・日本がエネルギー大国になる日~人工光合成と藻類バイオマスに期待
「石油危機」の後に大躍進する(ゲンダイ ismedia 2023年10月19日)
大原 浩
※原子力は「オイルショック」後に注目された
基本的にお天気任せで供給が不安定であり、全体的な電力網の一部としてはあまり役に立たない再生可能エネルギー(水力・地熱発電などは除く)は別にして、現在我々が頼りにしている発電方法は火力または原子力である。
化石燃料については、石炭から石油、さらには天然ガスへと移り変わってきたが、原子力発電の普及は、歴史的に見れば「最近」のことである。
原油価格がオイルショック前のように数ドル程度であった時代には、技術的に可能になっていたにも関わらずコスト面で火力発電に太刀打ちできなかったため、原子力発電はあまり注目されなかった。
その状況を劇的に変えたのが、1973年の第1次オイルショックである。1983年に第2次オイルショックが終わるまでに40ドル台まで急騰したことで、にわかに原油以外のエネルギーに注目が集まった。
詳しくは、経済産業・資源エネルギー庁「【日本のエネルギー、150年の歴史4】2度のオイルショックを経て、エネルギー政策の見直しが進む」の「期待が高まった原子力発電」と「ガスも石油への依存脱却を図る」を参照いただきたい。
https://www.enecho.meti.go.jp/about/special/johoteikyo/history4shouwa2.html
原油よりも広く資源が分布している天然ガスの利用が広がったのもこの頃だが、原子力発電も急速に推進されるようになった。つまり、原子力という当時の「新世代エネルギー」は、原油価格の高騰によってコスト面の足かせが無くなったおかげで発展したのだ。
そして現在、10月13日公開の「世界は21世紀の『オイルショック』に向かっている~バレル500ドルもあり得るか」のように、「21世紀のオイルショック」が始まりそうな状況である。この石油危機・原油価格高騰によって、脚光を浴び実用化されるであろうエネルギーについて考えてみたい。
水力発電も危険?
まず、現在すでに実用化されているにも関わらず、十分活用されていない原子力について考えてみたい。国民の必需品である電気を供給するための優れた手段であるのにも関わらず、アレルギーが強いのが現状だ。
もちろん、東日本大震災によって引き起こされた福島第一原子力発電所事故を忘れてはならない。我々がこの悲惨な事故から多くのものを学ばなければならないことは当然だ。
しかし、一方でこの事故に対する反応が「過剰」であるとの懸念もある。例えば、BBC 9月4日「処理水放出に対する中国の怒り、偽情報で広がる」でも報道された、共産主義中国の政治的動機に基づくと思われる「ショリスイ騒動」である。
この中国の主張が、なんら科学的根拠が無い「いいがかり」であることは、日本だけではなく世界の人々がわかっている。しかし、「原発の安全性」に対する認識については、日本国内でも「非科学的」な主張が多く見受けられる。
もちろん、原発事故は悲惨だ。しかし、産経新聞 6月15日「ダム決壊、修復に2年か ロシア『連邦非常事態』」との事故が起こっている。原因は今のところ不明だが、大量の水をためたダムが決壊すれば、ものや人に大きな被害があるのは当然だ。
また、HUFFPOST 2018年10月23日「『アジアの最貧国』でダム決壊。記者が現場で訪れて見えてきたこと」のように、韓国のSK建設が主体となって建設されたダムで、深刻な事態が起こっている。
さらに、太陽光パネルやEVバッテリーが環境を汚染し、人体に極めて有害であることは最近よく知られるようになってきた。廃棄物だけではなく、そのような有害な物質を扱う生産工程や使用する際にもリスクがある。
年間200万人の早期死亡者と原発事故
さらに、国立研究開発法人・国立環境研究所「G20の消費はPM2.5の排出を通じて年200万人の早期死亡者を生む」との研究がある。
PM2.5は、粒子の大きさが非常に小さい(髪の毛の太さの 30 分の 1) ため、肺の奥深くまで入りやすく、喘息や気管支炎などの呼吸器系疾患への影響のほか、 肺がんのリスクの上昇や循環器系への影響も懸念されている。
あくまで推計であるが、年間200万人の「早期死亡者」というのはとてつもない数字である。原発事故のように騒がれないため目立たないが、被害が深く静かに進行している可能性がある。
それに対して、BBC 2021年3月10日「福島原発事故から10年 なお残る影響」によれば、福島第一原発事故による直接の死者は確認されていない(爆発の際には、少なくとも16人が負傷した。 これらの人々に加え、原子炉の冷却と原発の安定化に取り組んだ数十人が、放射線にさらされた。うち3人は被ばく線量が高く、病院に搬送されたと報じられた)。
東日本大震災においては、関連死含む死者と行方不明者が 2万2212人と膨大であるため誤解されやすいが、福島原発事故そのものによる死者はいないということになる。
また、前記BBC記事中、世界保健機関(WHO)は「原発事故によって、関係地域のがん発症率が測定可能なほど高まることはないだろう」と発表したと報じられている。
さらに、原子放射線の影響に関する国連科学委員会(UNSCEAR)も、2020年報告を発表し、「これまで県民に被ばくの影響によるがんの増加は報告されておらず、今後も放射線による健康(への)影響が確認される可能性は低い」とのことだ。
「何かあったらどうするんだ!」=「安全神話」という呪縛から解き放たれ、充分な「安全対策」を行えばそれほど危険ではない。「安全神話」が独り歩きして、「事故は起こらない」という前提に立つため、安全対策がなおざりになることの方がはるかにリスクが高い。
ただし、核廃棄物の問題は解決されていないから、その点が原子力発電のネックだともいえる。
小型化が一つのカギ
「体積と表面積の関係」から言えば、小型の方が冷却しやすい。例えば、小さなリスやネズミがいつも何かを食べているのは、体温が失われやすいから栄養補給して発熱する必要があるからである。
逆に、体内に熱がこもりやすい巨大な象は、大きな耳で表面積を確保して熱の放出を行っている。
したがって小型化するだけで、万が一の際の原子炉の冷却が簡単で安全性が高まる。また、小型であれば地中埋設も容易だから、より安全だ。ただし、大型の原子炉に対して採算性が劣るという課題がある。
さらに(超)小型原子力(発電)は、原子力潜水艦や惑星探査機ボイジャー(原子力電池)などですでに実証された技術である。三菱重工が開発したマイクロ炉では25年間燃料交換が不要とのことだが、燃料交換の回数が減れば、事故の確率も減る。
また、日本の航空機産業は、ゼロ戦の優れた性能に恐れをなした米国によって戦後破壊された。しかし、産経新聞 2015年7月26日「戦中日本、原爆研究の新図面 京大でウラン濃縮装置 『完成 昭和20年8月19日』と記載」のような、戦時中から技術が積みあがった「原子力」の平和利用は戦後も研究が続けられ、世界の最先端を走っている。
核融合は、まだ時間がかかる?
