味の素の「残業なし奮戦記」を読んで | 第一経営グループ代表 吉村浩平のブログ

第一経営グループ代表 吉村浩平のブログ

第一経営グループ代表 吉村浩平のブログです

先週の日経新聞に、味の素の西井社長が先頭に立って進めている、長時間労働是正の取り組みを紹介する「残業なし奮戦記」という記事が5回にわたって連載されていました。西井氏は2015年に社長に就任し、その年に2020年までに年間労働時間を1,800時間に短縮すると経営会議で決定したといいます。

 

もちろん労働時間を減らすだけでなく、一方で売上や利益を増やしながら、という命題へのチャレンジです。これは大企業に限ったことではなく、中小企業を含めてほぼ全ての経営者が頭を悩ませているテーマだろうと思います。当社でもちょうど「多様な働き方」について研究を進めようとプロジェクトチームを立ち上げたばかりです。少し参考になりそうなタイムリーな記事に出会い興味津々で読ませてもらいました。

 

ところで味の素は、当時の社員一人当たり年間労働時間は1,976時間だったものが、2018年度末では1,820時間まで減らし、今では社員の4分の318時前には帰宅するそうです。大企業の社員誰か一人でなく社員の平均で年間150時間余り短縮するというのは、月あたりでは12時間余りです。実質的に残業を社員平均でそれだけ減らしているわけで、これはすごい。

 

そもそも西井社長が労働時間短縮について問題意識を持ったのは、2013年にブラジル現地法人の社長に就任した際に、現地社員の働き方を見たことがキッカケです。終業時間にはさっと帰り、夕食は家族と一緒に食べる。1か月の有給休暇もある。なのに成果をきっちり挙げている。現地社員のメリハリを利かせたこうした働き方、生産性の高い働き方にショックを受け、日本の就労スタイルに疑問を持ったようです。まさに世界から優秀な人材を呼び込むためにも、長時間労働からの脱却は必須の課題ということです。

 

西井氏が行った様々な改革が紹介されていますが、まず会議の改革です。いかに効率的な会議にするか、回数、時間、参加者の絞り込み、更に参加者の移動時間の無駄をなくすためのIT投資などがあります。こうしたことは当社でも昨年来、それぞれの単位で意識して取り組みを進めているもので、なかなか難しいですが大いに共感できるところです。

 

しかしそうした取り組みを進める中で、西井氏が感じた気がかりが「労働時間短縮が目的化していないか、会議で結論を急いでいないか、利益を生む大切な仕事が出来ているか」ということでした。また一律に終業時間を早めたり、残業を削減するにしても、それが結果的に顧客との関係で社員へしわ寄せがいくようであっては意味がありません。

 

記事の中では、フレックスタイム制の導入や直行直帰、更には工場を含めた在宅勤務の工夫、「無駄を省いたシンプルな仕事」のための5S(整理・清掃・整頓・清潔・躾)活動など、様々な取り組みが紹介されています。そうした一つひとつのノウハウは、当社でも参考にできるものもあれば、効率性だけに目を向けないで「何のために」を考え、慎重に検討する必要があると思うものです。

 

ただ私がこの記事を読んで何よりも感じるのは、「目的と手段を間違えてはいけない」ということを味の素はきちんとおさえて、「いいあんばいで」労働時間という量の問題から、次のステップである質の課題にギアチェンジしていることです。すなわち経営における現状の問題解決から創造的な課題解決へということです。