金牛宮 9.お見送りは寝台のうえで

―5月9日―

父のお見送りは寝台のうえで行われた。
父は体調を崩して病気を患い、病院で息を引き取った。
私は、父が息を引き取るところを看取っていた。
父の心電図がフラットになっていくところも。父の呼吸が少しずつ弱くなっていくところも。
父が息絶えていくところを、最後まで、すべて、目に焼き付けた。

――そうして、大切な人が死んでいくところを目に焼き付けたからだろうか。
私は、父を陥れたあの宝石商を宝石に変えた時、少しだけホッとした。
根も葉もないうわさで貶められ、身も心も衰弱しきって死んでいった父の姿を思い出した瞬間、私は父をそこまで弱らせた女に対する凄まじい憎しみを抱いた。
父が味わったのと同じ苦しみを味あわせてやれなかったのが残念だけれど、父の仇を討てたという事実は一時的に私の心を軽くした。

私は今でも、父の最期を夢に見る。
寝台の上で死んでいった父。その姿を、私は一生忘れることができない。
父はどれほど悔しかっただろう。どれほど辛かっただろう。
けれど、看取ってくれる人がいたことは、ほんの少しでも安らぎになったと思いたい。
私が最期を看取ったことが、少しでも父を安らかにできたと、そう願ってならない。

だから私は、もしも自分の最期を指定できるのなら、こう指定したいと思うのだ。
――まずは誰か看取る人が欲しい。そして、「お見送りは寝台のうえで」と。