我が国では平成22年の木促法により二階建て以下の公共建築物は木材 
で建設することが法制化されました。昭和34年の「木造禁止決議」は 
平成12年に「地球環境建築憲章」で廃止されております。これらのこ 
とは西川林業地にとり朗報と言えるでしょう。官主導で木材利用が、象 
徴的にであるにせよ促進されれば、遠からず民需がついてくることは幾 
多の事象で歴史が証明しているからです。
 特に西川材はヤング強度係数に於いて、他林業地産材に比べ勝ってお 
り、建築構造計算の際にも有利です。質による木材価格差が縮小し、木 
材価格全体も低下するなかで、同径であれば強度で勝る方に高価格がつ 
くことは明らかであり、このことは特色化とブランド化でも当然に有利 
です。ブランド化により製品に競争価値がつけば、世界市場へ輸出する 
ことも難しくないでしょう。我が国において100%自給可能な天然資 
源は農林産物以外になく、しかもスギとヒノキは日本特産です。西川林 
業地に於いても、これらの森林資源は成熟しており、資源量は十分で 
しょう。
 この状況下で地産地消は前提ですが、地域森林計画等に基づき、木材 
生産量・消費者への供給量・在庫量・物流計画・製材量等を、それぞれ 
の組織を超えて中立の立場でコーディネートすることが森林組合の

重要な役割といえるでしょう。
 産業として雇用を確保し経営を持続するには、事業量が確保されなけ 
ればならない。それには木材サプライチェーンの確立が絶対に必要であ 
り、その司令塔が森林組合であり、木材供給元(川上)から消 
費者(川下)にいたる迄のすべてに利益分配し自らもその恩恵に与る事 
は十分に可能である、と考えます。
 グローバル化する社会経済のなかで地域の林業振興をはかるためには 
地域の森林管理が最重要となり、そこでは地域林業のグランドデザイン 
が不可欠であり、その前提として地域森林計画作成等に係る行政の役割 
も重要であり森林組合と行政とは、林業地の振興と地域 
の活性化を支える両輪であることは言うまでもありません。
 さる平成13年に制定された森林・林業基本法には、「林業の持続的 
かつ健全な発展」ならびに「森林の有する多面的機能の発揮」があげら 
れており、これにより森林の団地化、集約化が方向性として示され、路 
網整備と人工林間伐事業が促進されることとなりました。このことによ 
り、戦後の拡大造林による人工林を持続可能な林業経営の基盤となる健 
全な森林のあるべき姿に誘導することで、短期的に経済的有用性が期待 
できるだけでなく、長期的に多様な機能が期待できる生態的に健全な森 
林が育成され、不成績造林地も含めた人工林は天然生林に移行し、天然 
生林は環境林へ移行することが期待されています。
 続いて平成21年に出された森林・林業再生プランでは、具体的な森 
林づくりのヴィジョンが欠落しているままで、以後10年間すなわち平 
成31年に木材供給率における国産材割合を50%とすることを目標と 
していますが、このことは科学的根拠と社会・経済・文化的必要性を的 
確に把握した森林経営及び管理の理論構築が出来ていない事を暗示して 
います。そのため森林組合にあっても安定的に請け負える補助 
金事業に依存しがちであり、その事業の仕様書に盲目的に従い単純一律 
な施業・作業等を進めているため、組合本来の経営と職員の技術向上に 
対する積極的な指向性が生じにくくなっています。
 そこで森林所有者である組合員に対し、団地化と路網整備の推進によ 
る長伐期多間伐施業のヴィジョンを示し、同意形成して実践して行く提 
案型集約化施業をさらに強化するとともに、提案に対して

森林組合が責任をもって完遂すること、また役職員各々がそのための技術を 
磨くことこそ、組合員からの信頼を獲得し、利益を還元しつつ組合職員 
の収入向上また地域にとりプラスとなることを自覚する必要があります。
 そもそも林業は、高度な技術を要する、自然条件による制約のある産 
業のため、合理化(都市経済化)には限界があります。しかしながら西 
川林業地では、従来、雪害風害が少ない特色に依拠した密植多間伐施業 
を基本として、他に類を見ない「立て木」施業も併用されています。と 
りわけ丁寧な枝打ち施業等、育林に手間をかけた良質材を生産している 
ものでしたが、近年は林業労働者の減少と高齢化、施業放棄森林の増加 
等により山林が荒廃し、ニホンジカ、イノシシ等をはじめとする獣害が 
増大しています。森林組合としては、組合員の山林を獣害から 
防除し良質のA材生産を維持するため有害鳥獣捕獲を実施すべき

