深川江戸資料館が歩いて行ける距離にあることは、年々行動範囲が狭くなっている私には、この気楽さは良かった。今回は初めて大きなプリントを展示できたが、もう一つ、ここには劇場があり、2006年に世田谷文学館でおこなった、朗読/田中完さんとピアノ/嶋津健一さんの乱歩作品の朗読ライブが、ようやく再演がかなったことである。お二人の朗読、演奏は数段パワーアップしていた。『貝の穴に河童の居る事』は、この作品に合うのは琵琶か義太夫三味線だろう、と三味線の鶴澤寛也さんにお願いしていたが、朗読を誰に、と考えていて電車内で思いつき、竹本越孝さんにお願いする事になった。 制作中は、常に作者の鏡花のことが頭にあった。ばい菌恐怖症の鏡花にサービスとして、鏡花の恐れた蠅をたからせてみたり。鏡花の創作意図として肝心と思われる部分は越孝さんに無理をいって語っていただいた。反省点としてはリハーサルが当日の一回だけという状態で、私がおこなったスライドの切り替えの失敗があった。祭り事に使用するものの一つとして、木製男根。出版時には遠慮して使ったが、修正前の物を使ってしまい、3メートル程の巨根がくっきりとスクリーンに。そんなことはあったが、作品の奇妙な味わいは、そこなわずに済んだのではないだろうか。 個展、朗読、それぞれ御来場いただいた方々には感謝してもしたりないところである。
『タウン誌深川』“常連席にて日が暮れる”第5回