米国などで研究が盛んなレーザー型の核融合は、BUSINESS INSIDER 2022年12月14日「米・レーザー核融合で『歴史的成果』を達成。『物理実験から炉工学へ』研究開発は加速するか?」のように、「投入したエネルギーを上回るエネルギーをやっと生み出した段階」であり、実用化への道のりは遠い。
また、日本などで研究・開発が先行し有望視されるトカマク型を代表例とする磁気閉じ込め方式も、実用化には時間がかかりそうだ。数時間程度の運転に成功しても、少なくとも1年程度の運転ができなければ実用には向かない。
さらに、(地上の)核融合の1億度という温度は途方もない(太陽の中心温度は約1600万度)水準であるが、地表の1気圧の環境下で行われる。2500億気圧と見積もられる太陽中心部の気圧とはかけ離れているのだ。
したがって普通の水素による核融合ではなく、より反応しやすい重水素と三重水素を使う。しかし、水素原子のうち重水素の割合は0.015%である。三重水素も自然界には一応存在するが、不安定であるためきわめて微量である。
量子コンピュータや常温超電導ほどではないが、核融合発電も「夢先行」であることは否めない。
人工光合成と水素に注目
化石燃料も大元をたどれば、太陽光による生物の光合成に行きつく。風力発電においても太陽光により生じる気温差が風の大きな原因だ。
人工光合成と太陽光発電との決定的な違いは、人工光合成は「有機物を合成」し、それを常温・液体状態で保存できる点にある。
その中で、人工光合成研究でトップを走る豊田中央研究所の動向に注目したい。詳しくは同社HP「実用サイズの人工光合成で植物の太陽光変換効率を超える」やCar Watch 2022年10月7日「豊田中央研究所、世界最高効率10.5%を実現した人工光合成について説明」などを参照いただきたい。
同研究所の人工光合成では、ギ酸(CH2O2)が生成されるが、このギ酸は常温で液体でありエネルギー密度も高いため、貯蔵物質として優れている(ガソリンと同じように扱える)。さらに、水素キャリア(水素を別の状態や材料に変換して貯蔵・運搬する)としても有望視されている
また、デンソー 4月5日「自動車分野で磨いた技術で水素社会実現の一翼を担う高効率・長寿命のシステムで低コスト水素を提供する、デンソーのSOECとは」にも注目したい。
原理的には、水を電気分解すれば、ほぼ無尽蔵に水素を生産できるが、コスト面の問題が実用化を阻んでいる。それに対して、600から800℃という高温で作動することによって「低コストでの水素生成」を目指しているのがデンソーだ。コストの問題さえ解決すれば、無尽蔵ともいえる水の電気分解はエネルギー問題の救世主である。
藻類バイオマスの革新的手法
長年期待されてきた藻類バイオマスが上手くいかないのも、コストの問題が大きい。だが、渡邉信・筑波大学大学院教授は、下水処理の過程で藻類を育てるという画期的手法を生み出した。
簡単に言えば、(藻類バイオマスの生成によって)下水処理にかかる費用が減るのであるから、その分、藻類バイオマスの生成コストも減ることになるというわけだ。
その渡邉教授の研究にRakuten News 1月2日「ついに国の予算がついた…藻類バイオマスエネルギーで日本が本当に産油国になる日」のように、国土交通省水管理・国土保全局から年3000万円の予算が2年にわたって下りることになったことが話題になっている。
まだ、実証実験の段階だが、Newsweek 2022年4月2日「『日本を産油国に』と宣言して顰蹙かった藻類バイオマスエネルギー 今、再び注目される3つの理由」によれば、「日本全国に点在する下水処理場の3分の1で藻類が育てられ、原油生産を始めたとすれば、現在の日本の年間の原油輸入量1億3600万トンと同じ量の原油を藻によって生むことができる」とのことだ。
地下資源から「工場生産資源」へ
人工光合成、藻類バイオマス、水電解などの「工場」が軌道に乗れば、エネルギー資源は「『採掘するもの』から『製造するもの』」へと大きく変貌する。
そうなれば。「製造業大国日本」が「エネルギー大国」になることも夢では無い。
当面は、前掲「世界は21世紀の『オイルショック』に向かっている~バレル500ドルもあり得るか」のような状況に日本は苦しめられることになるが、原油価格高騰は次世代エネルギー開発の強力な追い風となる。
10年、20年単位で日本が「エネルギー大国」になるというのは、決して「夢想」ではないと考える。
・化石燃料が無くなれば「電気文明」は滅びる!? あと100年?で人類社会は産業革命以前の「中世・近世」へ(ゲンダイ ismedia 2024年5月30日)
大原 浩
※現代文明のエネルギー
我々の日常に「エネルギー」が必要不可欠であることは言うまでもないだろう。エネルギー無くしては、スマホ、パソコン、電車、自動車、工場、さらにはビルの空調やエレベーターでさえ動かない。もちろん、自宅で観るテレビや料理をするコンロでもエネルギーを消費する。
我々の日常生活、社会生活はエネルギー無しでは到底成り立たないのだ。
そして、「現代文明」を支えるエネルギーが「いつまでもつのか」という大きな疑問が沸き上がっている。
