今日は珍しく法律ネタで行きます。


成年後見制度 選挙権求め提訴

2月1日 15時44分 NHK

 知的障害など判断力が十分でない人に代わって財産管理などを行う成年後見制度で、後見を受けると選挙権を失うのは憲法に違反するとして、知的障害がある48歳の女性が1日、国に選挙権を認めるよう求める初めての訴えを起こしました。 東京地方裁判所に訴えを起こしたのは、茨城県牛久市に住む名児耶匠さん(48)です。名児耶さんはダウン症で知的障害があり、4年前に父親が判断力が十分でない人に代わって財産管理などを行う成年後見人になりました。

法律では、後見を受ける人に選挙権を認めておらず、名児耶さんも後見を受けると同時に選挙権を失いました。名児耶さんは20年以上にわたって選挙の際は欠かさず投票していて、投票する能力はあると主張し、後見を受けたことで選挙権が失われたのは、選挙権を保障する憲法に違反するとして国に選挙権を認めるよう求めています。

成年後見制度で後見を受けた人はおよそ14万人に上りますが、選挙権を求める裁判は初めてです。名児耶さんは、会見で「二十歳からずっと選挙に行ってました。また行きたいです」と話し、弁護団の杉浦ひとみ弁護士は「権利を守るための成年後見制度によって重要な権利が奪われる矛盾を正したい」と述べました。提訴について、総務省選挙課は「訴えの内容を承知していないのでコメントは差し控えたい」としています。

→http://www3.nhk.or.jp/news/html/20110201/k10013778291000.html



 後見制度とは、本人に代わり公的に認められた代理人が法律行為を代理して、本人を保護する制度です。当該制度には4種類あり、成年後見制度(民法7条以下)、補佐制度(同法11条以下)、補助制度(同法15条)、そして未成年制度(同法5条以下)の4つがあります。

 今回、問題になったのは成年後見制度(同法7条以下)であり、これに該当する者(成年被後見人)は、選挙権・被選挙権を制限されます(公職選挙法11条1項1号)。


 さて本件で問題になる「成年被後見人」とはどういう方なのでしょうか。

民法上の定義では、「精神上の障害により事理を弁識する能力を欠く常況にある者」とされます(民法7条)。

これを解りやすく言うと、「日頃自分の行いを自ら認識したり、説明したりする力がない状況が、常に続く人」です。


 ここで問題なのは、成年被後見人が選挙権という公法上認められている権利を制限されることは、果たして妥当であるかです。

 私見で言えば、この法規定は妥当だと思います。理由は2点です。

 まず、先ほど述べたような状況にある人が、国の施策を評価するのは困難であると考えられます。参政権の一つである選挙権は、民主主義の根幹であり、これによってその国の行く末に多大な影響を与える物です。そのような重大な権利を、常に自己の弁識能力がない人が、正当に行使できるのでしょうか。

 次に、本人の意思を後見人が正確に反映しない可能性もあります。以前、認知症の方が入所するセンターで職員が勝手に入所者の選挙権を行使するという事件がありました。これと同種の事案がないとは言い切れません。仮に濡れ衣であったとしても、それを証明するのは困難を極めると思われます。

 以上の点から、当該訴訟の請求は認められないと考えます。


 なお、勘違いされている方がいると困りますので述べますが、成年被後見は取消すことができます。ですから、例えば治療や何らかの理由で認知能力が復活した場合、裁判所に申請すれば「後見開始の審判」を取り消し、選挙権を再び行使できるようになります(民法10条)。尚、他の後見制度なども取り消し可能です(民法14、18条)。


 この訴訟がどうなるのか、注視していこうと思います。