
13日の夜は満月だったが、あいにく曇り空で月を見ることはできなかった。
上の写真は、田舎の我が家の中空に浮かぶ12日の月。
そして、2枚目の写真は大阪のマンションから見えた14日の月。
秋も終わりが近づいている静かな山の中です。
いつものように山の仲間たちが遊んでいると、峠を超えて、痩せた弱々しい一人の老人がとぼとぼ歩い
てくるのが見えました。老人は、とても疲れて、お腹を空かせているように見えました。
「お坊さんかな?」熊が首をひねりました。
「ずいぶん長い間歩いてきたようだね」猿が言いました。
「身なりはよくないけれど、やさしそうな顔をしているよ」狐が言いました。
すすきの繁みの中では、小さなウサギが黙ってその老人を見つめていました。
ウサギは小さくて身体も弱いので、いつもみそっかすでした。
「もしもし、おじいさん、この山を超えるのは大変ですよ。今夜はここでお休みなさいよ。今、岩を転が
して、座るところを作ってあげますからね」
熊が老人に声を掛けました。
「そうですよ。そのような薄着では寒いでしょう。僕は薪を集めてきてあげます」
狐がさっと駈け出していきました。
「それでは、僕はのどの渇きを癒す果物を探してきましょう」
猿が気を登り始めました。
老人は、何度も頭を下げて、動物たちに感謝しました。

小さなウサギは、その様子をすすきの繁みの中から見ています。
やがて、老人は岩に腰掛け、ぱちぱちと暖かい炎が上がる焚き火の前で、果物をおいしそうに食べ始め
ました。その様子を満足げに見ていた動物たちは、繁みの中でじっとしているウサギに気が付くと、口々
に文句を言いました。
「おまえはいったい何をしているんだ」
「みんながこうして役に立とうとしているのに」
「そんなところに隠れているなんて」
ウサギはそっと目を伏せて小さな声で言いました。
「私には何もできませんが、どうぞ私の肉を召し上がってください」
ウサギはパッと飛びだすと、燃え盛る焚き火に飛び込んでしまいました。
「ウサギよ、お前の気持ちはとても尊いものだ」
次の瞬間、老人は神々しい光に包まれて、ウサギの魂を抱いていました。老人は、仏様だったのです。
仏様は、ウサギを哀れに思い、空に浮かぶ白い月に上げてやりました。
だから、今もウサギはお月様にいるのです。
「まひるの月を追いかけて」恩田 陸 ㈱文藝春秋(文春文庫)より
今日の一言メッセージ
生きているうち はたらけるうち 日のくれぬうち みつを(相田)