アルバート・アインシュタイン、ロバート・オッペンハイマー、およびマンハッタン計画で最初の核兵器の開発に携わったシカゴ大学の科学者らによって1945年に設立された「原子力科学者会報」は、2年後から年頭に終末時計を公表しています。

 

終末時計は人間の作った技術によって引き起こされる地球規模の大惨事による人類絶滅のときを午前0時として、それまでの残り時間を表示しています。

 

2024年の終末時計は前年と同じ真夜中まであと90秒で、人類は前例のないレベルの危険に直面し続けていると強い懸念を表明しています。


Bulletin of the Atomic Scientistsより

 

原子力科学者会報の科学安全保障委員会は、世界的に認められた各分野の専門家で構成され、スポンサー委員会 (ノーベル賞受賞者 9 名を含む) と協議して終末時計を設定しています。

 

2024年の終末時計が午前0時の90秒前に設定された根拠は次の通りです。

 

(1)中国、ロシア、米国はいずれも核兵器の拡充や近代化に巨額の資金を投じており、常に存在する監視システムの誤作動などによる偶発的核戦争の危険を増大させている。

 

(2)包括的核実験禁止条約の批准は進まず、ロシアのプーチン大統領は新戦略兵器削減条約を停止すると発表した。

 

(3)ロシアのウクライナ戦争の終結は見えず、ロシアが核兵器を使用する可能性は依然として深刻である。

 

 

(4)2023年に地球は観測史上最も暑い年を経験し、大規模な洪水、山火事、その他の気候関連災害が世界中の何百万人もの人々に影響を与えたが、世界の温室効果ガス排出量が増加し続けたため、未知の領域に突入した。

 

(5)産業革命前からの気温上昇を1.5度以内とするパリ協定の履行が不十分であり、さらなる温暖化を止めるには、世界は二酸化炭素排出量実質ゼロを達成する必要がある。

 

森林火災:NASAより

 

(6)生命科学と関連技術における革命は、昨年もその範囲を拡大し続け、特に遺伝子工学技術の高度化と効率化が新たな人工知能ツールとの融合により、個人が生物学を悪用する可能性が増加した。

 

(7)昨年の最も重要な技術開発の 1 つは、生成人工知能の劇的な進歩であったが、人工知能(AI )は典型的な破壊的テクノロジーであり、AIの国際的管理に関する最近の取り組みを拡大する必要がある。

 

(8)AI はすでに諜報、監視、偵察、シミュレーション、訓練など広く軍事利用されており、特に懸念されているのは、人間の介入なしに標的を特定し破壊する自律型致死兵器である。

 

AI NISTより

 

終末時計はどのように変化したのでしょうか?

 

1947年に7分前に設定され、核兵器開発の進歩と拡散により2分前まで進みますが、19991年に東西冷戦が終結して17分前まで巻き戻されました。

 

その後は核兵器の途上国への拡散により5分前まで進み、2000年代に入ってからは気候変動、遺伝子工学の進歩などによる生物学的リスク、AIへの懸念が新たな脅威として認識さると同時にウクライナでの戦争が勃発して、2023年には90秒前まで進んでいます。



 

同会報は危機的な状況を指摘するだけではなく、時計を戻す方法についても次のように提言しています。

 

「人類共通の脅威には共通の行動が必要であるという共通の信念のもとに、世界をリードする三大国、米国、中国、ロシアは、ここで概説したそれぞれの世界的脅威について真剣な対話を開始すべきである。」

 

米国と中ロが対立を深めている現状で真剣な対話を開始するのは容易ではありませんが、人類絶滅の危険を回避するにはこれ以外に方法はありません。



中露首脳:写真はVladimir Astapkovichによる

 

終末時計は人類絶滅の脅威を人間の作った技術によって引き起こされる地球規模の大惨事に限定していますが、人類絶滅の脅威はそれだけではありません。

 

人類が築いた社会制度に人類自らが適応できず、先進国から後進国へと全世界で少子化が進んでいます。

 

そのため、世界人口は2085年頃に104億人に達した後は、減少に向かうと推計されているのです。

地球上には870万種の生物が生存していますが、数を減少させた種は全て絶滅しています。

 


国連人口統計・社会実情データ図録より

 

700万年前に誕生した最初の人類サヘラントロプス・チャデンシスを含めて化石人類は25種くらい確認されており、彼らはいずれも地球環境の変動に適応できずに絶滅しました。

 

30万年前に誕生したホモ・サピエンスは、1万年前に農耕と牧畜を始めると同時に文明を発展させて人口を増加に導き、さらに、産業革命によって生産力を飛躍的に高めて人口を驚異的に増加させました。

 

しかし、私たちは自ら発展させた文明を制御できず、核兵器の脅威、気候変動、生物学的リスク、AIの懸念、少子化などを招来することになり、絶滅の危機に直面しているのです。

 


 

引用文献 :Bulletin of the Atomic Scientists (Jan.23, 2024)