もちろん、明日、来年無くなるというような話ではない。だが、数十年単位では「エネルギーの枯渇」がかなり深刻な問題になるであろう。また、100年ぐらいで「実際の枯渇」に直面するかもしれない(後述)。
もちろん、人力車や馬車なども人間や馬が生み出すエネルギーで動くし、風車も風で動く。このような古代から我々が手に入れていた「エネルギー」が無くなってしまうのではない。
「枯渇」するのは、産業革命以降、人類の文明を飛躍的に発展させた化石燃料によるエネルギーである。
2021年8月21日公開「脱炭素・EV推進、『合理的な科学的根拠が無い』この方針は、もはや『宗教』だ」など多数の記事で述べた「脱炭素教」によって、まるで「悪魔」のごとく悪者にされているのが化石燃料だ。しかし、3月21日公開「化石燃料はこれからも重要だ。そして、インフレは投資家最大の敵だ!」、2020年5月6日公開「原油先物マイナスでも『世界は化石燃料で回っている』と言えるワケ」というのが真実である。
実際、我々がごく当たり前だと思っている文明の大部分が、18世紀半ばから19世紀にかけて起こった「産業革命」以降に生まれている。
そして産業革命を象徴するのが「蒸気機関」であるが、これは石炭という化石燃料を我々が活用できたからこそ大進化した(薪では限界があった)。その後の工場を始めとする機械、鉄道、自動車などの発展にも石油・天然ガスを含む化石燃料が多大な貢献をしている。
「電気文明」も化石燃料のおかげ
もう一つ忘れてはならないのは、現代の「電気文明」も化石燃料の恩恵の一つであるということである。
ガス灯は、英国人技師のウィリアム・マードックが1792年、石炭から得たガスの炎で自宅の照明に利用したのが始まりである。それまで、「夜は真っ暗」であった世界にまさに「灯りを灯した」といえよう。
しかし、エジソンが1879年に発明したとされる(参照:2020年10月21日公開「白熱電球を発明したのは誰? じつはエジソンが最初ではありません」)白熱電球が世間に普及するまでは、現代のように「夜も明るい生活」は一般的ではなかった。
そして、スマホを始めとする電子機器、電車、工場のモーターなど、現代文明に不可欠な電気は、今でもそのおおよそ7割が化石燃料によって発電されているとされる。
つまり、我々は「化石燃料」によって「電気文明」を支えているのであり、「化石燃料の安定調達」をもっと真剣に考えなければならないのだ。もし化石燃料が枯渇してしまったら、(産業革命以降の)「電気文明」は滅びる運命にある。
役立たずの再生可能エネルギー
「脱炭素教」信者が主張するのは「化石燃料なんかなくても、『グリーンエネルギー』さえあれば大丈夫さ!」という事だが、これは科学的・論理的検証がなされていない「夢想」である。
グリーンエネルギーの代表格として取り上げられるのが、太陽光発電と風力発電である。
だが、どちらも「お天気任せの頼りない存在」といえる。風力は夜間や雨の日でも利用可能だが、風の強さはコントロールできない。台風が上陸するときと、風速ゼロの凪の時との落差が激しいが、それを「人間の都合」に合わせることができないのだ。
太陽光発電はもっとひどい。日中でも太陽光の強さは刻々と変化するが、雨の日は最悪だ。また、夜間はまったくの無用の長物に変化する。
電気は「エネルギー」とも呼ばれるが、厳密に言えば化石燃料に代表される「化学エネルギー」などとは異なる。石炭、原油、天然ガスなどと違って「エネルギー」を「蓄える」ことが困難なのだ。
古代から、雷、静電気などの現象はよく知られていた。しかし、自然界に存在する「電気」は、「一瞬の現象」であるがゆえに、人間がそれを利用するのは難しかった。
ところが、化石燃料を我々が利用するようになり、それを用いた安定的かつ大量の「発電」をすることが出来るようになった。実は、この(実用性のある)「発電」が、蒸気機関に続いて現代文明を大躍進させたのだ。
化石燃料が優れているのは、「(貯めておいた)化学エネルギー」によって、(いつでも人間の好きな時に)オン・ディマンドで電気を供給できる点にある。これは極めて重要なことで、太陽光・風力発電の最大の欠陥もそれが出来ない点にある。
グリーンエネルギーによる「停電」
日本全国、世界各国に張り巡らされている送電網は、電力の需用と供給において、高い精度で常にバランスをとらなければ機能しない(停電する)。したがって、電力会社の担当者は、各種データを睨みながら張り詰めた状態で電力の需給のコントロールをしているのだ。
日本の電車が秒単位の正確さで運行される事に外国人は驚嘆の声をあげるが、日本で停電が少ないのも、このような現場の担当者の頑張りが大きく貢献している。
その彼らにとって、「お天気任せでいつやってくるかわからない」太陽光・風力発電による電力など「無用の長物」であるといえよう。実際、このような電力が主体になれば、雨の日や風が吹かない日は、毎日のように停電することになる。
このような「無用の長物」に対して、我々は2021年11月5日公開「エネルギー価格高騰、脱炭素・EV化を推進する国家・企業は総崩れか」冒頭「電気代・ガス代が上がり始めている」で述べた高額な「再生可能エネルギー発電促進賦課金」なるものを無理やり支払わされているのだ。
水力・バイオマス・地熱は生き残るか?
