漁師とともにイノベーションを起こす力 | 第一経営グループ代表 吉村浩平のブログ

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山口県の萩大島船団丸代表である坪内知佳さんが書かれた本「荒くれ漁師をたばねる力」を読みました。テレビの「カンブリア宮殿」でも取り上げられたということですが、残念ながら私は見ていません。一年ほど前の同友会の会員向け新聞でこの本が紹介されていて、たまたま切り抜いていたものです。ついでに、なぜか坪内さんは山口ではなく東京同友会の会員なのだそうです。

 

坪内さんは1986年福井県生まれ、船上の漁師たちをバックにスーツをびしっと決めた若いきれいな女性が本の表紙を飾っています。当時24歳、シングルマザーとして必死に生きて行こうと翻訳や宴会場のコンパニオンなどフル稼働で頑張っている中、萩大島船団丸の長岡船団長と顔見知りになり、不振にあえぐ漁業の再生を依頼されます。

 

漁師たちのなんとかして島の漁業を変えて行きたいという熱い思いに、坪内さんのワクワクする思いが湧き上がってきたと言います。しかし坪内さん、漁業はもちろんのこと、経営についても素人であることに違いはありません。とにかく農水省の「六次産業化・地産地消法」に基づく認定事業に応募するところから始まりました。

 

当然のことながら、そんな簡単に申請が通るはずありません。でもそこから負けず嫌いの本領が発揮されて行きます。坪内さんの創意的な行動、エネルギー溢れるチャレンジが始まっていくのです。水産業の市場環境や経営そのものを必死で学びながら、自らのアイデアをブラッシュアップしていきます。

 

行動力も半端ではありません。子供を24時間保育に預けて、日帰りで大阪まで飛び込み営業に行くのですが、ただ名刺を置いてくるような生ぬるい営業ではありません。トイレで食べたものを吐き戻しながら、何件ものお店を回って刺身を食べ、料理人と話をするという、ちょっと信じられないような営業スタイルです。

 

一方で、漁師自らが販売まで手掛けるという六次産業化は、地元の漁協と激しい対立を引き起こします。そんな中での分裂騒動や長岡さんたちと方法論をめぐるバトルも絶えることがありません。魚を商品として売り出す先には、目利きのお客様がいるという意識変革を漁師に求める、その困難さとの闘いは続きます。

 

それでも坪内さんが頑張れたのは、この方向に間違いがないと確信を持てる手ごたえを感じていたと同時に、みんなが幸せになるための夢とロマンを追い求めていたからだったのかも知れません。しかも単に萩大島の漁業を再建するというだけでなく、大漁や不漁にかかわらず漁師たちの収入が安定できるよう「水産業の未来のために」と、もっと大きなビジネスモデルの夢を描いていたからだろうと思います。

 

今は、鮮魚販売部門だけでなく、旅行部門や環境部門、コンサルティング部門をもつ新会社を立ち上げ、事業の多角化を進めていると言います。坪内さんは「みんなが手をつなげば、必ずすごいことが起こる」という言葉でこの本をしめています。

 

萩大島船団丸には、これからも様ざまな試練が襲い掛かっていくのだろうと思います。でもこの本を読んでいると、萩大島のみんながお互いの力を信じ、手をつないだチャレンジは、必ず一つひとつの困難を乗り越えて、新しい何かを生み出してくのだろうと思えます。

 

私はこの本を読んで、何よりもオシャレな感性を持った発想、それでいて逞しく、したたかな坪内知佳さんに、元気をもらえたことだけは確かです。それにしても、今年でまだ32歳というから驚きです。そう思うと坪内さんもすごいけれど、水産業が素人の坪内さんに船団の未来を託した漁師たちも柔軟なすごい人たちです。一見するとあり得ないような出会いでも、そこに必然があったのかも知れません。