「クマコウボウ」は、いろんな人がいろんな場所で日々を暮らす、大きな一つの世界です。

魔女もいれば正義のヒーローもいれば、専門学生も、王様もいます。

一つの世界の、いろんな生活を楽しんでもらえたら嬉しいです。


◆ブログテーマごとに一つの物語、又はシリーズになっています◆

2005-12-20 14:48:58

銀色の海 (ギンイロノウタ _6)

テーマ:ギンイロノウタ

 湖の魔女は人魚のために、氷の棺を作りました。
 そして、さかなには不死の魔法を。


「おまえは海の底で、永遠に、人魚を守るといい。 そして、銀色の歌をいつでも聴かせておくれ」




 それからというもの、その海を通る者は皆、かすかに聞こえる歌声に耳を傾けるのでした。



 いつの日か、人魚とさかなの暮らす海は「銀色の海」と呼ばれるようになりました。
 海の水には、なぜか銀色の粉がまじわり、海を染めていったからです。



 そうして、人魚とさかなの物語は、永遠に語り継がれてゆくのでした。




--おわり。

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2005-12-19 12:22:02

うみへび (ギンイロノウタ_5)

テーマ:ギンイロノウタ

「かわいそうだと、思うかい?」


 嘆き悲しむさかなに、うみへびは聞きました。 
 さかなは、何度も頷きます。


「かわいそうな人魚。――しあわせに、なれるはずだったのに」


「けれど、それは人魚の選んだ道だ」


 さかなの瞳を真っ直ぐ見据え、うみへびは言葉を続けました。


「人魚と人間が、ともに生きていく事なんてできる筈がない。それでも人魚を欲しているのであれば、それは欲の為だ。人間というのは、欲望の為なら、自分を愛する者までも傷つけてしまう。――恐ろしい生き物さ」


 うみへびは嫌そうに顔をしかめてから、人魚を見遣りました。


「俺は同じ事を人魚に言った。だが、それでもいい、と人魚は言った。 少しでも愛する者のそばにいられるのなら、愛するものが、自分を望んでくれるのなら、それでいい、と、人魚は言ったのさ」


「だから俺は、さかなに相談するように言ったんだ。 ――人魚と歌うというさかななら、もしかしたら人魚を止めることが出来るのではないか、と思ったのさ」


 さかなは声にならない悲鳴をあげ、泣き崩れました。
 とめどなくあふれ出る涙は、海の水にまじわり、消えてゆきます。


「そんな姿になってしまってもまだ、大切だと思うかい? 人魚を、守りたいと思うかい?」


 うみへびは嘆き悲しむさかなの後ろから、そっと声をかけました。
 さかなは、静かに頷きます。


「どんな姿になっても、人魚は僕の友達だ。 人魚は、僕のすべてだったんだ」


「それならば、東の湖に住む魔女を訪ねるといい。きっと、いいようにしてくれる」


 言い残すと、うみへびはその場を去ろうとしました。その後姿に、さかなは疑問を投げかけます。


「うみへびはどうして、僕たちを気にかけてくれたの?」


「俺は、おまえたちの奏でる「銀色の歌」が、少し好きだったのさ」


 照れたように言って、うみへびは海の中へと、消えてゆきました。




--つづく--
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2005-12-14 16:31:46

骸 (むくろ) (ギンイロノウタ _4)

テーマ:ギンイロノウタ

 人魚がさかなのもとを去ってから、数え切れないくらいの時が経ったある日のことです。
 「うみへび」が、さかなの前に現れました。
 うみへびは世界中の海を旅していて、海一番の物知りと言われています。
 さかなは、そんなうみへびに出会う事ができるとは思っていなかったので、「うみへびが自分をたずねてきた」と聞いた時にはとても驚きました。


「おまえが、人魚と歌を歌っていた、と言うさかなか?」


 驚くさかなを気にも留めずに、うみへびは聞きます。
 さかなが頷くのを待って、うみへびは、恐ろしい事実を告げました。


「人魚は、死んだよ。いや、人間に、殺された」



 さかなはしばらくの間、言葉を吐き出すことができませんでした。


「……嘘だ」


 驚愕と困惑、疑惑や憤怒、ありとあらゆる感情がさかなの中でぶつかり合い、結局、言葉として出すことのできたのは、その一言だけでした。


「俺は、嘘をついたことはない」
「人魚は人間に殺され、骸は、海に捨てられた。――見るかい?」




 さかなは変わり果てた人魚の姿を見て、愕然としました。
 あんなに美しかった虹色の鱗はすべて毟り取られ、胸には、小さなナイフが突きたてられています。


「なんて、ひどい……」


 さかなは痛々しい人魚のからだを、何度も、何度もさすってあげました。


「人魚の鱗は、上の世界では値打ちのあるものらしいからな。しかも、死んだ人魚の鱗は黒く変色してしまう。――きっと、生きたまま毟られたのだろう」


--つづく--
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2005-12-13 07:40:24

別れ (ギンイロノウタ _3)