ところですが、有害鳥獣捕獲に係る事業は地域住民の安全・安心および農 
業被害の軽減にも直結しているものであり、効果的かつ持続的に実施す 
るために、行政のさらなる支援が不可欠です。
 また当初は林業のために開設された森林管理道ですが、経年とともに 
生活道としての役割が重要となり、かつ補修が必要な箇所・頻度とも増 
大しています。このため森林組合では行政の補助金により維持 
管理にあたっていますが、このことについても、さらなる効果的な林道 
管理を実施するため、地域住民、行政、森林組合との緊密な連携、

協同が不可欠でありましょう。
 かててくわえて森林組合は林家、事業体、行政のジョイント 
部分となり、地域の自然の中で生産された100%供給可能な地元天然 
資源である木材を、其の地域で消費することの意義と、生活林や経済林 
の現状に応じた適切な路網整備や計画的な伐採・搬出の調整という小規 
模で分散的な森林の活用を集約的に機能させる仕組みづくりが、持続可 
能な社会の構築に不可欠である事を理解してもらう広報活動ならびに地 
域林業労働力配置、雇用調整機能に加えて、後継者のいない私有林管理 
等を代行する役割をも担って行かなければなりません。
 まさに「任重くして道遠し」といえますが、加工技術(川下)で全て 
を解決するのではなく、良質の木材生産(川上)という重要な役割をふ 
まえるならば、今後の推進目標を以下に示すことが出来るでしょう。

 そして森林組合は、地域の中心的な森林管理、林業振興推進 
団体として西川林業地の森林を、所有者、事業体、行政との協同により 
持続して維持管理し、森林文化都市・飯能にふさわしい環境を次世代に 
継承する役割を果たすとともに、まずは「組合員ファースト」を心がけ 
るとともに、常にコミュニケーション向上につとめるほか、施設、機器 
愛護の精神を増進して環境整備に努め地域住民との関係を良好に保つよ 
う心がけることも忘れてはなりません。



          推進目標

1、境界再明確化の推進
 従前より森林所有者の高齢化、山林相続者の無関心等により山林内境 
界の不明確化が進み、施業、管理の障害となっているため、境界の再明 
確化を進めることが必要であり、当組合も例えば国土調査事業の受託を 
検討する等あらゆる機会をとらえて山林内境界の再明確化を進めて行き 
たい。

2、路網整備の推進
 山林の土質や傾斜等諸条件に応じた、災害に強く搬出路として有用な 
林内作業道の開設維持につとめて行きたい。また遊休作業道の有効活用 
の一環として、安全確保および所有者の同意が前提であるが、ハイキン 
グ道、トレイルランニング道など保健レクリエーション機能をもたせる 
事も検討課題としたい。

3、搬出間伐の推進
「伐って、売って、植えて、育てて」という循環型林業経営の確立に向 
けて、間伐材等未利用材の有効活用、現金化を進める事により、組合経 
営の自立化、地域林業活性化の一翼として行きたい。

4、森林経営計画作成の推進
 組合管内の素材生産業者、事業体、行政との連携を密にして、地域森 
林計画や素材生産計画を森林経営計画に反映させ、相互に利益のある実 
効性のともなった森林経営計画の作成を行いたい。

5、分業型作業システムの推進
 作業全体に於ける「ムリ、ムダ、ムラ」をなくし、労働生産性向上と 
利益向上をはかるため、作業内容に応じた効率的な人員配置、適切な外 
部委託等を検討することにより、現場では安全を最優先しつつ工程管理 
に留意し、事務作業も含めた事業全体の進捗状況等に関する分業体制を 
構築して行きたい。

6、集約化施業と自伐型林業の推進
 自伐型林業の推進には集約化施業による路網整備が必要である。ま 
た、小規模山林所有者が多くを占める組合員にかわり森林整備を担う単 
位として意欲のある自伐型林業希望者を集約化施業にあて、同時に将来 
のために自立した林業技術者としての育成をはかることも視野に入れた 
い。
7、後継者育成の推進
 林業の将来を担う後継者の育成は、重要な課題であり、当組合として 
も職員のスキルアップや定着率の向上をはかり、かつ西川林業地全体に 
於ける森林整備技術の発展的継承を後押しする事により次世代の林業従 
事者を確保する環境を整えて行きたい。