『のぼうの城』 | 葛城の迷宮

『のぼうの城』

監督:犬童一心
    樋口真嗣
出演:野村萬斎
    榮倉奈々
    成宮寛貴
    山口智充
    上地雄輔
    山田孝之
    平岳大
    芦田愛菜
    市村正親
    鈴木保奈美
    佐藤浩市


「決壊させよっ!!」
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毛利家の清水宗治が城主を務める備中高松城を水攻めにした羽柴秀吉(市村正親)。
すぐ脇でその場面を見ていた石田三成(上地雄輔)は、いつか自分もこのような大きな戦をしてみたいと思う。
時は過ぎ、関白となった豊臣秀吉は天下統一を目前に控えるところまできた。
残すは関東平野を支配する北条氏政とその同盟国のみ。
秀吉は日本中の兵力を結集させて小田原攻めに向かうと同時に、寵愛する三成に武功を挙げさせるために2万の兵を与えて忍城攻めを命じた。
しかし秀吉は三成の補佐を命じた大谷吉継(山田孝之)にだけ、作戦の意図を打ち明けていた。


忍城城主・成田氏長(西村雅彦)の従弟である成田長近(野村萬斎)は、いつも百姓たちの農作業を見物したり、その子供たちの相手をして時間を過ごしてきた。
彼は武士でありながら勇猛さや智略も無く、麦踏みひとつ手伝うことのできない不器用な男で、得意なことは踊りと唄うことだけ。
しかし、その豪快なダメっぷりと人あたりの良さから、領民からは“でく”を付けずに“のぼう様”と呼ばれ愛されていた。
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秀吉が大軍を率いて関東に進軍との報を聞き、成田家の当主である氏長は北条家との盟約を守るため小田原城へと向かう。
その際、家老・正木丹波守(佐藤浩市)を呼びつけ、関白の兵が忍城を取り囲んだらすぐに開門せよと伝える。
氏長は密かに豊臣方へと寝返っており、内通の手筈は整っていた。
戦うことなく軍門に降ることを選んだ主に家臣たちは憤るが、強者になびく戦国の世の習わしとして当然の決断だった。
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作戦の意図を知ってか知らずか、三成は降伏を促す使者として長束正家(平岳大)を忍城へと遣わす。
強い者にはへりくだり、弱い者には尊大な態度で応じる正家の性質を考えると、降伏勧告の使者には不向きだと吉継は三成に進言する。
大軍を前に降伏目前であろう敵方を、正家が無礼な態度で臨むことで武士の意地を奮い起たせることが三成の狙いであった。
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田舎侍たちが大軍勢を前に怯えきっていると思い込み、長束正家は踏ん反り返って降伏勧告の返事を待っていた。
すでに寝返ることを決めている忍城家臣団だったが、あまりの不遜な態度と降伏の条件に腹を立てていた。
その条件とは、氏長の娘で“東国無双の美女”との誉れ高い甲斐姫(榮倉奈々)を、秀吉の側室へと差し出せとのことだった。
当主がいない忍城で総大将を務める氏長は、すでに決しているはずの返事を正家に突きつける。
「貴殿とは戦場で相見えることになりましょう。
坂東武者の心意気、見せてやりましょうぞ!」

こうして三成の思惑通り、天下人の兵2万と田舎城の兵5百との戦いの火蓋が切って落とされた。
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『ジョゼと虎と魚たち』の犬童一心と、『ローレライ』の樋口真嗣が共同監督。
冒頭の備中高松城攻めも含めて、”日本三大水攻め”で有名な武蔵忍城を舞台にした物語。
2万もの兵と莫大な金子を使って堤を作ったにも関わらず、たった5百の城兵を相手にほぼ引き分けに持ち込まれて、
三成の戦下手を天下に広めてしまったこの戦い。
だけど城代・成田長親がどうやって戦ったのか、そもそもどんな人物だったのかは誰も知らない。
脚本・原作の和田竜は、好きなこと書きまくりで楽しかっただろうな。

「イヤなものは、イヤなのだーッ!!」
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あ、違った。
こっち、こっち。
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「イヤなものは、イヤなのだーッ!!」
たいして変わんねぇ。

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成田”のぼう”長親役の野村萬斎。
どうやら小説化の前に彼のキャスティングは決まってたらしい。
ん!?
原作って巨体の持ち主じゃなかったっけ?
でも彼が演じる、のぼう様は素晴らしい。
腰の据わりっぷり、正確でしなやかな所作、それを踏まえた上で演じる不器用な男の役。
ひときわ目を引く撫で肩が、ガタイのデカい男たちの中で異彩を放つ。
「のぼう様が仕掛けた戦なら、助けてやらなきゃ仕方ないな!」
なんて領民が言うワケないだろ!
しかし彼が演じると、何の役にも立たない”でくのぼう”の決断に、みんなが命をかけて従うのもわかる不思議な魅力。
作品中の唄や踊りも、まるで彼のために作られたかのよう。
と思ってたら、エンドロールの振付師や作詞には野村萬斎の名が・・・
犬童・樋口両監督と一緒に宣伝に出まくってたのは、三人で作り上げた作品だからなんだね、納得。
・・・実は前々から思ってたんだけど流し目の上手さや漂う雰囲気が、
やたらとアッチ系や両方イケる系の人に見えるんだけど、違うよねぇ、この人。