水力発電は優れた発電手法であり、川の流れをダムでせき止めることにより「位置エネルギー」に変えて保存することができる。ただし、化石燃料のようにタンクに備蓄して180日分を確保したりするような大掛かりなことは出来ない。あくまで利用可能なのは川が流れる運動エネルギーと、「ダムでせき止めた分」だけの位置エネルギーである。
さらには、水力発電はすでにかなり普及しており、「環境問題」などからも新たに建設する適地を探すのは困難だ。
したがって、ポスト化石燃料時代の有望な候補ではあるが、「電気文明」を支えるほどのボリュームは期待できない。
地熱発電も優れた発電方法だが、こちらは水力発電よりもさらに適地が少ない。
バイオマス発電は、基本的には火力発電と同じで非常に利便性が高いが、燃料となる間伐材、廃棄物、廃油などの確保に現在でも苦労している。
結局、「グリーンエネルギーだけ」で現代(電気)文明を支えることなど不可能なのだ。
原子力発電は?
原子力発電もほぼ火力発電並みの利便性を提供できるが、「大規模事故」のリスクは付きまとう。このリスクについては2023年11月19日公開「日本がエネルギー大国になる日~人工光合成と藻類バイオマスに期待」3ページ目「年間200万人の早期死亡者と原発事故」で「過度に危険視する必要は無い」と述べた。
だが、原子力発電にはウラン(核分裂しやすいウラン235を約4%、核分裂しにくいウラン238を約96%混ぜたもの)が必要だが、ウランの可採年数は約130年とされかなり長いものの「限りある資源」である。
可採年数は、採掘技術の発達や価格の高騰で伸びることもあるが、原子力発電にシフトして需要が増えれば、当然短くなる 。
また、「核廃棄物」の処理も解決が難しい問題である。
なお、「プルサーマル」のように、燃料を「リサイクル」するという「夢の技術」が研究・開発中であるが、普遍的に実用化されるかどうか不明である。
「核融合」は実用化できない!?
また、核融合発電が世間で騒がれるが、「実験成功」はあり得ても、(経済合理性のある)「実用化」は無理ではないかと考える。
そもそも、太陽中心部での核融合は、1600万度、2400億気圧という途方もない環境で行われている。
それに対して、地球上の核融合炉は1億度程度と太陽の中心部を上回ってはいるが、数気圧程度であり、太陽とは比べものにならない。
したがって、太陽のように「水素」によって「核融合」を起こすことは不可能であり、「重水素」や「三重水素(トリチウム)」を使う。そして、地球上の水素全体の中での存在割合は、軽水素が99.985 %、二重水素が0.015 %であり、 三重水素の割合はごく僅かである。
二重水素の調達も大変だが、三重水素については、WIRED 2022年6月23日「注目の『核融合発電』は、実現前から“燃料不足”の危機に直面している」などで述べられているとおりだ。
例えば、「錬金術」は現代科学では「可能(なはず)」である。科学技術振興機構・サイエンスポータル 2020年6月11日「日本が命名した113番元素『ニホニウム』 ~新元素発見までの道のりとこれから~」のように、「(新)元素の合成」は可能だから、卑金属の元素を組み合わせて「金の元素」を生成するのも不可能ではない。
だが、前記記事で「(ニホニウム)の生成確率は100兆分の1」と述べられているから、金の元素を一つ合成するコストは莫大なものになると考えられる。いくら現在の金価格が高騰していると言っても、まったく採算に合わない。
核融合炉も、結局「実験的に成功」しても、「採算面」において錬金術と同様に「実用化」されることはないと考えられる。
化石燃料が枯渇するのはいつか
1970年代のオイルショック時に「世界の原油は残りあと30年」と危機が煽られたが、現在の可採年数は約50年とされる。
そのため「石油枯渇」は「オオカミ少年の言葉」であると思われている節があるが、これは前述の「可採埋蔵量」に対する誤解から来ている。
「可採埋蔵量」=「経済的に採掘可能な現在分かっている埋蔵量」だから、新たに発見されたり、原油価格が上昇し採算分岐点が上がったりすれば、この「可採埋蔵量」はどんどん増えていくのだ。
実際、オイルショック前の原油価格は2~3ドル程度であった。地面を掘れば石油が噴き出していた時代には、それでも十分採算がとれたのである。
だが、現在のシェールオイルの採掘コストは30ドル程度とされる。それに利益を上乗せした価格でなければ「可採埋蔵量」には入らないということである。
最近急増している海底油田でも同じことである。条件の良い浅瀬から沖合の採掘コスト(さらには陸への運搬コスト)の高い場所へと移らざるを得なくなっている。
結局「可採埋蔵量」はむしろ増えているが、それは原油価格が上昇しているおかげであり、「地中に埋まっている化石燃料」の「絶対量」は着実に減少しているのだ。
したがって、エネ百科「世界のエネルギー資源はあとどれくらいもつの?」の資料などから類推して、あと100年もすれば(あるいは数十年かもしれない)、一般の人々が「安価」に手に入れて「普通」に使うことができる時代は終わると思われる。もちろん化石燃料による発電も同様だ。
我々は、中世・近世の暮らしに戻る
もちろん、水力発電やバイオマス発電にはある程度の「持続可能性」があるが、現代の「電気文明」を支えるほどの力は無い。
また、2023年10月19日公開「日本がエネルギー大国になる日~人工光合成と藻類バイオマスに期待」との希望もあるが、こちらも「電気文明」を支えるだけの力にはならないであろう。
我々は、結局「産業革命以前」=「中世・近世」の暮らしに戻らざるを得ないということだ。
だが、日本の近世=「江戸時代」は平和で豊かな時代であったから、それほど恐れる必要は無いのかもしれない。
「石油危機」の後に大躍進する(ゲンダイ ismedia 2023年10月19日)
大原 浩
※原子力は「オイルショック」後に注目された
基本的にお天気任せで供給が不安定であり、全体的な電力網の一部としてはあまり役に立たない再生可能エネルギー(水力・地熱発電などは除く)は別にして、現在我々が頼りにしている発電方法は火力または原子力である。
化石燃料については、石炭から石油、さらには天然ガスへと移り変わってきたが、原子力発電の普及は、歴史的に見れば「最近」のことである。
