狭心症や心筋梗塞の治療法として、カテーテル治療と冠動脈バイパス術といわれる手術がありますが、その2つの違いは分かりますか?
それぞれ長所・短所があり、患者さんの状態によって、どちらの治療がより効果的か変わってくるので、治療が必要となった場合は担当医にそれぞれの特徴と、どちらがより自分にあっているのかをよく確認して下さい。
心カテーテル治療

*CEDARS-SINAI MARINA DEL REY HOSPITALのHPより
カテーテル治療の最大の特徴は、細くなった血管を風船やステントという金属の補強材を用いて血管の中から広げる治療ということです。道路工事に例えると、大雨のあとの土砂崩れによって道が閉鎖されたときに、その道の土砂を取り除き、また通れるようにするのがカテーテル治療の目的となります。
最大の長所は、局所麻酔で治療ができる点でしょう。そして手術に比べると短い時間で終わることが可能です。
短所は、細くなった場所を広げているため、その部位周辺がまた狭窄してしまったり、今度は閉塞してしまう場合があります。また、治療中のレントゲン撮影による被ばくの問題や、血管を写すために使う造影剤の使用量の問題があるため、一度にあちこちの病変を治すことができません。治療中に命にかかわる大きな問題が発生すると、緊急手術が必要となることもあります。
冠動脈バイパス術

*John H et al. N Engl J Med, 2016より
カテーテル治療との大きな違いは、冠動脈バイパス術では細くなった血管の治療はしません。その血管が、さらに細くなったり詰まってしまっても大丈夫なように、細くなってしまった血管の先に血流がきちんと流れるように血流のうかい道を作るのがバイパス手術です。道路工事に例えると、土砂崩れで閉鎖した道には手をつけず、その道をうかいして通れるように新しい道路を作るのが冠動脈バイパス術の治療の目的となります。
バイパス術の長所としては、長期生存率がカテーテル治療よりすぐれていることでしょう。つまり、カテーテルで治療を受けた人より、バイパス術を受けた人の方が長生きでたという結果を示した論文が多数報告されています。
短所としては、カテーテル治療と比べると体の負担が大きいということでしょうか。
では、どちらの治療を受けるべきなのでしょう。
高齢で手術に耐えれる状態じゃない人、病変が複雑でなくカテーテルで治療しやすい人、心筋梗塞を発症し急いで治療が必要な人などはカテーテル治療が向いています。
若い人で今後も繰り返し発作を起こしそうな人、あちらこちらに病変がある人、心臓の根元の血管(左主幹部)に病変がある人などは冠動脈バイパス術のほうが向いています。
以前の記事にも書きましたが、カテーテル治療はたまに心臓発作を起こすような狭心症の人(安定型狭心症)に対しては、飲み薬だけの治療と比べて、その後の寿命に関しては差がでないと言われています。この場合、カテーテル治療の効果は、心臓発作で胸が痛くなる回数を減らすことになります。細くなった血管は、またいつか細くなります。それは治療をしても一緒なのです。おそらくこの違いが、冠動脈バイパス術を受けた患者さんの方が長生きできる要因になっていると思われます。
一度土砂崩れを起こした道路は、そこをきちんと工事してもまた大雨が降れば土砂崩れを起こす可能性があります。ときとしては大変であっても万が一を想定し、新しいうかい道を作った方が安全なケースも存在します。
その見極めは簡単ではありません。繰り返しになりますが、同じ病気でも人によって治療の方法はいろいろと調整しないといけません。治療の決断は担当の医者とよく相談してから判断するようにして下さい。