二十、気を抜く

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林太郎です。

ご愛読ありがとうございます!




司馬遼太郎の著書『竜馬がゆく』の中で、京の四条を歩いていた竜馬と、竜馬と同塾の安岡金馬、千屋寅之助が新撰組の市中巡察隊(土方歳三率いる13名の隊士)とすれ違う物語が挿入されています。



この挿話の真偽のほどは定かではないにしても、僕は、この挿話が武士道の真髄に触れるものであり、また、僕自身が誤解していた護身術の真髄を諭すものとしてとても気に入っています。




ご存知ない方のためにこの物語を簡単にお話しますと、時は幕末、明治維新がもう間もなく起ころうとしている緊迫した情勢の中で、京の町は幕府(国家)に反発する浪士を取り締まる新撰組(現在の警察)がそこかしこに目を光らせていました。



この時期の新撰組には絶大な権威が与えられていて、巡察隊の隊列を横切るだけでも斬り捨て御免が許されていたほどで、浪士達は新撰組をみれば身を隠して避けて通るのが当たり前になっていました。



そんな折、竜馬とその弟子の二人が京の細い路地で新撰組の隊列に出会います。当然のことながら竜馬は新撰組に目を付けられていましたし、先頭を行く土方歳三には目の前の人物が坂本竜馬であることが認識されていました。



竜馬も相手が新撰組であることを知っています。それなのに竜馬はわざわざ新撰組の隊列に近づいていきます。



さて竜馬はどうなってしまうのか?!





ここで竜馬が取った行動が、この物語を読んでいる僕の背筋をスッと伸ばして武士道の何たるかに眼を拓かせてくれるのですが、その行動は鮮やかで美しくさえありました。



弟子の二人は竜馬の側で緊張して震えています。その弟子達に竜馬はこう言って隊列に近づいていくのです。



「ひとつ剣の妙機をおしえてやろうか」



巡察隊の隊士達は近づいてくる竜馬を前にして剣を抜き臨戦態勢に入ります。と、土方歳三の横にいた剣の天才と言われた沖田総司が土方歳三に耳打ちします。


「あの男は、斬れませんよ」



それを聞いた土方歳三は言います。


「ではおれが斬ってみせようか」




かくして、新撰組と竜馬は真っ向から対峙することになるのですが、竜馬は隊の先頭から10mほど手前で突然足取りを変えて、路地に背を丸めて眠っている子猫をひょいと抱き上げて、子猫をあやしながら隊の中央を堂々と横切って通り抜けてしまったのです。



竜馬の意外な行動に隊士達は気を呑まれてしまい、呆然として竜馬を見送るしかできませんでした。沖田総司が土方歳三に言います。


「ね、そうでしょう。あれは斬れませんよ」




このあと、竜馬の側に戻ってきた二人の弟子に竜馬が語ります。



「ああいう場合によくないのは、気と気でぶつかることだ。やる・やる、と双方同じ気を発すれば気がついたときには斬りあっているのさ」



それを聞いて弟子が聞き返します。


「では、逃げればどうなるんです?」



「同じことだ、やる・逃げる、と積極、消極の差こそあれ、おなじ気だ。この場合はむこうが無性やたらと追ってくる。人間の動き、働き、の八割までは、そういう気の発作だよ。ああいう場合は、相手のそういう気を抜くしかない」




最後に、気を抜かれた土方歳三が言います。


「われわれの気を一瞬に融かして行ってしまった。ごらんなさい。われわれの仲間の人相が、一変してしまっています。みな、子供にでも寄りつかれそうに、なごやかな顔になってしまっている」







さて、この物語の中で竜馬が弟子達(つまり読者)に伝えたかった"剣の妙機"とは何だったのでしょうか?



それは言わずもがな、



闘って勝つことや強さをひけらかすことではなく"危険を避けて通る"


ということでした。



これは護身術の真髄です。




闘うことも逃げることもせず、第三の方法を取ることによって余計な争いを避けただけではなく、争いの種をも抜き取ったのです。



こんな妙技は簡単にできるものではなく、僕ならつい感情が先立って冷静な判断などできなくなってしまうとおもいます。



事実、稽古で組手をすればすぐに相手を打ち負かしてやりたくなりますし、日常の中でも痴話喧嘩になるか喧嘩から逃げるかのどちらか二者選択しか頭にはないのです。



そんな僕だからこそこの挿話に惹きつけられてしまったのかもしれませんが、竜馬が教えてくれた妙機というものを磨いていきたいとおもいました。




最後に余談になりますが、



沖田総司が、近づいてくる竜馬をみて「あの男は、斬れませんよ」といった場面。格好いいなあとおもいます。



この感覚は自分を極めていてこそ受け取れる感覚です。こういう感覚を受け取れるような武の道を極めていきたいともおもいました。




以上

河辺林太郎でした。





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