原油価格がオイルショック前のように数ドル程度であった時代には、技術的に可能になっていたにも関わらずコスト面で火力発電に太刀打ちできなかったため、原子力発電はあまり注目されなかった。
その状況を劇的に変えたのが、1973年の第1次オイルショックである。1983年に第2次オイルショックが終わるまでに40ドル台まで急騰したことで、にわかに原油以外のエネルギーに注目が集まった。
詳しくは、経済産業・資源エネルギー庁「【日本のエネルギー、150年の歴史4】2度のオイルショックを経て、エネルギー政策の見直しが進む」の「期待が高まった原子力発電」と「ガスも石油への依存脱却を図る」を参照いただきたい。
https://www.enecho.meti.go.jp/about/special/johoteikyo/history4shouwa2.html
原油よりも広く資源が分布している天然ガスの利用が広がったのもこの頃だが、原子力発電も急速に推進されるようになった。つまり、原子力という当時の「新世代エネルギー」は、原油価格の高騰によってコスト面の足かせが無くなったおかげで発展したのだ。
そして現在、10月13日公開の「世界は21世紀の『オイルショック』に向かっている~バレル500ドルもあり得るか」のように、「21世紀のオイルショック」が始まりそうな状況である。この石油危機・原油価格高騰によって、脚光を浴び実用化されるであろうエネルギーについて考えてみたい。
水力発電も危険?
まず、現在すでに実用化されているにも関わらず、十分活用されていない原子力について考えてみたい。国民の必需品である電気を供給するための優れた手段であるのにも関わらず、アレルギーが強いのが現状だ。
もちろん、東日本大震災によって引き起こされた福島第一原子力発電所事故を忘れてはならない。我々がこの悲惨な事故から多くのものを学ばなければならないことは当然だ。
しかし、一方でこの事故に対する反応が「過剰」であるとの懸念もある。例えば、BBC 9月4日「処理水放出に対する中国の怒り、偽情報で広がる」でも報道された、共産主義中国の政治的動機に基づくと思われる「ショリスイ騒動」である。
この中国の主張が、なんら科学的根拠が無い「いいがかり」であることは、日本だけではなく世界の人々がわかっている。しかし、「原発の安全性」に対する認識については、日本国内でも「非科学的」な主張が多く見受けられる。
もちろん、原発事故は悲惨だ。しかし、産経新聞 6月15日「ダム決壊、修復に2年か ロシア『連邦非常事態』」との事故が起こっている。原因は今のところ不明だが、大量の水をためたダムが決壊すれば、ものや人に大きな被害があるのは当然だ。
また、HUFFPOST 2018年10月23日「『アジアの最貧国』でダム決壊。記者が現場で訪れて見えてきたこと」のように、韓国のSK建設が主体となって建設されたダムで、深刻な事態が起こっている。
さらに、太陽光パネルやEVバッテリーが環境を汚染し、人体に極めて有害であることは最近よく知られるようになってきた。廃棄物だけではなく、そのような有害な物質を扱う生産工程や使用する際にもリスクがある。
年間200万人の早期死亡者と原発事故
さらに、国立研究開発法人・国立環境研究所「G20の消費はPM2.5の排出を通じて年200万人の早期死亡者を生む」との研究がある。
PM2.5は、粒子の大きさが非常に小さい(髪の毛の太さの 30 分の 1) ため、肺の奥深くまで入りやすく、喘息や気管支炎などの呼吸器系疾患への影響のほか、 肺がんのリスクの上昇や循環器系への影響も懸念されている。
あくまで推計であるが、年間200万人の「早期死亡者」というのはとてつもない数字である。原発事故のように騒がれないため目立たないが、被害が深く静かに進行している可能性がある。
それに対して、BBC 2021年3月10日「福島原発事故から10年 なお残る影響」によれば、福島第一原発事故による直接の死者は確認されていない(爆発の際には、少なくとも16人が負傷した。 これらの人々に加え、原子炉の冷却と原発の安定化に取り組んだ数十人が、放射線にさらされた。うち3人は被ばく線量が高く、病院に搬送されたと報じられた)。
東日本大震災においては、関連死含む死者と行方不明者が 2万2212人と膨大であるため誤解されやすいが、福島原発事故そのものによる死者はいないということになる。
また、前記BBC記事中、世界保健機関(WHO)は「原発事故によって、関係地域のがん発症率が測定可能なほど高まることはないだろう」と発表したと報じられている。
さらに、原子放射線の影響に関する国連科学委員会(UNSCEAR)も、2020年報告を発表し、「これまで県民に被ばくの影響によるがんの増加は報告されておらず、今後も放射線による健康(への)影響が確認される可能性は低い」とのことだ。
「何かあったらどうするんだ!」=「安全神話」という呪縛から解き放たれ、充分な「安全対策」を行えばそれほど危険ではない。「安全神話」が独り歩きして、「事故は起こらない」という前提に立つため、安全対策がなおざりになることの方がはるかにリスクが高い。
ただし、核廃棄物の問題は解決されていないから、その点が原子力発電のネックだともいえる。
小型化が一つのカギ
「体積と表面積の関係」から言えば、小型の方が冷却しやすい。例えば、小さなリスやネズミがいつも何かを食べているのは、体温が失われやすいから栄養補給して発熱する必要があるからである。
逆に、体内に熱がこもりやすい巨大な象は、大きな耳で表面積を確保して熱の放出を行っている。
したがって小型化するだけで、万が一の際の原子炉の冷却が簡単で安全性が高まる。また、小型であれば地中埋設も容易だから、より安全だ。ただし、大型の原子炉に対して採算性が劣るという課題がある。
さらに(超)小型原子力(発電)は、原子力潜水艦や惑星探査機ボイジャー(原子力電池)などですでに実証された技術である。三菱重工が開発したマイクロ炉では25年間燃料交換が不要とのことだが、燃料交換の回数が減れば、事故の確率も減る。
また、日本の航空機産業は、ゼロ戦の優れた性能に恐れをなした米国によって戦後破壊された。しかし、産経新聞 2015年7月26日「戦中日本、原爆研究の新図面 京大でウラン濃縮装置 『完成 昭和20年8月19日』と記載」のような、戦時中から技術が積みあがった「原子力」の平和利用は戦後も研究が続けられ、世界の最先端を走っている。
核融合は、まだ時間がかかる?
