2時間目の刑法・刑事訴訟法は、時間のかかる刑法から先に解きました。刑法は、例年に比べ登場人物が少ない(甲・乙の2人)のが印象的でした。

 

甲は、同じような手口で2度同じ人を殺害しようとする、本当にひどいヤツです。医師のくせに致死量間違うとか、ありえないです。ぜったい有罪にしてやると思いながら書きました。罪数はたいした理由もなく吸収としてしまいましたが、ワイン発送と注射指示が3日間隔が開いていることから、併合罪とする可能性もあると思います。ちょっとでもいいから論じるところでした。

 

乙に成立する犯罪は、これでいいのか自信がありません。「業務」の意義は過去の司法試験で問われているので落とせないところだと思います。文書偽造罪はある程度予想していたものの、虚偽診断書作成罪なんて一度も検討したことがありませんでした。犯人隠避は全く浮かびませんでした。まだ捜査も始まっていないのに成立しようがあるんでしょうか。

 

 

第1 甲の罪責について
1 殺人罪について(ワインを送った行為)
(1)甲が劇薬X入りのワインを宅配便でV宅に送った行為について殺人罪(199条)が成立しないか。
(2)「人を殺」す行為とは、人の生命侵害の現実的危険性のある行為をいう。甲は劇薬Xの致死量を勘違いして、致死量に満たない8ミリリットルの劇薬Xを注入していることから、不能犯が成立しないか。
 不能犯が成立するかどうかは、一般人が知り得た事情及び行為者が特に知っていた事情を基礎として、一般人が結果発生の危険があると判断するかどうかを基準とする。
 本件では、甲はVの心臓に得意な疾患があることを知っていたから、判断の基礎に取り込まれる。また、Vがワイン好きで、気に入ったワインであれば2~3時間でワイン1本(750ミリリットル)を飲みきることを知っていたから、判断の基礎に取り込まれる。さらに、V宅に送付されたワインに8ミリリットルの劇薬Xが入っており、甲の主観では致死量の2倍であることから、判断の基礎に取り込まれる。
 これらの事情を元に一般人が判断すると、致死量の2倍が入ったワインを、Vは2~3時間で飲みきってしまい、心臓の得意な疾患が元で死に至る危険性があると判断する。
 したがって、不能犯は成立しない。
(3)では、殺人罪の未遂(203条)とならないか。未遂かどうかは、結果発生の現実的危険性が発生したかどうかで判断する。
 本件では、劇薬Xが入ったワインは、V宅に到着したが、Vが不在であったため不在連絡票が残されている。たしかに、Vは不在連絡票に気づいていない。しかし、Vは一人暮らしであり、近いうちに不在連絡票に気づく可能性がある。そして、劇薬Xはワインに混入してもワインの味やにおいに変化を生じさせないことから、不在票に気づいたVがワインを飲んでしまい、半日後に死に至る危険性が発生しているといえる。したがって、殺人罪の未遂が成立する。
(4)甲は、Vが別れ話を拒否したことから、Vを殺害するしかないと考えており、故意もある。
(5)以上より、甲に殺人罪の未遂犯(199条、203条)が成立する。
2 殺人罪について(劇薬Yの注射を指示した行為)
(1)甲が、乙に対し、VにB薬を注射するよう指示した行為について、殺人罪の間接正犯が成立しないか。
(2)間接正犯の成否は、①他人の行為を持って自己の犯罪を実現しようとする意思と、②他人の行為を一方的に支配すること、で判断する。
(3)本件では、甲は、乙に劇薬Yを注射させてVを殺害しようとしている(①をみたす)。また、甲はA病院の内科部長であり、内科に勤務する乙に対して指揮命令できる関係にあった。また、甲は、乙のA病院への就職を世話したことがあり、乙が甲に恩義を感じていることを知っていたことから、乙であれば甲の指示に忠実に従うと考えていたことから、乙が患者に注射する行為について甲が一方的に支配していたといえる(②をみたす)。
(4)そうすると、甲が乙に対し「VにB薬を6ミリリットル注射してください」と指示した行為により、乙がVに劇薬Yを注射し、乙が死に至ったのだから、甲に殺人罪の既遂罪が成立するとも思える。
 もっとも、乙は注射器の中身を確認せず注射しており、過失があることから、甲の行為とVの死の間に因果関係がないのではないか。
 この点、因果関係があるかどうかは、行為の危険性が現実化したかどうかで判断する。また、本件のように介在事情がある場合は、介在事情の寄与度と、介在事情の影響度を加味する。
 本件では、たしかに、Vに注射された劇薬Yは致死量に満たない量であったが、特異な疾患のあるVにとっては死亡する危険のある量であった。
 この危険が現実化したといえるか。介在事情は、乙の過失である。たしかに、医師である乙としては、甲から渡された容器に薬剤名の記載がないことに気づいたにもかかわらず、その中身を確認しないままVに劇薬Yを注射した点において刑事上の過失があり、Vの死という結果に対しての寄与度が大きい。しかし、それは、内科部長であり、恩義を感じている甲からの指示により行ったものであり、甲の影響のもとになされた行為であるから、介在事情への影響度が大きい。したがって、行為の危険性が現実化したといえ、因果関係がある。
(5)甲は、Vが生きていることを知り、劇薬Yを注射してVを殺害しようと考えており、故意もある。
(6)以上より、甲に殺人罪が成立する。
第2 乙の罪責について
1 業務上過失致死罪(211条前段)
 「業務」とは、社会生活上の地位に基づいて反復継続して行う事務で、人を死傷させる危険のあるものをいう。医師が注射する行為は、薬剤の分量を間違えたりすると人を死傷させる危険があるので、「業務」にあたる。
 そして、薬剤の容器の中身を確認しないという「必要な注意を怠り」、Vを死に至らしめたのだから、業務上過失致死罪が成立する。
2 文書偽造の罪
(1)乙は公務員でないため、虚偽公文書作成罪(156条)は成立しない。
(2)虚偽診断書等作成罪(160条)について
 乙は「医師」である。また、死体検案書は、市役所に提出すべき文書であるため「公務所に提出すべき・・死亡証書」にあたる。また、乙は、死因について、熱中症による多臓器不全のため死亡した旨の「虚偽の記載」をしている。
 乙は、甲に刑事責任が及ばないようにしたいと思い虚偽の死因を記載しており、犯罪の故意もある。
 したがって、甲に虚偽診断書等作成罪が成立する。
第3 罪数
1 甲に殺人未遂罪(199条、203条)と殺人罪の間接正犯が成立する。これらは同一の法益主体に向けられた行為であるため、前者が後者に吸収される。
2 乙に業務上過失致死罪と虚偽診断書等作成罪が成立する。これらは併合罪(45条)となる。

以上

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