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成田家筆頭家老の正木丹波守。
領内で唯一、のぼうのことを”長親”と本名で呼ぶ男。
家臣の中で最も武勇を誇る象徴として、朱槍を預かっている。
周りからは、”正木のじいさん”と呼ばれたりしてるけど、
佐藤浩市が”じいさん”と呼ばれる日がくるとは・・・
確かに昔は40歳を過ぎたら、”じいさん”と呼ばれてたらしい。
とすると、ぼくも来年からは”葛城のじいさん”となるんだな・・・ちょっとヘコむ。
騎馬にを駆っての一騎打ちに興奮!!


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左:酒巻靱負は、兵法書を読み漁ってるけど実戦で試したこともない自称毘沙門天の化身。
原作じゃ甲冑もブカブカの頼りない男だった気がするんだけど、
映画では超爽やかで茶髪の成宮寛貴。
月代剃ってる茶髪って、どうなんだろ?
右:柴崎和泉守は、”ナチュラル・ボーン・マッスル”のぐっさん。
明らかに『三国志』張飛益徳をモデルにしてのがわかるけど、
『レッド・クリフ』よりキャラの完成度が高かった。
籠城の際に打って出てきた時は、まさしく”長坂の戦い”を彷彿させる演出が素晴らしい!


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甲斐姫のエピソードだけで、映画一本製作できるほどある。
この戦いでも兵を引き連れて出陣し大活躍!
のエピソードも残ってる姫なんだけど、
そんなシーンが全くナシ!っていうのは映画としてモッタイナイんじゃない?

その上”東国無双の美女”という伝説もある彼女。
そのキャスティングに榮倉奈々ってのは、どうも違うんじゃねぇか?
イヤ、小娘に興味が無いってのもあるんだが、
その丸顔が、”カントリーマアム”にしか見えん!
うわぁ、言っちゃった!
ファンの人ゴメンなさい!
あくまでも個人的な趣味の問題です。

でも、ブレイク前の芦田愛菜ちゃんよりヘタクソって、どうやねん!


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「決壊させよっ!!」
このセリフを言いたいがために、戦を仕掛けた石田三成。
懸念のひとつだった、上地雄輔の三成は意外とイケる。
ただし、”若気の至りの三成”という前提で。
すでに30歳前後の頃だけど。
融通の利かない冷徹な人物に描かることが多い彼だけど、実際は領民たちに慕われる名君だった。
マジメすぎて人を疑わないために、いつも痛い目に合う不運の人。
最近では”義”を重んじる高潔な人物にイメージが変わってきた。


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左:大谷吉継役の山田孝之と、右:長束正家役の平岳大。
実はこの二人、『悪の教典』でも同僚役で共演してる。
最近の山田孝之って、どうでもいいような役ばかり選んで出演してる。
面白そうな出演作は、奈良県で公開されないのが悲しい・・・

2世俳優として期待してる平岳大。
イヤ~な奴の役を、上手く演じてる。
父親の平幹二郎を超えるイヤラシ~イ役者になってほしい。


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もともと忍城は、湖に囲まれた天然の要塞。
しかし2万の大軍でなら、いとも簡単に押し潰せる。
ハズなのに三成は初戦の敗北後、すぐに作戦を水攻めに変更する。
三成の考えというより、映画化の際に派手な演出をしたかった和田竜の都合と、
水攻めのスペクタクルを映像化したかった樋口監督の都合だな。


こんな勝ち目のない戦いに、長親がどのように応戦したかというと・・・



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大放尿♡

ウソです。

戦闘のカタルシスを超えるクライマックスを
ひとりで盛り上げた野村萬斎が素晴らしい!!

歌舞伎役者では絶対できない、狂言師ならではの表現方法。
彼を長親役にキャスティングした時点で、この作品の成功は決まっていた。


でも水攻めは、あくまでも兵糧攻め(城の周りを取り囲んで、水や食糧を補給させず飢餓状態の陥れる策)のひとつ。
日数がかかるので、籠城側も十分に高台へ避難する時間はある。
登場人物の性格上、決壊するまで領民に普段通りに暮らさせて、津波のような水流に巻き込まれさせるとは考えられない。
樋口監督が円谷プロに憧れてどうしてもやりたかったんだろうけど、
ここはツッコミながら観るシーンだな。


震災で津波の被害に合った人にとっては、
恐怖を感じるかも知れない。

しかし歴史や戦国時代が苦手な人には、時代劇の入門作として最適!
成田長親の物語はこれで終わりだけれど、石田三成の物語はこれから。
『のぼうの城』の続きとして、司馬遼太郎の『関ヶ原』なんか読んでみない?



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