「11月24日」は、偉大な女性歌手バルバラ(1930-97, 本名モニック・セール)の「命日」となります。それも、今年は、「没後20周年」の「記念の年」に当たります。ですので、今月は、可能な限り、このバルバラの名作を紹介していきたいと思っています。
テーマが「バルバラ」となっている記事の一覧を貼っておきます(実際には、他のテーマでも紹介している曲が何曲かあります)。
https://ameblo.jp/daniel-b/themeentrylist-10097047678.html
今回ご紹介する曲は、前回の「予告」の通り、1972年11月に発売されたアルバムの「タイトル曲」でもあります、「amours incestueuses "不倫"」という「大傑作」です。
当時のバルバラは、「創作面」において、まさに「絶頂期」にありました。その、溢れんばかりの「情熱」は、どの作品からも感じられる、大変「充実」した時期であったと思います。
その「頂点」とも言うべき作品が、この曲、「amours incestueuses "不倫"」なのです。
この11月の「バルバラ特集」は、まず、1968年の「大傑作」、「le soleil noir "黒い太陽"」から始めていますが、今回のこの曲は、それと「並ぶ」と言ってもよい、まさに、「最高傑作の1つ」にも数えられる名作です。
この曲のタイトルにある「incestueuses」という言葉は、これだけで、「肉親同士の愛」を意味します。バルバラは、その「未完」の自伝の中で、「衝撃の告白」をしていますが、この歌の内容自体は、まったくの「フィクション」です。ただ、その「さまざまな想い」が、「1つ」になって、この、「激しい」曲が生まれたことは、「否定し得ない」ことだろうと、私は思います。
ただ、この曲は、1974年の「ヴァリエテ座」公演を最後に、主だった公演では歌われなくなってしまいました。やはり、その「内容」ゆえのことかと思われますが、「カリスマ的」人気を誇った「1980年代」以降に、ステージで聴く機会が失われてしまったのは少し残念です。
このアルバムの翌年に発表されたのが、フランソワ・ヴェルテメール(1947-)と組んだ、あのアルバム「la louve "雌狼"」(日本発売時のタイトルは「黒いデッサン」)ですが、このアルバムも、それに負けず劣らずの「意欲作」であると言えます。
特筆すべきは、その「作家陣」です。もちろん「メイン」はバルバラ自身ですが、このアルバムでは、まず、エティエンヌ・ロダ=ジル(1941-2004)が、アルバムの2曲目、「le bourreau "死刑執行人"」の歌詞を書いています。また、「printemps "春"」(昨年3月30日付けの記事内で採り上げました)は、ルイ・アラゴン(1897-1982)と並び称される大詩人、ポール・エリュアール(1895-1952)の詩に、バルバラ自身が曲を付けたものです。
ヴァイオリン奏者でもある、ユニークな女性歌手カトリーヌ・ララ(1945-)も、2曲、「作曲」で参加しています(「accident "出来事"」「clair de nuit "夜の輝き"」)。
せっかくなので、彼女の代表作の1つ、「nuit magique "魔法の夜"」(1986)をどうぞ。
加えて、1967年の、「la dame brune "ブルネットの婦人"」以来の「共演」となる、ジョルジュ・ムスタキ(1934-2013)とのデュエット、「la ligne droite "いつか戻り来る人"」もまた「名曲」です。詞はムスタキが書き、曲は、それぞれ、自分の歌うパートを、自分で作曲しています。
まずはお聴きください。
この曲も、また正式に紹介する機会があれば良いな、と思っています。
バルバラ自身の詞・曲による作品でも、この「amours incestueuses "不倫"」の他、「Remusat(les saisons) "レミュザ(季節)"」、「perlimpinpin "ペルランパンパン"」という名作があります。後者のタイトルは、ここでは、「公園などの露店で売っているもの」を指していますが、一方で、「まやかし」などを意味する言葉でもあり、「子ども」に対する「暴力」を「非難」する、とても「重い」歌となっています。後年のライヴでは、「オープニング」として、「短縮版」でも歌われました。
1987年、シャトレ劇場公演の「オープニング」からです。
参考までに。こちらは、「アルバム全曲」です(約32分)。
1.amours incestueuses 不倫
2.le bourreau 死刑執行人
3.printemps 春
4.Remusat(les saisons) レミュザ(季節)
5.colere 怒り
6.perlimpinpin ペルランパンパン
7.accident 出来事
8.la ligne droite(avec Georges Moustaki) いつか戻り来る人(ジョルジュ・ムスタキとともに)
9.clair de nuit 夜の輝き
ちなみに、明日「11月19日」は、シューベルト(1797-1828)の「命日」です。
シューベルトの曲にちなんで作られた作品「Coline "コリーヌ"」(1990)は、こちらの記事で紹介しています。
https://ameblo.jp/daniel-b/entry-12269277308.html
以下に、「amours incestueuses "不倫"」の歌詞を載せておくことにしましょう。
それではまた...。
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amours incestueuses 不倫
mon amour, mon beau, mon roi,
mon enfant que j'aime
mon amour, mon beau, ma loi,
mon autre et moi-meme
tu es le soleil couchant
tombe sur la terre
tu es mon dernier printemps
mon Dieu, comme je t'aime
私の恋人、いい人、王様
私の愛する、「私の子」
私の恋人、いい人、私の掟
私の生き写し
あなたは
大地に沈みゆく夕陽
あなたは、私の「最後の春」
ああ、こんなにもあなたを愛してる...