米国などで研究が盛んなレーザー型の核融合は、BUSINESS INSIDER 2022年12月14日「米・レーザー核融合で『歴史的成果』を達成。『物理実験から炉工学へ』研究開発は加速するか?」のように、「投入したエネルギーを上回るエネルギーをやっと生み出した段階」であり、実用化への道のりは遠い。
また、日本などで研究・開発が先行し有望視されるトカマク型を代表例とする磁気閉じ込め方式も、実用化には時間がかかりそうだ。数時間程度の運転に成功しても、少なくとも1年程度の運転ができなければ実用には向かない。
さらに、(地上の)核融合の1億度という温度は途方もない(太陽の中心温度は約1600万度)水準であるが、地表の1気圧の環境下で行われる。2500億気圧と見積もられる太陽中心部の気圧とはかけ離れているのだ。
したがって普通の水素による核融合ではなく、より反応しやすい重水素と三重水素を使う。しかし、水素原子のうち重水素の割合は0.015%である。三重水素も自然界には一応存在するが、不安定であるためきわめて微量である。
量子コンピュータや常温超電導ほどではないが、核融合発電も「夢先行」であることは否めない。
人工光合成と水素に注目
化石燃料も大元をたどれば、太陽光による生物の光合成に行きつく。風力発電においても太陽光により生じる気温差が風の大きな原因だ。
人工光合成と太陽光発電との決定的な違いは、人工光合成は「有機物を合成」し、それを常温・液体状態で保存できる点にある。
その中で、人工光合成研究でトップを走る豊田中央研究所の動向に注目したい。詳しくは同社HP「実用サイズの人工光合成で植物の太陽光変換効率を超える」やCar Watch 2022年10月7日「豊田中央研究所、世界最高効率10.5%を実現した人工光合成について説明」などを参照いただきたい。
同研究所の人工光合成では、ギ酸(CH2O2)が生成されるが、このギ酸は常温で液体でありエネルギー密度も高いため、貯蔵物質として優れている(ガソリンと同じように扱える)。さらに、水素キャリア(水素を別の状態や材料に変換して貯蔵・運搬する)としても有望視されている
また、デンソー 4月5日「自動車分野で磨いた技術で水素社会実現の一翼を担う高効率・長寿命のシステムで低コスト水素を提供する、デンソーのSOECとは」にも注目したい。
原理的には、水を電気分解すれば、ほぼ無尽蔵に水素を生産できるが、コスト面の問題が実用化を阻んでいる。それに対して、600から800℃という高温で作動することによって「低コストでの水素生成」を目指しているのがデンソーだ。コストの問題さえ解決すれば、無尽蔵ともいえる水の電気分解はエネルギー問題の救世主である。
藻類バイオマスの革新的手法
長年期待されてきた藻類バイオマスが上手くいかないのも、コストの問題が大きい。だが、渡邉信・筑波大学大学院教授は、下水処理の過程で藻類を育てるという画期的手法を生み出した。
簡単に言えば、(藻類バイオマスの生成によって)下水処理にかかる費用が減るのであるから、その分、藻類バイオマスの生成コストも減ることになるというわけだ。
その渡邉教授の研究にRakuten News 1月2日「ついに国の予算がついた…藻類バイオマスエネルギーで日本が本当に産油国になる日」のように、国土交通省水管理・国土保全局から年3000万円の予算が2年にわたって下りることになったことが話題になっている。
まだ、実証実験の段階だが、Newsweek 2022年4月2日「『日本を産油国に』と宣言して顰蹙かった藻類バイオマスエネルギー 今、再び注目される3つの理由」によれば、「日本全国に点在する下水処理場の3分の1で藻類が育てられ、原油生産を始めたとすれば、現在の日本の年間の原油輸入量1億3600万トンと同じ量の原油を藻によって生むことができる」とのことだ。
地下資源から「工場生産資源」へ
人工光合成、藻類バイオマス、水電解などの「工場」が軌道に乗れば、エネルギー資源は「『採掘するもの』から『製造するもの』」へと大きく変貌する。
そうなれば。「製造業大国日本」が「エネルギー大国」になることも夢では無い。
当面は、前掲「世界は21世紀の『オイルショック』に向かっている~バレル500ドルもあり得るか」のような状況に日本は苦しめられることになるが、原油価格高騰は次世代エネルギー開発の強力な追い風となる。
10年、20年単位で日本が「エネルギー大国」になるというのは、決して「夢想」ではないと考える。
・化石燃料が無くなれば「電気文明」は滅びる!? あと100年?で人類社会は産業革命以前の「中世・近世」へ(ゲンダイ ismedia 2024年5月30日)
大原 浩
※現代文明のエネルギー
我々の日常に「エネルギー」が必要不可欠であることは言うまでもないだろう。エネルギー無くしては、スマホ、パソコン、電車、自動車、工場、さらにはビルの空調やエレベーターでさえ動かない。もちろん、自宅で観るテレビや料理をするコンロでもエネルギーを消費する。
我々の日常生活、社会生活はエネルギー無しでは到底成り立たないのだ。
そして、「現代文明」を支えるエネルギーが「いつまでもつのか」という大きな疑問が沸き上がっている。
