(幸先いいぞ)

何千kmも離れた空港のチェックインで預けた荷物を受け取る為、指定の場所へ向かいながらそう考えていた。

出発地を珍しく予定時刻通りに離陸した某航空会社の飛行機。

これまたほぼ予定通りの時刻に目的地へ到着。

入国審査も思いの外 時間はかからず、全てがいつもより順調だ。
後は荷物を持って税関を過ぎれば晴れて自由の身になれるわけである。

荷物を待つ人々に加わり、浮かれ気分で、いつ止まってもおかしくないような、ギクシャクと旋回するベルトコンベアーに載る他人の荷物を鼻歌まじりに目で追う。「〜〜♫」

ところが暫く待っても見慣れた自分のリュックが中々出てこない。
おかしい。
今日は全てが順調の筈なのに。

ま、でも仕方ない。

出発地でのチェックインのタイミングなのか、機内に積み込まれた位置なのか、荷物の出てくるのが遅いのはよくあること。


やがて取り囲んでいた人々も1人去り、2人去り、待っている人も回っている荷物も地味な感じに成り果ててゆく。


いやいや、ここまで順調に来ているのだ、そろそろ出てきてちょーだいよ!と思った瞬間、それまでガガガ、時々ギギギと音を立ててやる気なさそうに回っていたターンテーブルが、ガクンと停止する。

「ん?」

静まり返った空気の中、同じように荷物を待っている4〜5人がお互い顔を見合わせ、止まって佇んでいる荷物を確認するが全員無いのジェスチャー。

「うむ。。初のロストバゲージきたか、コレ!」

というわけでクレームタグ片手に問い合わせると、どうやら乗客の身体はこの空港で降りたのだが、荷物はそのまま航空会社の本拠地である国まで行ってしまったということであった。
前夜、荷物が主人とは違う目的地へ行きたがっていた素振りはまるでなかったのでやはり航空会社側のミスである。

「折り返しの便ですぐ運んでくれるんですよね?明後日あたりには着く?」

「それが週に1本しか便はないんだよ、boy。あはは」

「あはは」じゃねーよ。

さて、貴重品は身に付けていたとはいえ、荷物が手元に戻るまで着替えはないし、洗面用具もない。その他諸々もない。

旅を終える旅行者からタオルと石鹸を貰ったり、下着は裏返して穿いたりまぁ、スペクタクルな日々であった。


何せ限られた中でやりくりする低予算旅につき、極力出費は抑えたい。
生活に必要なものを買ってそれを航空会社に請求できるものか確認したところ

「それはないッス。貴方のためにこうして毎日何回もテレックス(インターネットもPCもない時代の通信機器)で連絡を取っているのです。寧ろお金貰いたいのはこちらです。あはは」

だから「あはは」じゃねぇっつうの。

怒る気力も茄子。
毎日何回もって・・・向こうのオフィスにテレックスあんの?と聞きたい。
一番安いチケットに飛びつくとこうなっちゃうのかなと思う反面、貴重な経験ができたと感じる自分もいて。

結局、荷物は無事に戻っては来たのだが、(デジタルの小さな目覚まし時計とハイライトワンカートン🚬が消失していた)それは2週間後のことであり、それもかなりの紆余曲折を経てのことなので、なかなか面白かったのだが、記すのも単に億劫なので詳細は割愛だ。
まぁ、戻って来ただけでラッキーだとは思う。

ともあれ これ以降、2週間程の旅なら手ぶらで行ける自信がついた私なのだった。