「ねぇ、さっき見掛けた人は、誰なんだろう」
颯太は先ほどから、忍者のように消えた人影のことが、
気になっているようだ。
「えっ、ニンジャ?」
「さっきの…じいちゃんじゃあなかったの?」
裕太とジュンペイは、好き勝手に言っているけれども。
じいちゃんは「はっ?」と大きな声で聞き返すと
「ワシがニンジャだって?
いくら何でも…それは無理だなぁ」
こんなおいぼれじいさんに、何が出来るというんだ?
「なりたいのは、山々なんだけどなぁ」
ははは、と豪快にじいちゃんが笑う。
「きっと…この辺りに済んでいる住人か、たまたま遊びに
来た人なんだろうなぁ」
明るくそう言うけれど。
(でも…こんな所に来る人なんて、いるのだろうか?)
頭をかしげる裕太に向かって、
「まぁ、無人島だと聞いていたんだが、いてもおかしく
ないなぁ」
じいちゃんが、そう言う。
「なんで?」
こんな何もない所に、と裕太は思うのだけれど。
「それは、その人の価値観だからなぁ」
サラリと、じいちゃんが諭すように言う。
「世捨て人とかいるし…田舎暮らしがしたいって言う人もいるしな」
「え~、観光地でもないのに?」
「何もないのがいい、という人がいたって、おかしくはないだろ」
やけに強く言うじいちゃんに対して、裕太はどうしても、
うなづくことが出来ない。
「おそらくは…その卵の中身を育てていたのか、守っていたの
かもしれないなぁ」
半分自分に言い聞かせるようにして、じいちゃんはポツンと
そうつぶやいた。