もちろん、明日、来年無くなるというような話ではない。だが、数十年単位では「エネルギーの枯渇」がかなり深刻な問題になるであろう。また、100年ぐらいで「実際の枯渇」に直面するかもしれない(後述)。
もちろん、人力車や馬車なども人間や馬が生み出すエネルギーで動くし、風車も風で動く。このような古代から我々が手に入れていた「エネルギー」が無くなってしまうのではない。
「枯渇」するのは、産業革命以降、人類の文明を飛躍的に発展させた化石燃料によるエネルギーである。
2021年8月21日公開「脱炭素・EV推進、『合理的な科学的根拠が無い』この方針は、もはや『宗教』だ」など多数の記事で述べた「脱炭素教」によって、まるで「悪魔」のごとく悪者にされているのが化石燃料だ。しかし、3月21日公開「化石燃料はこれからも重要だ。そして、インフレは投資家最大の敵だ!」、2020年5月6日公開「原油先物マイナスでも『世界は化石燃料で回っている』と言えるワケ」というのが真実である。
実際、我々がごく当たり前だと思っている文明の大部分が、18世紀半ばから19世紀にかけて起こった「産業革命」以降に生まれている。
そして産業革命を象徴するのが「蒸気機関」であるが、これは石炭という化石燃料を我々が活用できたからこそ大進化した(薪では限界があった)。その後の工場を始めとする機械、鉄道、自動車などの発展にも石油・天然ガスを含む化石燃料が多大な貢献をしている。
「電気文明」も化石燃料のおかげ
もう一つ忘れてはならないのは、現代の「電気文明」も化石燃料の恩恵の一つであるということである。
ガス灯は、英国人技師のウィリアム・マードックが1792年、石炭から得たガスの炎で自宅の照明に利用したのが始まりである。それまで、「夜は真っ暗」であった世界にまさに「灯りを灯した」といえよう。
しかし、エジソンが1879年に発明したとされる(参照:2020年10月21日公開「白熱電球を発明したのは誰? じつはエジソンが最初ではありません」)白熱電球が世間に普及するまでは、現代のように「夜も明るい生活」は一般的ではなかった。
そして、スマホを始めとする電子機器、電車、工場のモーターなど、現代文明に不可欠な電気は、今でもそのおおよそ7割が化石燃料によって発電されているとされる。
つまり、我々は「化石燃料」によって「電気文明」を支えているのであり、「化石燃料の安定調達」をもっと真剣に考えなければならないのだ。もし化石燃料が枯渇してしまったら、(産業革命以降の)「電気文明」は滅びる運命にある。
役立たずの再生可能エネルギー
「脱炭素教」信者が主張するのは「化石燃料なんかなくても、『グリーンエネルギー』さえあれば大丈夫さ!」という事だが、これは科学的・論理的検証がなされていない「夢想」である。
グリーンエネルギーの代表格として取り上げられるのが、太陽光発電と風力発電である。
だが、どちらも「お天気任せの頼りない存在」といえる。風力は夜間や雨の日でも利用可能だが、風の強さはコントロールできない。台風が上陸するときと、風速ゼロの凪の時との落差が激しいが、それを「人間の都合」に合わせることができないのだ。
太陽光発電はもっとひどい。日中でも太陽光の強さは刻々と変化するが、雨の日は最悪だ。また、夜間はまったくの無用の長物に変化する。
電気は「エネルギー」とも呼ばれるが、厳密に言えば化石燃料に代表される「化学エネルギー」などとは異なる。石炭、原油、天然ガスなどと違って「エネルギー」を「蓄える」ことが困難なのだ。
古代から、雷、静電気などの現象はよく知られていた。しかし、自然界に存在する「電気」は、「一瞬の現象」であるがゆえに、人間がそれを利用するのは難しかった。
ところが、化石燃料を我々が利用するようになり、それを用いた安定的かつ大量の「発電」をすることが出来るようになった。実は、この(実用性のある)「発電」が、蒸気機関に続いて現代文明を大躍進させたのだ。
化石燃料が優れているのは、「(貯めておいた)化学エネルギー」によって、(いつでも人間の好きな時に)オン・ディマンドで電気を供給できる点にある。これは極めて重要なことで、太陽光・風力発電の最大の欠陥もそれが出来ない点にある。
グリーンエネルギーによる「停電」
日本全国、世界各国に張り巡らされている送電網は、電力の需用と供給において、高い精度で常にバランスをとらなければ機能しない(停電する)。したがって、電力会社の担当者は、各種データを睨みながら張り詰めた状態で電力の需給のコントロールをしているのだ。
日本の電車が秒単位の正確さで運行される事に外国人は驚嘆の声をあげるが、日本で停電が少ないのも、このような現場の担当者の頑張りが大きく貢献している。
その彼らにとって、「お天気任せでいつやってくるかわからない」太陽光・風力発電による電力など「無用の長物」であるといえよう。実際、このような電力が主体になれば、雨の日や風が吹かない日は、毎日のように停電することになる。
このような「無用の長物」に対して、我々は2021年11月5日公開「エネルギー価格高騰、脱炭素・EV化を推進する国家・企業は総崩れか」冒頭「電気代・ガス代が上がり始めている」で述べた高額な「再生可能エネルギー発電促進賦課金」なるものを無理やり支払わされているのだ。
水力・バイオマス・地熱は生き残るか?
