アベノミクスをいまさら | 第一経営グループ代表 吉村浩平のブログ

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先週9日の火曜日は埼玉税経新人会のオープン例会があり、明石順平弁護士による「アベノミクスによろしく」と題した講演があるというので私も参加させていただきました。この間は経営指針セミナーの合宿や飲み会が続き、少しばかり寝不足が続いていたのですが、幸いなことに明石さんの刺激的な話は一瞬たりとも睡魔を寄せ付けることがありませんでした。

 

だいたい「三本の矢」と「新三本の矢」はどこに飛んで行ったのか、そもそも放つことは出来たのか、今やほとんど忘れられようとしているのですが、第4次安倍政権は性懲りもなく「成長戦略で明るい日本に!」などと言っているようです。私に言わせると、まったく「アベノミクスをいまさら?」という感じすらします。

 

今年の初めに「アベノミクスをわかりやすく」といったテーマで話をする機会があり、その資料として明石さんの「アベノミクスによろしく」と題した新書を読んでいました。本の前書きにも書かれていますが、とにかく分かり易さを重視することを念頭に全編が対話形式で書かれています。また二次利用がフリーという漫画「ブラックジャックによろしく」をもじった題名とし、更に一部は挿絵にも使いながら、堅苦しくなくアベノミクスの実態を暴露しようという意欲的な本です。

 

明石さんの講演は、データが満載されたパワーポイントのレジメを使いながら、冒頭「僕の話を聞くと、だいたいは暗い雰囲気になるので・・・」という感じで始まりました。講演テーマが同じですから、基本的に本の内容をベースにしている話になります。

 

そもそも「アベノミクスの三つの矢」と言っても、また今更どんなに「成長戦略で明るい日本に」などと言われても、アベノミクスの実態が、日銀が民間銀行にお金を大量に供給する「大胆な金融緩和」一本に尽きるという周知の事実は、今もって変わることはありません。

 

そのアベノミクス「唯一の戦略」の間違いを言う明石さんの「例え」が面白い。「スポーツジムに通って筋肉を鍛えていくと実は体重が増えるんですね。じゃあ逆に体重が増えると筋肉がつくかと言えば、ひたすら大食いをしていれば、ただのデブになるだけなのは当り前のことです」と言われます。実に分かり易い。

 

日銀の黒田バズーカで、ひたすら金融緩和をしてきた結果、物価が上がり、賃金が上がり、景気が良くなったかといえば、全くそんなことになっていません。消費税を8%に上げて物価が上がり、更に円安誘導した分だけ輸入に関連する物価は上がりましたが、賃金はごく一部の大企業のみ上がる状況です。当然のことながら一方で圧倒的な庶民の生活は厳しくなるわけで、それで国内の消費需要が伸びるはずがありません。日銀が民間の金融機関が保有する国債をめいっぱい買って、ジャブジャブ供給するマネーは、ただただ民間銀行に留まっているだけです。

 

もう一つ興味深い話がありました。201612月にGDP算出方法の変更を行い、それを1994年に遡って改定して公表した「疑惑のGDP改定」です。それにより名目GDPの値はピークだった1997年と2015年を比較した場合、改定前に20兆円の落ち込みがあったものが、改定後はわずか0.9兆円の落ち込みになり、なんと19.1兆円もかさ上げされていると明石さんは言われます。

 

ここで注目するのは、改定した項目のうち「その他」という意味不明の項目があり、そこで数値のかさ上げが行われているということです。言えることは、とにかく具体的な改定根拠が公表されないままに、名目GDPの値はかさ上げされ「アベノミクスの失敗」を覆い隠す役割を果たしていることは事実なのです。

 

安倍政権になって次から次と明らかになっている、「優秀な」官僚によるデータのねつ造、文書の改ざんがありました。もしかしてGDPの統計データすらも、そうした忖度の対象になったということなのでしょうか。

 

明石さんのアベノミクスを検証する話は、どんどん暗くなる話として展開されて行きます。雇用に関するデータの分析では正規と非正規の実態を前提にデータを見る必要をいい、GPIFや日銀ETFによる株価操作の問題、円安を背景にした輸出額の増加と輸出数量の増加は別物であるという指摘、そして「残業代ゼロ法案」といわれる高度プロフェショナル制度と企画業務型裁量労働制の拡大についても、その詐欺的な誤魔化しの手法を指摘して「まっ赤な嘘、圧倒的嘘」と力説されます。

 

最後はついに国債の発行残高の問題になり、未来の日本について「希望は皆無」という結論に至るのです。そもそもアベノミクスが少し良いように見えるのは、リーマンショック後の景気回復の流れにちょうど乗ったからということであり、決してアベノミクスのおかげというものではないことは明らかです。

 

また恐ろしいことに国が必死で株価を買い支えているのだから、今後とも大量に売却することは出来るはずがありません。売られて下がっていく株をひたすら買い込むという、こんな暴挙を続けている以上、近いうちにアベノミクスが隠し切れない破綻を示すのも明らかです。その時のショックは想像を絶するものがあります。明石さんは、「そのタイミングが安倍政権の時であればまだ納得できるが・・・」というのが精いっぱいという感じでした。