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母子(もうし)の村に数軒残る藁ぶき屋根の家


山鳩 一郎  21歳の夏に


いなかの星都会の星(奨学生新聞掲載)

いなかには星が多い。いなかには本当の静けさがある、平和がある。私はその夜、そう書き始めました。

そしてその夜は、そんな平和に身をまかせて、ペンを落としたまま夢を見ました。

 朝、朝も静かで平和でした。

 昼、そして昼過ぎ、私はいらだちを感じ始めました。そこにはたしかに平和があります。静けさがあり

ます。でも・・・、でも何かがない。あの何千何万という雑踏の靴音がない。地下鉄の、電車の、自動車

の、あの響きがない。あのうるさい(大阪ではそう感じていた)あのうるさい音がない。活気がないの

だ!

 夜、私は友達と連れ立って盆踊りに出かけた。年ごとに盛大になるデカンショ祭り。そこには平和があ

り、そして活気もあった。でも・・・。でもそれはやっぱりまやかしの活気でしかなかった。午後十一

時、そこにはもう活気のかけらもなかった。静けさはよみがえった。大きな花火のかわりに無数の小さな

星は、よみがえった。泰然たる平和はよみがえった。でも、私にもう一つの平和は帰ってこなかった。

 翌日、私は大阪へ引き返した。なるほど大阪には星が少ない。だがないのではない。一つ、二つ、三つ

見える。スモッグを通して見える。私はいなかで見るあまりにきらめく無数の星に劣らず、二つ、三つの

星が好きだ。大阪にも静けさがないわけではない。そこには明日のエネルギーを貯えて息吹くもう一つの

静けさがある。朝が来れば、それは活気となって町にあふれるだろう。

 何も私はスモッグが、町の雑踏が好きなのではない。そしていなかの静けさがきらいなのではない。む

しろ、それは正反対だという方が正しいだろう。ただ、今までとは違ったいなかと町を発見した。私は今

度の帰省に、なにかいつもとは違う感情を抱きながら帰った。

 私はおそらく一生を都会で暮らすだろう。就職の内定した今、初めて故郷を違った角度から見ることが

できた。それは今まで三年半何の感情も持たずに過ごしてきた大阪をむりやり好きになろうとしている姿

かもしれない。しかし今はそんなことを問うまい。私が都会を選んでよかったかどうかという答えは、こ

れから私自身が回答していかなければならないのだから。



今日の誕生花

8月3日     薔薇(ばら)   花言葉→愛情