テーマ:ギンイロノウタ

 さかなの新しい幸せは、そう長くは続きませんでした。
 いつものようにさかなは人魚のもとへと向かったのですが、そこに、人魚はいなかったのです。
 一日待っても、二日待っても、人魚は戻ってはきません。


 流れる水の音だけが、ゆっくりとさかなの元へ来ては、また、消えてゆくのでした。




 何日も経って諦めかけた頃、人魚はさかなのもとにあらわれました。
 さかなはとても喜んで人魚を迎え、また、ともに歌を歌いました。


「さかなと歌うのは、これで最後なの」


 歌い終えた人魚は、そう、さかなに告げました。


「わたしは人間の王子様に、恋をしてしまったの」


 困惑したさかなを見て、人魚は言いました。


「王子様は、一緒に暮らそう、と言ってくれたの。人魚のわたしと、約束をしてくれたの」


 人魚の思い掛けない言葉を聞いて下を向いてしまったさかなに、人魚は続けます。


「わたしは、しあわせになれると思う? さかなは、祝福してくれる?」


「僕が、祝福しないわけ、ないだろう?」


 少しの沈黙の後に、ぽつり、ぽつりとさかなは言いました。


「人魚ならきっと、しあわせになれるよ」


 さかなが笑顔で言うと、人魚も笑顔になりました。


「ありがとう。……わたし、さかなと友達でよかった」


 そのときの人魚の笑顔に、ほんの少しの悲しさが混じっていたことには、さかなは気が付くことができませんでした。
 さかなも自分の悲しさを隠すことに精一杯だったので、それは、仕方のないことだったのかもしれません。



--つづく--
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2005-12-12 23:25:12

歌声 (ギンイロノウタ_2)

テーマ:ギンイロノウタ

 それは、やはり「歌声」でした。
 そしてそれを奏でていたのは、美しい「人魚」でした。
 決して綺麗だとは言えない、けれどもとても不思議な歌声に聴き入っていると、人魚はふいに歌を止め、さかなに顔を向けました。


「わたしの歌を聴きに来てくれたのは、あなたがはじめてよ」


 そう言って人魚は、嬉しそうに尾をひらひらと振りました。
 虹色の鱗が、きらきらと輝きます。
 その美しい姿に目を奪われながら、さかなは言いました。


「君の歌には、きっと、不思議な力があるんだ」




 それからというもの、さかなは毎日人魚のもとへと行くのでした。
 そうして人魚の歌を聴くのが、さかなの幸せなひとときになっていたのです。
 そんなある日、人魚は美しい瞳をいっそう輝かせて、さかなに言いました。


「ねぇ、よかったら、一緒に歌ってみない?」




 さかなは、とてもとても緊張していました。
 何しろ、「誰か」と何かをするのは、さかなには、はじめての事でしたから。


「そんなに硬くならなくてもいいのよ」


 そう言って、人魚は丁寧に歌い方を教えてくれました。
 そして、さかなははじめて「歌」を歌いました。


 人魚の歌に合わせて、さかなは懸命に歌います。
 教えられたとおりに、優しく、強く、丁寧に、丁寧に。
 すると人魚の歌は、今までとは違う音色に変わりました。



 そしてその歌は、銀色の粉となって海へと散らばってゆくのでした。




--つづく--
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2005-12-11 19:02:21

さかな (ギンイロノウタ_1)

テーマ:ギンイロノウタ

 遠い空の下。
 蒼く澄んだ海の深くに、「さかな」は暮らしていました。
 尾を揺らし、気まぐれな泳ぎを、さかなは楽しんでいるのです。


 暗く、孤独な海を、ゆらゆらと、いつでも。




 その日も、さかなは気まぐれな泳ぎを楽しんでいました。
 気まぐれに進み、気まぐれに進路を変え、気まぐれに休み、また進む。
 それがさかなにとっての、幸せなひとときなのでした。


 しばらく泳いでから尾を止め、気まぐれに休んでいると、どこからか、かすかな歌声が聞こえてきました。
 それは本当にかすかで消え入りそうでしたし、歌なのかどうかも分からない程のものでしたが、さかなはなぜか「それ」に強く惹かれました。


 そして、それに向かい、さかなは泳ぎ出しました。



--つづく--


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2005-12-10 09:31:22

銀寒木

テーマ:僕の中の小さな宇宙
 小さな村に面した、小さな森には、大きな大きな怪鳥が住んでいます。
 体長は人間の大人で云うと三人分。 大きく黒いつり目と、(ひしゃ)げた鋭い嘴。
 怪鳥はもう、ずっと前にこの森に産み落とされて、誰の力も借りずに、ここまで大きくなりました。
 この、窮屈な森で、彼は育ったのです。
 怪鳥にとってこの森は、親鳥のようなものでした。

