GK東口順昭が怪我で得た割り切り。「絶対止めなあかん」が強すぎた?


嫌な予感もよぎったが、3週間で復帰。

 またか。

 接触を厭わない積極的な飛び出しは、東口のウリ。しかしケガという代償を支払わされるときもある。昨年もホームのFC東京戦(3月11日)、PKをストップしてこぼれたボールを抑えようとしたところで相手と衝突。

 左頬骨を骨折して、日本代表のメンバーから外れることになった。

 今回は、嫌な予感もあった。昨年は頬骨だけだったが、眼窩底骨折はアルビレックス新潟時代に経験して2カ月以上の離脱を強いられている。

 「ケガをしたときに新潟のときと同じ症状が出ていたので、やばいかもな、と。でも手術をして2、3日後にその症状が収まったんです。見え方に影響はなかったので、去年と一緒ぐらいの期間でいけるんかなと思うようになりました」

 昨年とほぼ同じ3週間での復帰。流動食の影響で落ちた体重やプレーの感覚を取り戻していくとともに、自分と向き合う時間にもなった。

「入れられても仕方ないぐらいの割り切りも必要」

 「ケガをして(チームから)離れて、一歩引いて自分を見てみたんです。チームの結果が出ていないこともあって“絶対に止めなあかん”という気持ちが強すぎていたんやないかと。それで取れへんこともすごくあったなって気づいたというか。あれもこれもって考えていたら、自分のプレーもあまり良くなかった。

 力が入って絶対に止めてやろうとなると、どうしても硬くなる。自分を追い込んでしまうと、どうしても硬くなる。もちろん、その強い気持ちは持ちながらも、もう一方では入れられたら入れられたで仕方ないぐらいの割り切りもやっぱり必要やなって」

 彼は目指す姿として「勝ちに持っていけるだけの存在感」と語ったことがある。その考え方にも変化が生じていた。

 「マリノス戦は試合の期間も空いていて緊張もしていたし、不安もありました。今まではチームを勝たせようなんて大それたことをどうやったらできるかって考えてましたけど、まずは自分のプレーをどんだけやれるか。

 自分にできることだけをやろうとした結果、うまく試合に入ることができました。それがひいてはチームのためになるんやなってあらためて思うことができたし、マリノス戦でいろいろと感覚をつかむことができたんです」


フェースガードは新しいヒガシの象徴に。

 チームが置かれた状況など外的要因に左右されず、自分自身にフォーカスしていく。それがひいては「勝ちに持っていけるだけの存在感」に向かうことにも気づいた。アプローチを変えても、その目標に届くということを。

 積極性と割り切りを携えて、ゴールマウスにそびえ立つ。なるほど大きく見えるのは、何となくの“心なし”ではなく、その道理をつかんだ“心あり”だからこそ。

 いち早く復帰したかったのは、何も日本代表にアピールするためではない。ケガをしたことで得た感覚を、できるだけ早くプレーに落とし込みたかったからにほかならない。マリノス戦は1-1で引き分けたとはいえ、前途に光明を見いだすことができた。

 フェースガードは“新しいヒガシ”の象徴になっている。

 「身に着けていても、見え方とかも問題はないです。むしろ安心感が出るんで、思い切ってプレーできる。当分は着けておこうかなって思っています」

 川のように、柳のように。

 流れを読みながら、流れに身を任せながら、的確に、確実に。

 フェースガード越しから見える視界は、極めて良好である。