ラグビー仲間からのLINEで、大好きな酒場が閉店することを知りました。

荻窪にある『世界のこにし』

1980年代に松尾雄二とハーフ団を組み、日本代表で活躍した小西義光さんが経営する正しい立ち飲み屋さんです。

開店当初は、元日本代表であるというようなことを一切出していない店内は、氏の潔さを感じました。

ただラグビー仲間たちが、少しはPRすべきだといろいろなものを掲示し始めたようなことは人づてに聞きました。

あれだけかっこよかった小西さんが、本当にただの立ち飲み屋の店主さんになっている。

そこにはオーラなど微塵もないのです。

かっこいい。

こういう人を、本当にかっこいいというのでしょう。

この日、何人かの歌仲間が舞台に立つ『メサイア』公演がありました。

場所は、杉並公会堂。

ならば、終演後にこにしに顔を出せるなあと思っていました。

そんな時、ラグビークラブの後輩から、今夜こにしに行きます！というLINEが入って来ました。

そうかあ、でも5時から飲んでいる奴らに9時過ぎまでいてくれとも言えないしなあと思っているときに、いい考えが浮かびました。

そうか、開演前にも少しなら顔を出せると。

私が突然に顔を出したので、後輩たちは驚いていましたが、喜んでくれました。

ただ店主の小西さんはまだ出勤していなかったのでそれが残念でしたが…

30分ほど飲んで語らって、そのまま杉並公会堂へ。

この日の演奏会は、アフガニスタンのために献身的に働き、その地で凶弾によって命を奪われた中村哲医師が現地代表を務めていたペシャワール会を支援する目的で開催されたものでした。

このコロナ禍に突入する寸前に、このヘンデルの『メサイア』という大曲を初めて歌った私としては、この曲をどこか特別なものと捉えているところがあります。

その曲を、あの中村哲さんのために歌うと言われてしまうと、それは重ねて特別な演奏会であるのだと言わざるを得ません。

この日、指揮をされていた渡部先生のメサイアは、さして経験のない私が聴く限り、特別に奇をてらうようなことはせずにゆったりとしたような演奏であったように感じました。

祈りの曲としては、いい感じだったなあと思いながら聴いていました。

終演後、中村医師の遺影に送り出されて、また『世界のこにし』へ。

今度は、小西さんご自身がカウンターの中で忙しく立ち働いていらっしゃいました。

きっと何度も訊かれたのだろうから、どうして閉店するのかなんてことは、私ごときが質問してはいけないかなあと思っていましたが、ちょっと手が空いた隙を狙って、

「これからは何をなさるんですか？」

とアングルを変えたつもりの質問を投げかけてみました。

『酒屋だよ。酒屋。

本所で前からやっている酒屋の方が忙しくなっちゃってね。

今日は、相沢が来てるよ！』と。

そこには、久我山～明治～リコーで活躍された相沢さんがいらっしゃいました。

紹介されても、特に繋がりもないので、

「ああ、どうも・・・」

と会釈するくらいしかないのですが、相沢さんだってこの店が閉まってしまう前に、ここで一杯やりたかったということなのでしょうねえ。

ラグビー関係者のみならず、地元の呑み助たちに愛されてきた立ち飲み屋が来週の月曜日でなくなってしまいます。

壁にはジャパンのキャップと共に、今は廃刊となってしまった『ラグビーワールド』の表紙を飾った小西さんが写っています。

『今、ラグビーだけがなぜモテる！？』

というコピーが微笑ましい。

若かりし頃の小西さんも、今の立ち飲み屋のおやじの小西さんもカッコいい。

そして、無論、アフガニスタンの多くの命を救った中村哲さんも。

カッコいい人たち