2023年6月公開作品。
是枝裕和監督の最新作です。
カンヌ映画祭で脚本賞とクィア・パルム賞を受賞したことで話題になりました。
この先、ネタバレ有り、注意!!!!!
この作品、カンヌ映画祭でクィア・パルム賞を受賞したことが壮大なネタバレになっています。
クィア・パルム賞とは、LGBTをテーマにした作品に与えられる賞なのです。
予告編を観ただけでは、この作品がLGBTを扱っている作品であることは分かりませんし、実際に映画を観ると徐々にそれが明らかになるという構成でしたので、賞を与えるにしてももう少し配慮が欲しかった気がします。
映画は『羅生門』方式のフォーマットで物語が進んでいきます。
すなわち、同じ事柄をそれぞれ違う登場人物の視線で描いていくのです。
映画は雑居ビルの火事から始まります。
このシーンを起点として物語が展開されますので、火事のシーンは何度も繰り返されます。
一人目は母子家庭の母親の目線で物語が始まります。
母親を演じるのは安藤サクラさん。
小学生の息子が担任の教師から暴力を受けていると思い、学校を告発します。
二人目は担任の教師。
演じるのは永山瑛太さん。
訳も分からないまま暴力教師に仕立て上げられていきます。
三人目は小学生の息子。
この少年の目線でこの物語の真相が明らかになります。
二人目と三人目の間に校長先生のエピソードも短く描かれます。
校長先生を演じるのは田中裕子さん。
『羅生門』方式と書きましたが、本家の『羅生門』とは違い、真実は明確に描かれます。
中盤までは不快な描写が続くのであまり良い気分での観賞では無かったのですが、後半で真相が明かされていく辺りは興味深く観ることが出来ました。
とはいえ、真相にLGBTが関連しているというのはカンヌ映画祭でネタバレしているので、衝撃をうけることはありませんでしたが。
出演者の演技は本当に素晴らしかったです。
是枝裕和監督の作品はいつも役者が素晴らしいので、それだけでも観る価値があります。
脚本も賞を受賞するだけあり、良い出来でした。
ただ、担任の教師を子供達が追い詰める展開は若干説明不足にも感じました。
なぜ少年の友人が親から『豚の脳』と言わていたことを、あの教師が言ったことにしたのか、その理由が私には理解出来ませんでした。
それと、題名が『怪物』なのもイマイチ納得できません。
誰が怪物なのか、作中では明言していませんが、そもそも怪物が誰かというような内容の作品では無かった気がします。
『怪物』という題名に込められた思いは分からなくは無いのですが、この題名にしたことで怪物のような子供が悪事を働くサイコホラーと勘違いして観るのを止める観客もいるような気がします。
映画の中盤まではそのような映画と思わせるようなミスリードもありましたので、それを狙っての題名かもしれません。
ですが、せっかくの良い作品なだけに、もっとこの映画のイメージに合った題名が無かったのでしょうか。
『怪物』という題名から血なまぐさい作品を想像する人もいるかもしれませんが、そのような描写はほとんどありません。
いじめやLGBTの差別について描いているので、観ていて気分の良い作品でもありません。
それでも後味は不思議と悪くはありません。
ラストのとらえ方は観る人によって様々かもしれませんが。
あるいは、あの二人の少年は死んでいて、霊として解放されたのかもしれません。
そうでなければ、あの場にいたはずの母親や教師がいなくなっていることへの説明がつかないですから……。
是枝裕和監督作品が好きな方は観て損の無い作品だと思います。
坂本龍一さんの音楽も映画に合っていて、とても良かったです。