「私、疲れちゃってさあ、明日の志の輔のチケットあるんだけど行く?」
我が家の芸能評論家からの突然の提案です。
コロナの陽性者が増えたから?
獲れているチケットが最後列から2番目の端っこという誉められない席だから?
まあ、本当の理由はそこだとしても入手困難な志の輔らくごのチケットなら、譲り受ける価値はあるでしょう。
しかも、予定されている演目は『大河への道』
数年前に、一度聴いたことはありますが、その後味がよかったことだけは覚えています。
伊能忠敬のことを書いた新作落語であることは間違いありませんが、詳細については覚えていません。
しかし、それくらいの方が、また楽しめるような気がします。
「じゃあ譲ってもらうよ!」
と言って、チケットの額面を見てびっくり。
7200円もするのです。
音楽のライブは、近年高騰していますが、落語でこれだけ取るひとはあまりいないんじゃないかなあ。
「お金はいいから楽しんで来て!」
なんて言うはずのない家人にチケット代を払ってから家を出ました。
そうか、チケット代が高いのは、入場者を制限しているからかもなと思いながら劇場に行ってみると、これが制限しているどころか満席の状態。
この日、東京の新型コロナ感染者数は7377人。
過去最高の数字です。
正直、気分のいいものではありません。
志の輔師は、マクラでそんなことには触れようとしません。
1ヶ月続く公演が途中で打ち切りになったりすることのないように、寧ろ具体的に触れることはしないということなのでしょうか。
随分前に、この落語会で『浜野矩随』を初めて聴いて、こんな噺があったのかあと痛く感動したことがありましたが、この日は師の手による新作ばかり3席。
『ハンドタオル』
ダイエットすると言っていた奥さんが、スーパーで会計しようとしていたところ、3000円以上買えばハンドタオルがもらえると言う誘いに乗って、550円分のシュークリームを買ってしまったという、ありそうでなさそうな設定から、夫婦の見解の相違が始まるというような噺。
面白い。
『ガラガラ』
商店街の福引で、1等が1本と書いたはずのメモが7本と見えてしまったことから起きる、福引会場でのドタバタの噺。
これまた面白い。
20分の休憩をはさんで、
『大河への道』
前段で伊能忠敬という人物の生い立ちから、やがて商才を発揮して婿に入った伊能家を大きくし、人生50年と言われた時代に55歳で天文学の師に弟子入りし、17年をかけて伊能図と呼ばれる精緻な日本地図を作り上げる努力をしたというベースを説明。
落語本編に入ってからは、江戸期の伊能を取り巻く人たちと、その郷土の誇りである伊能忠敬をなんとか大河ドラマの主人公にしようと奔走する千葉県庁のプロジェクトチームのドタバタを2重構造で展開するという噺。
いやあ、志の輔師匠は凄い!
全てで3時間を超える3席の噺は、どれも新作とは思えない練られ方で、聴いている我々を飽きさせることはありませんでした。
これなら7200円のチケットも高くないと思えます。
6時から始まったのでお腹が空いていました。
どうしようかなあと思いつつ、地元に戻って『大衆鉄板ヒナタ』へ。
独りの行動でしたが、実にいい夜でした。
あーあ、金曜からまたマンボウかよ・・・