部屋の中へと進んだぼくら。

部屋は個室の様だ。他に患者さんは居なく、母親と思われる女性と女の子だけ。


ベッドが一つに周りには、何に使われるか解らない機械。備え付けの棚には女の子が読むであろう数冊の絵本と花瓶には花が咲いていた。


「えっと~・・・」


流石のレイもちょっと役にたたなそうだ。

仕方なくぼくが話を始めた。


「実はぼくたち、向かいの高校に通っている生徒なんです。突然お邪魔してしまってビックリされていますよね?申し訳けありません。ぼくたち毎日昼休みに校庭で3人で遊んでいるんですが、先日、この病院の窓から毎日こちらを眺めている女の子が居る事に気がついたんです。まぁそれがお嬢さんだったんですが、昨日彼が思いきってお嬢さんに手を振ってみたんです。」


ぼくはアキラの方を向いた。


「するとお嬢さんも手を振り返してくれて。

毎日見る様になって手を振ってくれた事でますます気になる様になって。じゃあお見舞いに行ってみようか?と言う話になって。突然で申し訳ありませんが今日お邪魔してみたんです。」


長々と説明するぼくの顔、アキラの顔、レイの顔。母親と思われる女性は何度も何度も交互に繰り返し見ている。


(ヤバい!どうする?怒られる?)


と思っていたが女性は優しく微笑みながら、


「そうだったんですね。昨日ユアが、あっ、ユアって娘の事なんですけど。ユアが何処かに手を振っていたものだから誰に手を振っているのかしら?と思っていたの。あなたたちだったのね。でも本当にビックリしたわ。一体どちら様かしら?と思って。」そう言って笑ってくれた。


(何ていい人なんだ)


「あっ、ユアちゃんて言うんですねお嬢さん。まぁ偶然見つけたんですけどね。」


アキラが喋った!


「逆にユアちゃんがぼくらをみつけたんですよ。」


(コイツホントに調子いいやつだ!)


レイはレイでユアちゃんに話しかけている。


「ユアちゃんって言うんだね。お姉ちゃんはレイ。ユアちゃんはいくつなのかな?」


ユアは笑顔で「5歳♪」と手のひらを広げて見せた。


ぼくはいきなりだが、


「入院は長いんですか?」と聞いてみた。


漠然と1ヶ月位かな?と勝手に想像していたが、予想外の答えが返って来た。


「もう・・・そう。3年になるの・・・」


(3年って・・・)

(五才って言ってたから二歳から?)


「差し支えなければ何の病気か聞いても?」


聞いていいものかどうか?解らぬまま言葉は口から飛び出していた。


母親は逡巡していた。

そりゃそうだ。突然やって来た知らないやつらに話していい訳が無い。暫く考えていたが、寂しそうな顔で話してくれた。


「実はね、ユアはね・・・拘束型心筋症と言う心臓の病気なの・・・」


「えっ?心臓の病気なんですか?」

今度はぼくらがビックリした。


「ええそうなの。二歳の時に心臓に異常が見つかって調べてみて解ったの。」


一瞬言葉を失った。


「そ、それって・・・治るんですよね?」


母親は更に悲しい顔で言った。


「治す為には心臓移植をしなければならないの・・・」


ショックだ。


まだ五才と言うのに・・・まだ5年しか生きていないのにそんな大病だったなんて・・・


次の言葉は見つからなかった。



                                                     (つづく)

 

 

 

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