ようやく「万引き家族」を観ました | 第一経営グループ代表 吉村浩平のブログ

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前回は「そして、バトンは渡された」という本を読んだ感想を書きました。実の子供でないにもかかわらず、それぞれの親が心からの愛情をもって一人の少女を育てていく不思議な繋がりに、何となくホッとする小説でした。

 

ところで一年以上前に買って、積ん読状態にあった本が「万引き家族」です。読むのは映画を観てからにしようと思っていたのですが、昨年の封切の時は何かとタイミングが合わずに来ていました。テレビ上映も見逃していて、ようやく先週末に埼玉映画ネットワークの上映会で観ることが出来ました。本の方は、これから映画の余韻を楽しみながら読もうと思っているところです。

 

さてこの映画、樹木希林さんが演じる一人の老婆のもとに集まった「ある家族」の不思議な日々を描いた物語です。それにしても希林さんが晩年に出演された幾つかの映画がありますが、改めて彼女が表現する人間の幅の広さには感動します。

 

この映画では「日日是好日」でみせた知的な女性の正反対と言ってもいいくらいの、人生十分にくたびれ切った、入れ歯を外した老婆、どちらかと言えばちょっと薄汚れた、ごみ屋敷に住む変人のような雰囲気で描かれています。それでも「あん」を含めて彼女が演じる女性に一貫しているのは、他人の痛みが分かる心根の優しい人というものかも知れません。

 

映画「万引き家族」は、昨年(2018年)のカンヌ国際映画祭で最高賞パルムドールを受賞した注目の映画です。是枝裕和監督が自身の本をもとにしたものですが、以前の「そして父になる」という映画同様に、家族の繋がりとか、本当の家族の絆って何だろう、という問いかけをしているように思います。また今回も、リリー・フランキーさんがいい味出しています。

 

是枝監督の家族をテーマにした映画は、そうした問題提起をしているところでスパッと終わっています。あとは映画を観た人が考えることに意味があるのでしょう。先週のブログにも少し書きましたが、自分の子供を圧倒的な力関係を背景とした言葉の暴力で罵倒する、そして遂には命をも奪ってしまう物理的な暴力で虐待するような、そんな親たちがクローズアップされる社会に何故なってしまったのだろうという、単に一家族の問題というよりも社会問題として考えさせられます。

 

是枝監督はこの「万引き家族」で、かなりイビツな家族模様を描いていますが、じゃあ荒唐無稽な世界を描いているかと言えば、決してそんなことはないという気がします。小さな子供の問題だけでなく、学校生活でのこと、親の期待への反発、会社勤めの中でのこと、落ちこぼれと自覚しながら生きていくこと、夫婦間のDV等々、この映画が今の社会のヒズミを映していることが明らかなだけに、様々なネガティブな事象を思い浮かべてしまいます。

 

本当に今の時代なら、都会のど真ん中にこんな「家族」が普通にあっても不思議ではない、そんなことを思います。家族と血の繋がりにどれだけの重みを考えるのか、何をもって家族と言えるのか、帰りたいと思える場所であることの意味など、是枝監督の結論を示さない映画の終わり方に若干の不完全燃焼の思いを持ちながら、同時にその奥行きの深さにまた今回も感動しました。

 

そしてもう一つ、本筋とは関係ありませんが、あまりに自然な子役の凄さにも、最近のスポーツの世界だけでなく改めて時代の変化、それぞれの業界における子供時代からの育成の仕組みが急速にレベルアップしていることを感じるものがありました。