檜枝岐村の世帯数は200強。姓は平野、星、橘の3つのみ。毎年5月12日、8月18日、9月第一土曜日に地歌舞伎(檜枝岐歌舞伎)が上演される。宿泊日が1週間遅ければ歌舞伎を見られたが、歌舞伎上演日に宿泊するには1年前に予約する必要があるという。この村もほかの地方の集落同様、高齢化が悩みの種で、歌舞伎の行事も存続が危ぶまれているが、地方の伝統芸能を愛する私としては、村の発展と歌舞伎の存続を願ってやまない。個人的には、次は5月の上演日(=山菜の時期)に合わせて再訪したいと思っている。

 

集落は小さく、数十分で端から端まで歩けるくらい。源泉かけ流しの共同温泉が2つあるほか、郷土資料館や歌舞伎伝承館、木工展示場などもある。所々に村の建築物や歴史についての案内板が立っているので、散歩しながら学習できる。木工販売所ではお弁当箱としてマゲワッパを買おうと思っていたが、お店の人によると、今やマゲワッパを作れる職人さんが一人しかいないため、民芸品として展示するのみで販売はできないとのこと。

 

最寄りの駅(会津高原尾瀬口)までバスで1時間10分もかかり、この集落より奥は人間の領域ではない。都会に住む私からしたら、とんでもないド田舎だ。ニューヨークやロンドンに行くより、よっぽどカルチャーショックが大きい。東京に住んでいると気づかないが、ここ数十年の欧米化の影響を受けずに、昔ながらの風習が残っている地域はたくさんあるのだ。私自身は都心に住み、都会文化に染まった生活をしているものの、地方で心のこもった食事やもてなし、素晴らしい職人技や伝統芸能に出逢い、それらが風前の灯火にあるという現実に直面するたびに、何とかしたいという思いに駆られる。とりあえずはこうして情報を発信することで、都心から地方を訪れる人が一人でも増えることを切に願っている。