円谷英二は自分でブログに書いたおかげで、スタジオ内でセットを眺めている、というより彼方を飛ぶ飛行機を眺めている状態をイメージしながら作ることになった。 円谷は若干表情が緩んでいるが、無表情が基本である。多くの仏像や能面は無表情ゆえに、見る側のコンデイション、心持ちにより様々な表情に見えるようになっている。そのため同じ人形を撮影しているのにかかわらず、複数の表情が用意されているのだろうと思われることがよくある。表情に限らずポーズに関しても同様である。撮影用に制作する場合は背景に合わせてポーズをさせることが多いが、人形作品として制作する場合は、動きはできるだけ少なくすることを心がけている。ただぽつんと突っ立っているのが良い。ただ立っている人物を作ってばかりで飽きないか、というとこれがまったく違う。首の角度、肩や腰のライン、足の前後左右の位置、その僅かばかりの部分に、やるべきこと、込めるべきことがいくらでもある。 今回は作りながら円谷の視線の先に、沈み行く夕日を背景に飛ぶ飛行機が浮かんだので、円谷に実際の夕日を正面から当てて撮影してみたい。歌舞伎の勧進帳で、六代目菊五郎の義経だったろうか。手をかざし遠くを仰ぎ見ると、観客には山並みが見えたという話を聞いたことがある。円谷の視線の先に飛行機が見えるのが理想であろう。
※弁慶と書いてしまったが菊五郎は義経。