エッセイストの森下賢一さんが26日午前2時55分に逝去された。 世界中の酒場に詳しい森下さんであったが、『居酒屋礼賛』の著書だけに庶民的な酒場がお好きで、K本ではいつもポツンとお一人で座っておられた。客越しに話されるような方ではなかったので、酒場における愉快な話は幸運にも、たまたま隣に座った時にしか伺えない。永井荷風がお好きで、私がK本で撮影した荷風作品が店内に飾ってあることから、最近出版された文庫本には私の名前を出していただいていた。 森下さんといえば酒にまつわる想い出しかないが、いつかいただいた中国の『文君酒』のことは、その臭いとともに忘れられない。今まで嗅いだ、あらゆる酒の中でもっとも臭く、そのガラス壜はどういうわけか栓を閉めようが常にじっとりしていて曰くいい難い香りを放ち続けた。雑記を読み返してみると、当時階下に住むYさんの分と二本いただいたがYさんには受け取りを拒否されている。日数がかかったとはいえ、あれを二本飲み干したとは自分ながら呆れる。 飲み会などあると、お持ちいただくのは珍しい酒ばかりであったが、そんな時でも座の中心になって話されるような方ではなく、世界の酒にまつわる珍奇な話は隣に座らないと伺えないのであった。 私が最後にお会いしたのは近所のビジネスホテルでのカラオケ大会であった。森下さんは『カスバの女』を唄われた。ジュリアン・デュヴィヴィエ監督、ジャン・ギャバン主演のフランス映画『望郷 』(1937)がイメージの元になっている曲だが、商社マンとして各国を渡り歩いた森下さんらしい選曲だな、と思ったのを覚えている。合掌。

作家・森下賢一酒場という非日常(上)(下)

http://www.yomiuri.co.jp/otona/people/sakaba/20120726-OYT8T00860.htm

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