K本に1時間ほどいてT千穂に顔を出すが、今日は閑散としていた。カウンターでスポーツ新聞を読んでいるうちに眠くなる。相変わらず一日寝たり起きたりである。10時に店を出て、コンビニで買い物を済ませ帰る。ポストを開けるとメモ用紙。懐かしいIさんではないか。個展に来てくれたそうである。 知り合ったのは20代、彼女は六本木の交差点近くに住んでおり、皆で集まり朝まで飲んだものである。ある晩トランプをしていて美味いドライマテイー二を作ってくれた。あまりに美味かったので、後にそれをいうと「面倒臭くなって、途中から石塚君飲んでたのただのジンだったの」。そうなの? 彼女は背が高く、シド・チャリシー並の脚線美を誇っていた。 あるとき右手の平にほくろができた。たまたまTVで恐ろしいほくろの癌の特集を観ていたので、彼女の飲み友達の某女子医大の医師に訊いてもらった。彼女の返事はアッケラカンと「もし癌だったら右手切断だって」。後から思うと飲み友達というのがいけなかったのだが。その医師に見てもらったらその場で試験切除。周囲の友人には、左手だったらオプションでフックやナタをネジで取り付けられるようにするけど右手じゃなあ。作れなくなるなら生きてたってしょうがない。さらに試験切除で癌細胞が活発に、というのを医学書で読み落ち込む私。 1週間後に結果を聞きに行くと医師の表情が重苦しい。「Iに脅かしといてっていわれちゃって笑」。『ヘタクソな縫い方しやがってこのヤブ医者!』いくら脚線美を誇るからって、やっていいことと悪いことがある。“都合の良い時また来ます”メモを見ながら昔のことを懐かしく思い出した。
『タウン誌深川』“常連席にて日が暮れる”第5回