水力発電は優れた発電手法であり、川の流れをダムでせき止めることにより「位置エネルギー」に変えて保存することができる。ただし、化石燃料のようにタンクに備蓄して180日分を確保したりするような大掛かりなことは出来ない。あくまで利用可能なのは川が流れる運動エネルギーと、「ダムでせき止めた分」だけの位置エネルギーである。
さらには、水力発電はすでにかなり普及しており、「環境問題」などからも新たに建設する適地を探すのは困難だ。
したがって、ポスト化石燃料時代の有望な候補ではあるが、「電気文明」を支えるほどのボリュームは期待できない。
地熱発電も優れた発電方法だが、こちらは水力発電よりもさらに適地が少ない。
バイオマス発電は、基本的には火力発電と同じで非常に利便性が高いが、燃料となる間伐材、廃棄物、廃油などの確保に現在でも苦労している。
結局、「グリーンエネルギーだけ」で現代(電気)文明を支えることなど不可能なのだ。
原子力発電は?
原子力発電もほぼ火力発電並みの利便性を提供できるが、「大規模事故」のリスクは付きまとう。このリスクについては2023年11月19日公開「日本がエネルギー大国になる日~人工光合成と藻類バイオマスに期待」3ページ目「年間200万人の早期死亡者と原発事故」で「過度に危険視する必要は無い」と述べた。
だが、原子力発電にはウラン(核分裂しやすいウラン235を約4%、核分裂しにくいウラン238を約96%混ぜたもの)が必要だが、ウランの可採年数は約130年とされかなり長いものの「限りある資源」である。
可採年数は、採掘技術の発達や価格の高騰で伸びることもあるが、原子力発電にシフトして需要が増えれば、当然短くなる 。
また、「核廃棄物」の処理も解決が難しい問題である。
なお、「プルサーマル」のように、燃料を「リサイクル」するという「夢の技術」が研究・開発中であるが、普遍的に実用化されるかどうか不明である。
「核融合」は実用化できない!?
また、核融合発電が世間で騒がれるが、「実験成功」はあり得ても、(経済合理性のある)「実用化」は無理ではないかと考える。
そもそも、太陽中心部での核融合は、1600万度、2400億気圧という途方もない環境で行われている。
それに対して、地球上の核融合炉は1億度程度と太陽の中心部を上回ってはいるが、数気圧程度であり、太陽とは比べものにならない。
したがって、太陽のように「水素」によって「核融合」を起こすことは不可能であり、「重水素」や「三重水素(トリチウム)」を使う。そして、地球上の水素全体の中での存在割合は、軽水素が99.985 %、二重水素が0.015 %であり、 三重水素の割合はごく僅かである。
二重水素の調達も大変だが、三重水素については、WIRED 2022年6月23日「注目の『核融合発電』は、実現前から“燃料不足”の危機に直面している」などで述べられているとおりだ。
例えば、「錬金術」は現代科学では「可能(なはず)」である。科学技術振興機構・サイエンスポータル 2020年6月11日「日本が命名した113番元素『ニホニウム』 ~新元素発見までの道のりとこれから~」のように、「(新)元素の合成」は可能だから、卑金属の元素を組み合わせて「金の元素」を生成するのも不可能ではない。
だが、前記記事で「(ニホニウム)の生成確率は100兆分の1」と述べられているから、金の元素を一つ合成するコストは莫大なものになると考えられる。いくら現在の金価格が高騰していると言っても、まったく採算に合わない。
核融合炉も、結局「実験的に成功」しても、「採算面」において錬金術と同様に「実用化」されることはないと考えられる。
化石燃料が枯渇するのはいつか
1970年代のオイルショック時に「世界の原油は残りあと30年」と危機が煽られたが、現在の可採年数は約50年とされる。
そのため「石油枯渇」は「オオカミ少年の言葉」であると思われている節があるが、これは前述の「可採埋蔵量」に対する誤解から来ている。
「可採埋蔵量」=「経済的に採掘可能な現在分かっている埋蔵量」だから、新たに発見されたり、原油価格が上昇し採算分岐点が上がったりすれば、この「可採埋蔵量」はどんどん増えていくのだ。
実際、オイルショック前の原油価格は2~3ドル程度であった。地面を掘れば石油が噴き出していた時代には、それでも十分採算がとれたのである。
だが、現在のシェールオイルの採掘コストは30ドル程度とされる。それに利益を上乗せした価格でなければ「可採埋蔵量」には入らないということである。
最近急増している海底油田でも同じことである。条件の良い浅瀬から沖合の採掘コスト(さらには陸への運搬コスト)の高い場所へと移らざるを得なくなっている。
結局「可採埋蔵量」はむしろ増えているが、それは原油価格が上昇しているおかげであり、「地中に埋まっている化石燃料」の「絶対量」は着実に減少しているのだ。
したがって、エネ百科「世界のエネルギー資源はあとどれくらいもつの?」の資料などから類推して、あと100年もすれば(あるいは数十年かもしれない)、一般の人々が「安価」に手に入れて「普通」に使うことができる時代は終わると思われる。もちろん化石燃料による発電も同様だ。
我々は、中世・近世の暮らしに戻る
もちろん、水力発電やバイオマス発電にはある程度の「持続可能性」があるが、現代の「電気文明」を支えるほどの力は無い。
また、2023年10月19日公開「日本がエネルギー大国になる日~人工光合成と藻類バイオマスに期待」との希望もあるが、こちらも「電気文明」を支えるだけの力にはならないであろう。
我々は、結局「産業革命以前」=「中世・近世」の暮らしに戻らざるを得ないということだ。
だが、日本の近世=「江戸時代」は平和で豊かな時代であったから、それほど恐れる必要は無いのかもしれない。