「早い!!」
1曲目の出だしからリズムが早い。コンサートの最初の曲はだいたいアップテンポのものが選ばれるがそれにしても刻むペースがいつもよりスピード感がある。
ステージの音に触発されるように手拍子が客席からおこる。
2曲目で達郎さんは客席をゆっくり見渡す。1階、2階、3階、4階。首をゆっくり回し目線を上下させる。心に宿る感慨をかみ締めている。あの大阪フェスティバルホール建替えによる閉館のときのような意味ありげな表情が見てとれる。
そして、演奏に乗って達郎さんのMC。
「こんばんわ! いわき!!」
拍手、また、拍手。
「1年7ヶ月ぶりの福島です。いろいろ、お悔やみを申し上げるところでしょうが、私は音楽をやっている人間ですので、音楽で癒しを与えられるようにと思ってやってきました。うちのミュージシャン、照明、PA、トラックドライバー、すべてのスタッフがいいコンサートにしようと思いを込めてやってきました。今日は1年7ヶ月前の郡山(2010年8月25日、郡山市民文化センターでのコンサート)を超えるように、頑張ってやっていくんで、どうぞ、ヨロシク!!」
やっぱり達郎さん、気合が入っているなあ。ステージ上でバンドメンバー以外のスタッフを読み上げるときはだいたい千穐楽なんですが、まだ12公演残っている時点で裏方の職種を言ってくるのは、やっぱりいわき公演に期するところがあったのでしょう。
演奏は出来がいい、というより、気合が音に宿って熱い響きがする。お悔やみを言葉にすることよりも、もっと雄弁な励ましの音がアリオスに響きこだまする。丹精で完成度の高さが際立った仙台のときとは、また一味違う熱い音がする。最初のMCで語った決意が音に、歌声に乗り移っている。達郎さんのコンサートを見るのは通算15公演目だが、明確に観客に勇気と元気を与えようとした音は今回のいわきだけだ。いや、こちらが格好つけて聞いているせいでこんなことを考えるのだろうか?
でも還暦前のオジサマが披露するコンサートの流れはいつもと変わらない。
「トイレから戻ってきましたねえ。こういうのイジるの大好きなんですよ」
「そんなに笑ってくれて嬉しいですよ。大角膜痛いでしょ。たまにはいい運動ですよ、ウ、フ、フ……」
今日のオジサマは絶好調ですね。達郎さんが「今日は大人のお客様ですね」、といったいたように、場内が落ち着いた雰囲気を醸していたが、話を遮る無駄な掛け声がいっさいかからないのでとにかくしゃべりやすいみたいだ。
ステージのリズム感も最高、MCも矢継ぎ早にとばす。音楽と話のペースが一緒で乱れない、こんな日のコンサートは、当たり、です。そして、達郎さん途中のお約束コーナーの1曲目でもまた観客をぐるりと見渡した。
(自分の声、客席に届くかなあ?)
福島のお客様をとことん気遣っているように見える。いつにもまして音楽を届けることに徹しようとしている。それが“ガラパゴス”という気がする。達郎さんがステージで言い放つ“ガラパゴス”は、ずっとステージでワンパターンを恐れずやり続けてきた作法といったことでしょう。“ガラパゴス化する”といえば、いかに他のミュージシャンと差別化して激変する音楽業界に生き残るか、という自覚を言い表したもの。でも頑ななほどに自分のやり方にこだわってホールツアーをしこしこ回ること自体“ガラパゴス”って呼んであげたい。絶対、他のコンサートでは味わえない“ガラパゴス”が繰り広げられているのだから。
で、お約束コーナーの2曲目。声、3階にも届きましたよ。客席の拍手、やっぱり盛大でしたねえ。
そして賑やかしコーナー前のMC。
「今度は福島ではどこで演るかわかりません。いわきかもしれないし、郡山に戻るかもしれない。なんなら、いっそ南相馬で演ったっていい。どこえでもいきますから。電力事情が悪いならアカペラ(この場合は無伴奏ということか)で歌ってもいい。ステージに暗幕を下ろしただけ(の舞台セット)でもできますから。
いずれにしても、福島には、必ず、また来ます!!」
嬉しかったでしょうね、福島に住んでいる方にこの言葉は。
今回、達郎さんが
“原発”
とか
“放射線”
といった言葉を使ったのか記憶が曖昧だ。それに、ことさら深刻な空気を醸してお悔やみを述べることは達郎さんは一切しなかった。してもおかしくないのにしなかった。ここで書いた達郎さんがいった励ましの言葉も、まるで音楽の一部のように聞こえてくる。平易なことばで、励ましの音の一部として観客の心に染みてくる。頑ななほどに音楽を届けようとした男から零れ落ちたいたわりのことばが胸に届いてくる。
達郎さんは、御自分をスターじゃない、とおっしゃることがある。千年に一度の大災害に、他の有名人なら目に見えるかたちで支援やボランティアをする人が大勢いた。でも、この音楽職人は意固地なほどに、目立つことを拒むようにいつものようにホールを回るコンサートツアーを開いた。いつものようにしゃべり、ギターを弾き、そして大声で歌った。いわきに集まった1700人のファンのためだけに歌を届けることに頑固なほどこだわった。名誉はいらない、と虚飾をすてて、福島の蒼氓のためにいつものコンサートを繰り広げた。でも零れ落ちる被災地への労わりと励ましの音。それに呼応したバンドの響き(この日のMVPはドラムの小笠原さんとサックスの宮里さん。前者のソロは白熱の度合いが半端なものでなく、後者の音像は心地いいほど高らかだった)。
あとは怒涛の賑やかし。ここから達郎さんの声が一段と響いてくる。そしてアンコールは、やっぱり2曲目のノリとお約束が最高だったし、3曲目はリズムがとんでもなく早い。もしかしたら、嬉し涙を流している人もいただろうな。
22時5分、終演。公演時間3時間30分。外はまだ雨。いわきの交通事情と宿泊事情を考えれば限界ギリギリまでコンサートをしてくれた。徹底して自己流にこだわったいわき公演は終わった。観客のみなさまは堪能したといった表情をして帰宅の途についた。言葉よりも雄弁な音楽、励ましよりも染みる歌声、山下達郎の“ガラパゴス”をいわきでじっくり味わった。ちょっと、忘れられないものになりそうだ。
最後に、達郎さんがコンサートの最後に話した言葉を書いて終わりにします。ここは福島のみなさまのみに読んでいただければ幸いです。もし、これからコンサートに行かれる方はお読みいただいたらお忘れいただければありがたいです。
いつもはここで、通りいっぺんのことを申し上げているのですが、
ここ(福島)では、なんと言っていいのか解りません。
今、日本は大変な状況です。
でも、僕たちは、それでも生きていかなきゃいけません。
子どもたちの未来のために、生きていかなきゃいけません。
だから、好きな言葉じゃないけどこの言葉しかありません。
みんなで、頑張っていきましょう!!