馬が走っている


目の前に吊るされたニンジンを

おいしそうなニンジンを

ただただ食べたい一心で

走る走る

ひたすらに走る

どんなに疲れていようと走る走る

ひたすらに走る


「このニンジン最高においしいよ!」

「このニンジン食べてくれるとうれしいな!」

「このニンジン食べると最高に幸せになれるよ!」


どこからか聞こえる声を受けて

走る走る

ひたすらに走る

どんなに疲れていようと走る走る

ひたすらに走る


あるゲートを超えた

ニンジンをもらえた

「さぁ食べて、おいしいよ!」

「一生懸命頑張って食べてくれてうれしいな!」


疲れた身体であえぎながら

とりあえず目の前のニンジンを食べる

「あれ?こんな味だったのかな?」

「これって・・・おいしい?」

「疲れてるからわからないだけかな・・・」

「まぁいいや頑張ったんだからとにかく食べておこう」


しばらくして

「さぁ、今度はもっとおいしいニンジンを食べてみようね」

また目の前に吊るされる

新しいニンジン


今のニンジンがいまいちだったので、

今度こそおいしいニンジンだろう!と思って


走る走る

ひたすらに走る

どんなに疲れていようと

ひたすらに走る


また声が聞こえる

「すごいね!かっこいいね!」

「頑張ってくれてうれしい!」

「今度のニンジンは最高にうれしいよ!」


その声がうれしかったから

走る走る

ひたすらに走る

どんなに疲れていようと

ひたすらに走る


ようやくにしてやっと次のゲートを越える

ニンジンが与えられた


疲れた体もそのままにかじりつく

がりがりぼりぼり

「あれ?こんな味だったっけ?」

「あんまり味しないなぁ・・・」

「疲れてるから味がわかんないのかな?」


「何か変だな・・・」

と思ったそのとき

「さぁさぁ今度はもっとおいしいニンジンがあるよ!」


新しいニンジンがつるされた

「さぁ早く走って!」

「あのニンジン食べたらもっと強くなるよ!」
(あのニンジン食べないと弱ってしまうよ)

「あのニンジンを手に入れたら幸せになれるよ!」
(あのニンジンを手に入れないと不幸が待ってるよ)


「そんなの嫌だ!(不幸になりたくない)」


だからまた走る走る

ひたすらに走る

どんなに疲れていようと走る走る

ひたすらに走る


「あのニンジンさえ手に入れれば楽になれるんだ」

「あのニンジンさえ食べれば幸せになれるんだ」

「あのニンジンさえ食べれば・・・もう走らなくていいんだ」


走る走る

ひたすらに走る

ニンジンを食べたいわけじゃなく、

ニンジンを食べたら楽になれる、走らなくて済む

それだけを目的に

走る走る

ひたすらに走る

どんなに疲れていようと

走る走る

ひたすらに走る


周りの景色には目もくれずに

もっと素晴らしいものがあるかもしれないそこには目を向けずに


走る走る

ひたすらに走る


ようやくにして、やっとにしてゲートを越えた


「はい!良く頑張ったね!ニンジンをあげるよ!」


がりがりぼりぼり

味なんてしなくてもいい

おいしくなくてもいい

別に幸せにならなくてもいい

もう走らなくて済むならそれでいい


がりがりぼりぼり

がりがりポロポロ


あれ?ポロポロってなんだ?


声がした

「あら、せっかくおいしいニンジンあげたのに気に入らないの?贅沢だね」

や、別に気に入らないわけでも無くて・・・

「はい!新しいニンジンあげるね!今度はもっともっとおいしいよ!」

また新しいニンジンが吊るされた

ゲートが開いた

また道がただ果てしなく続いている

目の前にはおいしそうなはずのニンジンが見えている


・・・・・

一体いつまで走らなければならないんだろう

一体いつになったら幸せになれるんだろう

一体いつになったら楽になれるんだろう


そう思いながらも馬は走りだした

風が冷たいわけでもないのに涙が止まらなかった


「俺は走りたいのか?」

「俺は何をしたいんだ?」

「俺は一体どうしたいんだ?」


でも走るのを止められなかった


止まると「応援してくれてる人を悲しませる」と思っていたから

止まると「応援してくれてる人に嫌われてしまう」と思っていたから

止まると「誰にも相手にされなくなる」と思っていたから

止まると「生きる場所がなくなる」と思っていたから


馬は走った

泣きながら走った

どこまでもどこまでも走った


「あのゲートさえ越えれば」

馬の頭の中にはただそれだけがあった

それだけしかなかった


周りの景色は目に入らなかった

馬を癒す水も草もたくさんあるのにすべて目に入らなかった

美しい風景も身体を休める寝床のある馬屋もまったく目に入らなかった

仲間の馬たちの姿も目に入らなかった

声をかける仲間もいたが声は届かなかった


馬は走っていった

泣きながら走って行った

どこまでもどこまでも走って行った



つづく




…この馬を助けたいと思った人へ


勇気を持って走るのを止めて、ちょっと止まってみてください

そうすると

今まで見えなかった素晴らしい風景が

目の前に現れます
 

身体を、自分を、労ってあげてください

走り続けなくてもいいんです

「今」は目先ではなく、「ここ」にありますから

大切なのは「今」です