世紀の対決の結末に、スタジアムは地響きを立てて沸いた。歴史的瞬間に立ち会ったという興奮に、誰もが包まれていたのだ。
 たかしも
 「おおぉぉぉおおおおおお!!!!だぜぇぇっっっ!!!!!」
 と、勝利の喜びに雄たけびを上げていた。

 ボクは、それをみて、『うれしそうで何より。』と思った。
 さて、これから勝利者インタビューなどがあるだろう。それから、何がしかのセレモニーもあるだろう。全て付き合えば、一時間弱もかかるだろうか。
 正直、ボクは帰りたかった。これからの勝利者インタビューもセレモニーも、その主役はたかしであって、ボクではない。ボクは、別にいてもいなくてもいいに違いない。別にいてもいなくてもいいのであれば帰りたい。それから、どこかいい感じのお店で、温かいおウドンを食べたい。幸い、皆の注目はたかしに集まっているので、少しづつ少しづつフェードアウトしようとした。
 
 その時

 「石橋英明!!思い知ったか!!」

 と、たかしがボクを指差して言った
 人がせっかくフェードアウトしようとした時に、どうしてこの人はこんなこと言うのかなと思ったけど、

 「そうだね。」

 と応えてあげた。

 「この負け犬!えっと・・・悔しいだろ!」

 「うん。」

 「『うん』て・・・何か・・・何か言うことあるだろ!!」

 「帰っていい?」

 「え?」

 「帰っていいかな?」

 「そうじゃなくて!!・・・えっと・・・謝れよ!!!」

 「あ・・・うん・・・じゃぁ・・・目にジェラートを投げつけて、ごめんなさい?」

 「そうじゃないだろぅううううう!!!!!!!!」

 たかしは、怒り狂って叫んだ。赤いオーラに包まれて、その周囲に火花がバチバチ咲いていた。

 たかしは、めっちゃキレてた。

 「たかし殿、やめるでござる!!勝負がもうついた以上、これから先はただの暴力でござる!!!」

 「・・・ここは何とか食い止める・・・君は・・・早く立ち去るんだ!!」

 たかしとボクとの間に、ケンとフランデスが立ちはだかった。
 いつの間にか事態は大事になっていた。
 ボクは事態がつかめずに、ポカーンと立ち尽くしていた。
 エリと、マナミも立ち尽くしていた。
 
 「いーしーばーしーひーでーあーきぃぃいいいいい!!!!!!!」

 たかしが叫んだ。彼を包むオーラがさらに大きくなり、火花は稲妻になった。
 ゴゴゴゴゴと凄まじい音をたてて、スタジアム全体が揺れだした。
 観客は、悲鳴をあげ、我先にと逃げ出そうとパニックを起こした。

 なぜ、こんな憎しみをぶつけられなければならないのだろう。
 一体、ボクが何をしたと言うのだろう。
 ボクは、まったくその場を動くことが出来なかった。

 「やめるでござる!!!これ以上は、たとえたかし殿といえど・・・」

 「畜生!!!石橋英明!!!!お前は、俺達を生んでおきながらっ!!名前をつけて、物語を作っておきながらっっっ!!!!」

 ボクが彼らを作り生み出したことが悪いというのだろうか・・・幼いボクが空想に遊んだことが、そんなにいけないことなのだろうか・・・

 「どうして結末を与えないまま放置したっっっ!!!!!」

 たかしが吠えた。
 その声は、とても悲しく響いた。

 「お前に見捨てられて・・・俺達が、どんな気持ちだったか・・・お前に分かるかぁああ!!!」

 たかしの言葉が、ボクに突き刺さった。
 たかしの言う通りだった・・・
 
 『バーニング・ファイヤー・フレイムたかし』
 それは小学生の頃のボクが作った、ボクだけの、だけどボクの中ではちゃんと存在するお話だった。
 その物語の中でたかし達は、戦い、笑い、生きていた。
 だけど、ある時から
 具体的に言えば、小学四年生の頃、地区の子ども会のゴミ拾い活動の際に、成人向け雑誌の自動販売機を見つけてから、(一個上の大沢君が、『英君見ちゃ駄目!!』と言うのを振り払って見た。)性に目覚め、それ以降、想像や妄想の世界がエロ一辺倒になったその時から、
 たかし達の冒険は、止まったままになってしまったのだ。

