「断っておくが」

シニアオヤジーズの顔を見ながら、善行はきっぱりと言います。

「みんなが、期待するようなことは、何もないからな!」

幾分ムキになって言います。

「和枝さんが、焼きもちやくだろう」

そう言うと、一気にオヤジ達の顔色が曇りました。

 

 和枝さんとは、善行の亡くなった奥さんで、善行は毎朝、

仏壇に手を合わせると、和枝さんに話しかけているのです。

もちろん、メンバーのみんなは知りませんが・・・

みんながどんなに、再婚を勧めても、善行はガンとして、

首を縦には振りません。

「だって、誰も墓に行かないと、可哀そうだろ」と言って、

そこでおしまいになるのが、常なのです。

もちろん、みんなわかってはいるのですが、

折に触れて、善行になんとか、茶飲み友達でいいから、

見つけてやろう…という思惑を見せて来るので、善行としては、

いい迷惑なのです。

 

「まぁまぁ、照れなくてもいいからさぁ」

大げさなくらい取り乱す善行に、よっちゃんは、かなり面白がって

ヤジを飛ばすので、

「うるさい、ヨシアキ」

にらむ善行に、珍しくこの日はカメさんも、店には来ていて、

「遠くからわざわざ、来ていただいて…大変だったでしょう?」

落ち着いた口調で、老婦人に声をかけると、カメさんの物腰に

鷹揚に頭を振り、

「いいえ、大したことはないんですよ。

 親戚の者が近くに住んでいますからね。

 その人に、連れて来てもらいました」

そう言うと、傍らに立つ中年女性の顔を見上げました。

 

 

 

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