最強の魔法 3
開始時間はかなり押していたはずなのに、撮影は今までにないほど順調に進んで予定通りの時間に終了した。こんなにも撮影が終わってほしくない思ったのは初めてだった。
「クオンはまだお仕事のこってるの?」
「・・・うん。キョーコは?」
「私はもともと代理だし。これで終わりよ。テンちゃんはまだ終わらないからもう暫くは此処にいるけど。・・・また会えるよね?」
「うん、今度は家に遊びにおいでよ?それに電話もして?俺も電話するし。」
憂鬱な撮影のためにキョーコとここで別れなければいけないのが辛かった。けれども、次の現場にキョーコを連れて行くわけにもいかなかった。それなのに、俺たちの会話を聞いていたテンさんはいとも簡単にのたまってくれたのだ
「あら。一緒に行けばいいじゃない。久しぶりに会えたんだしもう少し一緒にいたいでしょ?」
「えっ・・・でも。関係者じゃないと、現場には・・・」
「そうねぇ。・・・でも兄妹ならいいんじゃない?妹さんがお兄さんの現場見学。いいじゃなぁい!」
テンさんがノリノリでキョーコの衣装とメイクを整えて、現場への連絡まで済ませてしまった。何とか思いとどまって貰おうとしたのだが、問答無用で、送迎用の車にあれよあれよという間に二人そろって放り込まれた。車内は微妙な空気に包まれてしまって沈黙が続いた。その沈黙を破ったのはキョーコが先だった。
「クオン、やっぱり迷惑だった?」
「ううん。そんなことないよ?・・・ただ・・・・」
遠慮がちに尋ねられて慌てて否定したけど、迷惑ではないが来て欲しくなかったのは事実だ。この次の現場はきっとキョーコを不快にさせるだろう。偉大な父によって、俺はまともに演技をさせてさえ貰えなくなっていた。必死になればなるほど、空回りするばかり。今日の現場だってまだ降板させられてはいないものの、この調子でいけばいつ首を切られてもおかしくない所まで既に来ていた。黙り込んでしまった俺をキョーコは心配そうに見ていたが、特に追求することはしないでくれた。安心させるように微笑みかけて、その後は、たわいもない話で終始した。
「ああ、やだやだ。親の七光りで大した実力もないくせに女連れだぜ。」
「さすが有名人の息子様様だよな。」
「まーまー。所詮親父の真似するくらいしかできない能無しなんだから仕方ないって。」
現場に入った途端にこれ見よがしに叩かれる陰口を聞いていられなくて早足で撮影所の中を進んでいく。
「・・・・コーン!!」
鋭い声で、昔の呼び名で名前を呼ばれて慌てて立ち止まった。キョーコの存在を忘れるなんて俺は最低だ。彼女は、俺が守ってあげなきゃいけないのに。ゆっくりと振り返ると少し離れた場所で腰に手を当てて仁王立ちして唇を尖らせたキョーコがいた。
「・・・速いよ。歩くの。」
彼女のそばに戻ると拗ねたようにつぶやかれて、素直に謝った。そんな俺に彼女は小さく首を振り手を差し出して微笑んだ。
「ううん。・・・だからね。・・・手、つなご?はぐれちゃったら迷子になっちゃうよ?」
「・・・・うん。」
素直に手を取りをそっと握るとぎゅっと握り返された。暖かい小さな手に包まれて俺はほっと息をついた。
「さっ。芸能人はあいさつが基本なのよね?まずは監督さんよね!行くわよー!」
気を取り直したように、にぱあっと笑って俺の手をぐいぐい引っ張っていく。
「・・・キョーコ?」
キョーコの変わり身の早さについていけない俺は呆然と引かれる儘に付いて行く事しかできなかった。