j'avais deja fait ma route
je marchais vers le silence
avec une belle insolence
je ne voulais plus personne
j'avancais dans un automne
mon dernier automne, peut-etre
je ne desirais plus rien
mais, comme un miracle,
tu surgis dans ma lumiere
私はもう、道を決めたの
「静寂」の方へと歩いていたわ
美しい傲慢さとともに
私はもう、誰も望まずに
秋の中を歩んでいた
たぶん、これが私の、「最後の秋」だから
私はもう、何も望まなかった
でも、まるで「奇跡」のように
あなたは、私の光の中に現われた...
et toi, mon amour, mon roi,
brisant mes frontieres
mais toi, mon soleil couchant,
mon ciel et ma terre
tu m'as donne tes vingt ans
du coeur de toi-meme
tu es mon dernier printemps
mon Dieu, comme je t'aime
そしてあなた、私の恋人、王様
境界を破って
あなた、私の夕陽
私の空、私の大地
あなたは、その若さを私にくれた
あなた自身の「心」を
あなたは、私の「最後の春」
ああ、こんなにもあなたを愛してる...
j'ai toujours pense que les amours
que les amours les plus belles
etaient les amours incestueuses
il y avait, dans ton regard,
il y avait, dans ton regard,
une lumineuse tendresse
tu voulais vivre avec moi
les plus belles amours
les amours les plus belles
私はいつも思っていた 恋とは
一番「美しい」恋とは
「肉親同士」の恋だって
あなたのその眼差しの中に
あなたのその眼差しの中に
優しい光を感じたわ
あなたは、私とともに生きることを望んでいた
一番「美しい」恋
そう、一番「美しい」恋...
j'ai reouvert ma maison
grandes, mes fenetres
et j'ai couronne ton front,
j'ai baise ta bouche
et toi, mon adolescent,
toi, ma dechirure
tu as couche tes vingt ans
a ma quarantaine
私はまた家を開き
大きく窓を開けたわ
そして、あなたの額を宝冠で飾り
あなたのくちびるに口づけをしたわ
あなた、私の青春
あなた、私の傷口
あなたは、その若さを
私の40代に重ね合わせた...
mais, a peine sont-elles nees
qu'elles sont deja condamnees,
les amours de la desesperance
pour que ne ternisse jamais
ce diamant qui nous fut donne
j'ai brule notre cathedrale
les amours les plus belles,
les plus belles amours
sont les amours incestueuses
でも、こんな恋は、生まれるとすぐ
すでに「有罪」を宣告されている
「絶望」の恋
私たちに与えられたこのダイヤの
輝きを失わせないために
私は、2人の大聖堂を焼きはらった
一番「美しい」恋
そう、一番「美しい」恋とは...
それは、「肉親同士」の恋...
adieu, mon enfant, mon roi,
mon amour que j'aime
plus tard, tu le comprendras
il faut, quand on s'aime
partir, au plus beau, je crois,
et cacher sa peine
mon amour, mon enfant roi,
je pars et je t'aime
ceci est ma verite
du coeur de moi-meme...
さよなら、私の子、王様
愛する私の恋人
後で、あなたにも分かることでしょう
人が愛し合っている時には
一番「美しい」時に別れなくてはいけないって
そして、その「苦しみ」を隠さなくてはいけないって
私の恋人、私の子、王様
私はもう行くわ、でも、あなたを愛してる
これが私の「真実」
私自身の「心」...
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(daniel-b=フランス専門)