正にギターアート。今現時点で、どれほどのデジタル機材を使っても創ることの出来ない、ダイヤモンドの結晶のような音楽。
新津章夫「I・O」



アーティスト: 新津章夫
タイトル: I・O

初めて聴いたのは、実はこのCDの再発でだったりします。初めてこのアルバムを聴いたときの衝撃は、もの凄いものでした。素晴らしい。ギターアート、ギター芸術。技術、ハート、アイディアどれをとっても世界レベルの方です。そして例によってあの感情が浮上してきました。

「日本に、こんな発想の人がいたのか!どうして無名のままなの?!もっとこの人の音楽を評価してあげてよ。坂本龍一クラスでしょ。どう考えても。。。今の世界中の若い音楽家にもっと新津さんの音楽を教えてあげてよ。。。」

素晴らしい音楽と出会った喜びと同時に、どうしてもっとプッシュしてくれないの?というもどかしさを感じました。新津章夫さんの音楽は、パット・メセニーや、ジョン・スコフィールド、ジミ・ヘンドリクス、ジェフ・ベックなんかと並べておかれても遜色の無いものであり、新津章夫さんの音楽が“実験音楽”や“現代音楽”というとても取っつきにくいジャンルに区分けされてしまている事を悲しまずにはいられません。

少し、新津章夫さんについてご説明します。1952年(昭和27年)8月19日に生まれ、2002年(平成14年)12月19日に亡くなられました。49歳というあまりに短い生涯でした。10代の初期よりギターを始められた様子です。J.S.バッハとジミ・ヘンドリクスが師匠だったそうです。(Decoyもそうなんですが、突き詰めるとこの二人に最終的に行き着いてしまうんですよね。)

新津章夫さんは、まさに音楽バカ=天才といえる図式の方です。このアルバムは1976年に制作が始まるのですが、一人で全部の作業をしたいという事で、ミキシング・コンソール
(1m×2mの大きさで、重量100kg、価格1000万円)を自宅に借りてきて、独学でその操作をマスター(借りる前にマスターするだろ。笑)、1年かけてこのアルバムを完成させるにいたった。これこそ、国宝です。国宝級の芸術家のあるべき姿です。良いものを創るためには躊躇しない。良いものを創るためには全てを捧げる。そして採算は考えなくて良いのです。Decoyが当時彼の、担当プロデューサーだったら、新津さんに、好きなだけつくってもらって後の面倒は全部引き受けた。お金はDecoyがなんとかする。ツアーもブッキングしとく。Decoyの一生をかけても、世界に認めさせたのに。。。(はぁーまさにDecoyは新津さんの才能にとことん惚れてしまている。)

ちなみに、この新津さんのアルバム「I・O」のジャケットは横尾忠則さんの手によるものです。通常、横尾さんは当時ジャケットの制作の場合800万円以上(サンタナのアルバム)くらいの料金だったそうです。当然、新津章夫さんのファーストアルバムという状況から鑑みてそんな制作費は無い。普通に考えると、どう考えてもダメ。。。しかし、天才同士同じ宇宙を見たようで、新津章夫さんの音楽を聴いて、有り得ない殆どタダのような料金で、引き受けてくれたそうです。

横尾忠則さんはいったそうです。

「この人の宇宙はすごいですよ。あなたの理解を超えたはるか先にある・・・」

多分、横尾さんも見てしまったんです。新津さんの扉の向こう側を。新津章夫さんが「I・O」で録音した表面ではなく、その先にある表現したい原風景や心象風景を。とにかくあなたも、まずこのアルバムを聴いてみてください。もしその風景が見えたなら、あなたともこの気持ちを共有できますから。こうやって感動を共有できる作品こそ、世界名盤道の求める音楽ですから。

さて、各楽曲に触れる字数がございませんので、総括的に書かせて貰います。このアルバム、基本的には全てギターの音です。それ以外の楽器はほんの僅か。全部新津さんの演奏です。しかもオープンリールというアナログ録音です。シンセもパソコンも無し。全部ローテク。ところが出てくる音楽はいわゆるギター音楽の枠を超えて、今までに聴いたことのない音楽を聴くことができます。コミカルでかわいらしい作品から、宇宙を感じる事が出来る壮大な楽曲まで、作風はとても幅広いものがございます。Decoyおすすめは、1曲目「Orange Paradox(オレンジ・パラドックス)」4曲目「From Eternity To Schaffausen Infomasion(未来永劫)」8曲目「Forst Of Maze(迷宮の森)」です。どれも超ロマンティックです。時折人間の心のなかに発生する感情の表現や、音楽のよる視覚的な状況表現を見事に成し遂げています。一度本当に聴いてもらいたいです。。。

最後に新津章夫さんからの現代へのメッセージです。

「いまにコンピューターで音楽を創る時代になる。そんな時代がやってきた時、ギター1本とわずかな楽器で、こんな馬鹿な音楽を創っヤツがいたって笑ってもらいたいんだよね。でも、その未来のミュージシャンたちにギターと多重録音だけで、このアルバムと同じ音は絶対に作れっこないという自身はあるけどね。」

別に、音楽に限った事ではないですよね。要するに、機材で負けても自分のブレインとハートとテクで負けないよっていう宣戦布告ですね。コンピューターで仕事をするDecoyにも身につまされる言葉です。Decoyも決して負けないように、ウェブプロデュースを精進します。それでは。