 一度彼らの物語を始めておいて、
 ボクは、その結末をつけることを、無責任に放置してしまったのだ・・・

 『ごめんなさい』
 ボクは心の底から思った。
 怒りに燃えるたかしに一歩一歩近づいた。
 『ごめんなぁ』
 ボクの胸は、たかしへの謝罪の気持ちでいっぱいになった。

 でも、たかしへ告げるべきなのは、そんな言葉ではないことくらい分かっていた。

 ボクは、たかしの肩に手を置いて、言った。

 「大魔王ウルゴリラには魔法は効かない。剣でも倒せない。最大魔法の力を剣に乗せて攻撃するしかないんだ。だから・・・


 ・・・ボクは物語を紡いだ。ウルゴリラを倒すために、たかし達は伝説の武器を手に入れた。
 たかしは剣を、フランデスは鞭を、ケンは刀、ブーはレスラーシューズ・とみ、けんた、やすおの3人は釣竿・・・

 ボクが口にした瞬間から、まるでずっと前からそこにあった様に、たかし達の剣や鞭や刀が現れ、その代わりに、ボクの中からまた何かが消えた。
 考えれば当たり前のことだ。
 この世界は、言葉で出来ている。
 剣や鞭や刀も言葉で出来ていて、その言葉は、ボクの頭の中から出て行ったモノで、
 だから、ボクは、今何かをなくしたんだろう。

 それから、また、物語を紡いだ。

 激しい戦いの後、大魔王ウルゴリラは倒された。全ての世界に平和が戻って、つでに、あんなことになった村娘のお米ちゃんも、なんだか無事に元に戻って、それから、たかしとお米ちゃんは結婚して、子供が3人生まれました・・・

 たかしの側に寄り添うように、村娘のお米ちゃんと、男の子2人と女の子1人がそこにいました。多分、女の子は、このあいだ学校で習った『下こく上』(戦国時代とかの言葉)あたりがそうなったんじゃないかと思います。

 たかしのお話は、終わりました。でも、ボクはまた新しいお話をし始めました。
 次から次へと、どんどん新しいお話がボクの中で生まれてきたからです。

 ・・・王子様は、もう泣くことを止めました

 ・・・記憶をなくした2人は、また『はじめまして』から始めました

 ・・・カエルは一生、トムのことを忘れませんでした

 ・・・味ご飯にカレーをかけたよ(食えないことはない)

 ・・・つくえだけが残りました

 ・・・それがサバのゆらいです


 ぴちぴちした さばが めのまえで はねておる
 それからね
 それからもね
 どんどん、ぼくのなかから、おはなしがでてくるけんね
 どんどん、はなしをしたら、なんかいろんなもので
 せかいがいっぱいになっていって
 それからね
 ぼくがどんどん、からっぽになっていくきが、したっちゃけど
 でもね、
 あんね、

 ありのす のなかに おおきなひとが おるとよ
 
 かぼちゃ で うみが きいろく なったとよ

 おおかみ が はなを いっぱい うえてね・・・・

 あんね

 きいて

 それからね 

 ・・・それから

 それからね・・・















 「いしばしひであきくん」

 そうだれかがいって、やけん、ふりむいたら、きれいなおんなのひとが おってね

 「それ、あたしのだから、かえしてね」

 てゆって、なんかしかくいのを ぼくのてから とったんよ

 きれいなひと やなって おもって、 おんなのひとば みとったらね
 
 やさしくわらって
 
 こうゆったんよ

 「おいで。あたしが『ことば』を おしえてあげる」

 
 最終章・旅の終わりとながいながいながい道 へ続く