はい! 奈央です。

 

 

進化論は計算しないとわからない! って凄いタイトルですよね。

これは、星野 力 博士が著された 人工生命白書 (共立出版)のタイトルなんです。

この本はかなり古くて、1998年に出版されました。

marineは出版された翌年1999年にこの本を読み、かなり感化されたみたいです。

 

どうしてこんな本を紹介するのかっていうと、木村資生博士分子進化の中立説 を人工生命体で再現しているからなんです。

 

チャールズ・ダーウィンが提唱した進化論、つまり 小さな突然変異によって環境適者として生き残った個体(自然選択)が子孫を残し、これが繰り返されることで大きな進化が生じた」 とする連続進化説です。

若き日のチャールズダーウィン 文化人類学HPよりお借りしました。

 

これに対して、木村資生は、分子レベルにおける進化的変化の大部分が、ほとんど中立な突然変異遺伝子の統計的浮動によっておこる。と主張したのですね。

木村資生 気まぐれ精神科医の独り言HPよりお借りしました。

連続進化と中立派突然変異異遺伝子の統計的浮動によっておこる進化

 

そしてこの本の最後の方の章で、星野博士は、人間社会の変遷もごく単純なモデル 囚人のジレンマゲームで類似した歴史が見いだされるようだ としているからなんです。

 

この本の中で星野博士が使っている手法は、人工生命体のごく簡単なモデルである 八目車輪 を使って、下に示した迷路を自動学習走行させるというものです。

八目車輪 八つのセンサーと二つの推進用車輪を持ち、学習能力を持った小型コンピュータ人工生命体

八目車輪の巡航するコースとサブゴール

 

この中で、星野博士は、この八目車輪遺伝子変異のアルゴリズムを設定し、迷路の壁にぶつかるたびに頓死して、次の世代に生まれ変わるとして、世代変遷に伴う変化を追っているのです。

 

下の図の条件では、親から子に遺伝子が引き継がれる際に、交叉が起こり、すべての遺伝子がそのまま引き継がれるわけではありません。

親の染色体から子の染色体への遺伝的操作

 

いろんな条件(エリート保存の可否、調節遺伝子の有無など)を設定して得られた結果の一例が下記の図です。

この図は、エリート保存(次の世代に遺伝子をそのまま引き継がせる)して、58世代エリート(上)と59世代エリート(下)の巡航軌道と神経回路を示しています。

この図で見られるように、59世代において、突然、迷路を完走できるようになった のです。

次の図は、エリートを保存せず、調節遺伝子が機能しないときの最大適応度と平均適応度を示した図です。

横軸は世代数を表しています。

102世代と237世代で高い適応力を持ったエリートが現れますが、その形質を子孫に残すことができず消滅しています。

 

しかし、遺伝子の中に多くの重複や挿入といった表現型の多様性を保持し、376世代での進化につながっているのです

 

この、人口生命体の自己学習による進化実験から星野博士は、中立変異が溜まっていく時期は適応度は変化せず、しかし、多様性は常に供給され、それらのバランスの上で進化が進む在り様が示せた と述べています。

 

単純な人口生命体の学習による進化への道筋は、ダーウィンの自然選択説以上に現実の生物進化を反映していると妙に納得してしまいました。

 

さて、この本では更に、囚人のジレンマ(IPD)ゲームというのを基に、社会変遷のシミュレーション実験も紹介していました。

 

協調 と 裏切り という二つの選択肢をどう使うかによって、社会のモラル形成進化的安定戦略(ESS)の変遷を計算しているのです。

30000世代までのIPDゲームの結果から、裏切りの選択をする者によって、平和な時代はいつか絶滅の時期を迎えることを示しています。

 

星野博士のまとめを借りれば、以下の通りです。

 

「安定しているように見えても協調社会はもろい。容赦しない戦闘的な裏切り者が占拠できる隙があるのである。多くの個体を犠牲にしながらも、平和な社会ではマイノリティーであったわずかな変わり者がこの危機を救う。戦闘集団が自滅したした後、協調社会を再建するのは、これらの変わり者だった戦略個体たちである。」

 

さらに、「多様性を殺す社会は、ロクでもない無い運命が待っている。」 と警句を発しているのです。

 

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それじゃ、またね。