう、といった安易な治療を長年続けて手遅れになっている症例が数限りなくあります。

 また、これほど当たり前の病気である緑内障ですが、実は真の原因はよくわかっていない病気なのです。日本ではいまだに緑内障とは「眼圧が上昇することにより、視神経が障害され、視力や視野障害がくる病気」と考えられていると思います。確かに、主に統計的な観察による多くの世界の研究により、眼圧上昇がまず間違いない原因だと考えられています。眼圧も関係しているでしょうが、さらにそれだけでなく、眼圧だけでなく、視神経への栄養や酸素供給の血流不足、視神経への機械的圧迫、などが緑内障視神経障害の発症原因であると推測されているのです。