「ずいぶん立派な木だね」
裕太が垂れ下がる枝に、軽く触れると、オジサンは裕太を振り向き
「そうだろう?」
嬉しそうにうなづいた。
「この木は…とても神聖な木なんだ…
何十年も、何百年も、この島を見守っているんだ」
そう言うと、そっと幹を撫でる。
ゴツゴツとして、裕太の手では抱きしめられないほどの、太くて大きな胴体だ。
根は何本も複雑に張り巡らされ、このガケにしがみつき、からみつくようにして、伸びている。
一体、どのくらいの歳月、倒れることなくそこにたたずみ続けてきたのか…
オジサンが言うのも、素直に受け止めた。
じぃっとその幹に触れていると、木の表面から、まるで脈打つように、
ほのかなぬくもりが伝わってくるようだ…
「この木って…生きているんだね」
裕太は思わず、かすかな声でつぶやいた。
するとオジサンが、裕太を見て微笑む。
「そりゃあ、生きているだろ?
だって、枯れていないんだから」
何を言ってるんだ、と呆れた顔で、いきなりジュンペイが裕太を見る。
そうじゃないんだ、と裕太は言おうとしたけれど、チラリとオジサンの方を見ると
「そうかぁ~そうだよね」
あっさりと引き下がる。
自分でも、何を言ってるんだ、と思ったからだ。
「で、ここから、どう行くの?」
それでもまだ、何かを急ぐように、早口でジュンペイがオジサンに聞く。
こう見えても、ジュンペイも結構楽しんでいるのだ。
ただ…自分と感じ方が、少し違うだけなのだ。
裕太はそう思うと、ヘラリと笑う。
「そうだな」
オジサンも穏やかなまなざしで、ジュンペイの方を見ると
「ここをまっすぐに抜けた後、じきにわかるよ」
意味あり気に言う。
「なんだよぉ。わかるってどういう風に?」
なぜだか、ずいぶんもったいぶっているよな、とジュンペイはまた、ぷぅっと
頬を膨らませた。

