娘が孫娘1とともに我が家に出戻ってきたのは、孫娘1が小学校に入る寸前の1月だった。
その時の娘は通訳のアルバイト収入くらいしかなかった。でも私は、義務教育にかかるお金は皿洗いしてでも払うように言った。それが親としての最低限だと思ったから。
入学前にはいろいろお金がかかる。体操着や上履きなどを買ってきた娘は、半袖の体操着が2千数百円もする、高いよねえ、とんでもないわとぶつくさ言っていた。
一年生と二年生は、その体操着に大きなゼッケンをつけてクラスと名前を書く。それが三年生になると、小さな布製の名札に代わるのだった。
ある日娘がいないとき、孫娘が私に小さな声で、「おばあちゃん、体操着の名前、三年生から変わるの、小さいのになるんだけど」と言う。
私は娘たちの時を思い出して、すぐに制服などを扱う用品店に行き、50円で売っている縫い付け用の名札を買ってきて付け替えた。
「準備できたからね、これで大丈夫だから」と言うと、孫娘は、
「これどうしたの、新しい体操着買ってきたの?」と不安そうに言った。
体操着ごと買い替えるのかと思ったようだ。
ああ、娘が体操着が高いと言っていたから、小さいながらもお金がかかってお母さん大変なんだなと思ったのだろう。二年も前のことなのに、忘れていなかったんだなと、涙が出そうになった。
ーーー学年が変わるころになると、そんなことを思い出す。
今娘は語学を生かして外資系企業(英)の正社員として働いている。孫娘もまた、今月から外資系企業〈独)の正社員となっている。
二人ともよく頑張ってきたと思う、桜満開の日の老女の回想。