井岡一翔 vs 田中恒成 | R I N G C H E C K !

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打撃系格闘技の練習や試合についてのブログでしたが、
現在は海外ボクシングとムエタイの記事が中心です。
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あけましておめでとうございます。 昨年はコロナの猛威が始まった年であり、 結果自分自身も変化を強いられる一年となりました。 しかしながら そのような一年の大晦日に このような素晴らしい日本人対決が実現出来た事は、 苦境の中の一筋の光だと思います。












この試合におけるオッズ ( 英大手ブックメーカー、 ウィリアムヒル社のオッズ ) は、 井岡勝利が2.30倍、 田中勝利が1.61倍、 引き分けが17.00倍。 田中選手やや有利のオッズが出ておりました。 当ブログ管理人の事前予想も このオッズと近い物であり、 前半は田中選手のスピード溢れるオフェンスに井岡選手が付いていけず、 後半になると パリクテ戦シントロン戦 のような井岡選手の正確無比なショットが田中選手を追い上げるだろう、 と … 前半のポイント逃げ切りで田中選手の12R判定勝利 ( 僅差で 115 - 113 程度 ) と予想しておりました。 … まさか … このような試合展開になるとは … 夢にも思いませんでしたよ … 。





▼ 井岡一翔 vs 田中恒成







1R 初っ端のワンツーでの挨拶から田中選手の調子は間違いなく良かったし、 2Rも超人的なクイックネスからの連打を見せ、 このまま前半は事前予想通りに田中選手がポイントを集めるだろう、 と思ってましたが … 2R後半から3Rに掛け、 早くも井岡選手が左ジャブをきっかけに上下左右の各ショット、 足の動きでボクシング幅を見せ始める。 井岡選手の力の抜けたリードの餌に田中選手は全力で喰い付いてしまい、 井岡選手に打ち終わりを狙われ始めてしまい … 早くもリングジェネラルシップが井岡選手の方へ傾き出します。





井岡選手、 下がり過ぎず絶妙な位置をレンジキープしたまま プレス & 小さなバックステップを田中選手の動きに合わせて行なう。 イラつきを隠せない田中選手が一気に強振で連打に入って来ると、 井岡選手は小さなヘッドスリップとブロッキングでディフェンスに徹し、 打ち終わりをコンパクトな左右カウンターで狙い打つ。 実に勤勉な前後の小さな動きから、 ナチュラルにポジションセットアップしてピンポイントで急所を狙う。 驚愕なのは井岡選手のモーションの無いジャブの的中率 & 他のショットの無駄打ちの少なさ。 まるで機械仕掛けのような正確な各種ショットの数々に … テレビ画面越しからも思わず脱帽してしまう。





ジャブ、 ワンツーを見せておいて 次はワン右フック ( フロントガードを超え耳に ) 、 ヘッドトゥヘッドの体勢に入る構えを一瞬見せておいて、田中選手がグッとガードを固めて堪えた瞬間、半拍ズラして左のレバー、左フックと繋げる。 近距離時ヘッドトゥヘッドからの攻防も実に巧く、 重心低く、 ディフェンスからのシフトウェイトをそのままオフェンスに転用し、 小さなパンチをガードの空いてる箇所に正確/的確にコツコツ当てている様が良く分かる。 その姿は まさに職人。 田中選手のボクシングスタイルだって世界的に見ても素晴らしく美しい物であるし、 これまでの世界戦を観ても、 中間距離 & 近距離は苦手じゃ無いはずですが … 井岡選手と対峙すると、 あの田中選手でさえもワイルドで粗雑なボクサーに見えてしまう。 それほどまでに井岡選手のボクシングには無駄が無く機能的。 この試合で改めて再確認させられる井岡選手の凄まじいばかりのボクシングスキル/レベル。





5R 井岡選手が田中選手から奪った最初のダウンは、 ヘッドスリップしながら右ストレートの同時打ち … から返しの左フック ! ( この際 井岡選手の逆手のガードはガッチリと上がっているのに対して、 田中選手の逆手のガードはルーズ … ) 6R 二度目のダウンも左ジャブからの左フックダブル ( 所謂 左のトリプル ) いずれのダウンも強烈な左フックのカウンターでした。 井岡選手は田中選手の左ジャブに対する右クロスカウンターのタイミングも合っているので、 いよいよ田中選手は身体能力に任せた強引な攻め手以外に、 井岡選手に抗う手法が無くなってしまいます。





井岡選手の素晴らしい所は戦術面での “ 迎撃の優位性 ” ( シンプルに言うと、 アタックを仕掛ける側は攻撃までの移動も含めた動作が必要になるのに対し、 迎撃側は盤石の体勢から迎え撃つ事だけに特化出来る、 という理論。 ) を どの試合に置いても実に有効に用いる所。 田中選手が焦ってオフェンシブになればなるほど、 井岡選手の術中に嵌まっていくのです。 事実、 パリクテやシントロン同様、 田中選手の被弾率もRが進むに連れて高くなり … ラストの流れに繋がって行ってしまいます ( 田中選手もダウン以降の展開で 「 倒さなければ ! 」 とムキにならず、 12R掛けて一度思い切ってアウトボックスするなど、 距離調整を今一度設定し直すくらいの戦術変更があっても良かったのかな、 とタラレバを思ったりもします。 )





決定打となった8Rの一発も、 田中選手のワンツーのワンに合わせた井岡選手の右クロスからの返しの左フック ! これまでのRで2度ダウンを取った物と同タイミングのカウンターで、 この一発もまた 完璧なタイミング … まともに入っています ( 田中選手は木村翔戦のような右ストレートの同時打ちは得意なのですが、 左フックに関して、 同時打ちに対するディフェンスが ここまでルーズだとは … ) 染谷路朗レフェリーのストップは至極妥当で、 良い判断だったと思います。 井岡選手の完全TKO勝利でした。 その機械仕掛けのような正確で無駄の無いオフェンス/ディフェンスを誇るボクシングスタイルは … ウクライナ勢、 カザフ勢、 キューバ勢などのトップアマ上がりが見せるような物とも、 ハイテク系の物とも、 まるで違う … それは日本の美しき一軸ボクシングスタイルの土台の上に徐々に徐々にアップデートされ出来上がった物であり … 基礎/基本の練磨が、 強靭なフィジカルアビリティを誇る相手をも完封するだけのテクニックを生み出す … この事を 改めて教えてくれる物でした。 なるほど 井岡選手の歴戦を今一度よくよく省みれば、 そこには その境地に辿り着くまでの道程、 その証明が しっかりと在るのでした。 田中選手にとっても今回の井岡選手との一戦が今後のボクシングスタイル変遷における重要な分岐点となってくれる事でしょう。













「 完敗です。 こんなに差があったのかと … 」 という試合後の田中選手の言葉 … これは偽らざる今の田中選手の本音でしょう。 そして田中選手自身だけでなく、 多くのボクシング評論家、 ボクシングメディア、 そしてボクシングファンの皆様も同じ感想を持ったのではないでしょうか。 少なくとも当ブログ管理人は この両者に ここまでの差があるとは想像すらしていませんでした。 もはや井岡選手の実力を疑う者は誰もいません。 ジョシュア・フランコとは今やっても負ける要素がありません。 ロマゴン、 エストラーダ、 アンカハス、 誰とやっても物凄い勝負となる事間違い無しだし、 勝つ可能性も高いと思います。 最後に当ブログ管理人の今試合の採点です ↓













結果:井岡選手 8R TKO勝利