書評:佐藤究『爆発物処理班の遭遇したスピン』(講談社)

著者の本を読むのはこれが初めてだが、なるほど「力」のある作家だというのがよくわかった。

本書は短編集で、8本の作品が収められているが、冒頭の表題作だけ少し毛色が変わっているものの、後の7本は、ハッキリとひとつの傾向を示しており、そこに著者の、基本的な「作風」を窺うことができた。

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私が著者の名前を最初に知ったのは、第62回江戸川乱歩賞受賞作となったデビュー作『QJKJQ』(2016年)である。
昔から乱歩賞受賞作にはなんども裏切られてきたので、近年は乱歩賞受賞作に興味はなかったのだが、この『QJKJQ』の、いかにも怪しげな装丁に惹かれ、手にとってみると、選考委員の有栖川有栖が、帯に「これは平成の『ドグラ・マグラ』である」と書いていた。こう書かれていては、年来の『ドグラ・マグラ』ファンとしては、とうてい無視し得なかったからだ。

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しかしそこは、乱歩賞に痛めつけられてきた者として「いやいや、選考委員の言葉ごときに迷わされてはいけない。それに有栖川有栖は、特別に夢野久作のファンだというわけでもないのだから、ここは話半分に聞いておくべきで、この作品が本当に、平成の『ドグラ・マグラ』と呼ぶに値する作品であったなら、すぐに大評判になるはずだから、もう少し様子を見てからにするべきだ」と、じつに賢明にも、自制心を働かせたのだった。
実際、この有栖川有栖の言葉は、必ずしも支持されなかったようだし、作品の評判もそこそこという感じで、結果としては、少なくともこの作品が『ドグラ・マグラ』級の作品でないことは確かであったようなので、私も結局は、読まなかった。