 そして彼は、この森を、愛していました。

 けれども怪鳥は、この森の誰からも愛されてはいませんでした。
 彼に近寄る者はいませんでしたし、彼が訪れれば、誰もが逃げるように散ってしまうのです。
 そして怪鳥が翼をはばたかせ、止まろうとする木でさえも、葉を揺らし、怪鳥を嫌がりました。

 愛しているものに愛されないことは、とても、とても辛いことで、怪鳥は懸命に愛される努力をしました。
 森の誰からも愛されている小鳥たちのように、(さえず)ってみました。
 森を颯爽と駆け抜ける風たちのように、舞ってもみました。

 けれど、そのどれもが誰もを怖がらせ、脅かせ、苛立たせ、そうして、余計に嫌われてしまうのでした。

*


 この森でただ一つだけ、怪鳥を嫌がらないものがありました。
 それは、森の外れにひっそりとたたずむ、銀寒木(ぎんかんぼく)という名の老木です。
 この森の中で唯一、銀寒木だけは、怪鳥がその巨体を枝に乗せても、他の木のように嫌がったりはしないのでした。

 銀寒木は、誰かに何かを言うこともありませんし、愛されない怪鳥を励ますこともありません。
 けれど怪鳥にとって、この、無口な老木は、悲しい森の、唯一の心の支えなのでした。

 銀寒木は、寒い寒い夜に、決まって花を咲かせます。
 それは、何の飾り気も無い、小さな小さな花なのですが、月の光を受けると、綺麗な綺麗な銀色に輝きます。
 怪鳥は、老木の細い枝に体をあずけて、その花を見るのが大好きでした。

 怪鳥はその小さな花を、夜中(よるじゅう)、うっとりと眺めるのです。
 それが怪鳥の、ささやかで幸せな、夜の過ごし方なのでした。

*


 ある夜、銀寒木へ向かう怪鳥を、森の木が呼び止めました。

「怪鳥、今日も銀寒木の所に行くのかい?」
 そう、木は聞きました。
 怪鳥は、自分に掛けられた久しぶりの言葉にためらいながらも、うん、と頷きます。

「いいかげんにしたらどうだ。」
 木から出たのは、そんな一言でした。
 怪鳥は、言葉の意味がわからず、しばらくじっと、木を見つめています。
 そんな怪鳥に木は、静かな声で言いました。
「銀寒木は、この森の誰よりも歳をとっている。葉も昔より生えなくなったし、幹だって弱っている。なのにお前は、銀寒木の細い枝に、その重い身体を乗せて喜んでいる。 銀寒木は何も言わないけれど――何も言わないからといってお前は、何か思い違いをしているのではないか?」
 木は静かに、けれども強く、怪鳥に言うのでした。
 その、一つ一つの言葉が針となって、怪鳥の心を、チクリ、チクリと刺していきます。
「お前は、この森の誰からも愛されてはいない。お前が現れてからこの森は、ざわつきが絶えなくなってしまった。森の静けさは、どこかへ消えてしまった。 お前はこの森を、壊す気なのか? お前は――」

*


 真夜中、怪鳥はとぼとぼと森を彷徨(さまよ)っていました。
 木の言葉が、頭の中を、ぐるぐると廻ります。

 随分と歩いて、辿り着いたのは、やはり銀寒木の居る森の外れでした。
 だってこの森での怪鳥の居場所は、此処しかないのですから。

 滲む瞳で見上げた木は、今日も白い花をつけていました。 その花をもっとよく見たくて、怪鳥は飛び立ちます。
 枝に飛び乗った怪鳥が見たものは、いつもと変わらずに輝く、小さな小さな、銀色の花でした。

 怪鳥の脳裏に、先程の木の、最後の言葉が浮かびます。

――お前は、銀寒木を殺す気なのか。

 その言葉が怪鳥の心に、深く、深く突き刺さりました。

「ねぇ。僕は、銀寒木を愛しているよ? この森のみんなが、大好きなんだよ? 銀寒木は、僕のこと、嫌いなの?」
 銀寒木は、いつもと変わらず、何も言わず、そこにいます。
「銀寒木は、僕を嫌いじゃないよね? 嫌ったり、していないよね? ねぇ。何か言ってよ。僕に何か、伝えてよ!」
 怪鳥は、すがるように銀寒木にしがみつき、幹を大きく揺らしました。

 その時、怪鳥の乗っていた枝に、亀裂が入りました。
 ミシリ、ボキリ、という音を立て、細い枝は折れ、落下してゆきます。
 あまりの驚きに、怪鳥は翼をばたつかせるのも忘れ、枝と共に落ちてゆきました。

「銀寒木が死んでしまう。――僕が、殺してしまう!」

 怪鳥の悲痛な叫びが、辺り一面に響き渡り、木霊しました。

*


「怪鳥」
 どこからか、誰かの声が怪鳥の耳に届きました。
 それは初めて聞く声でしたが、すぐに銀寒木の物だとわかりました。
 とても、とても優しい声。 あたたかい声。
「怪鳥。私は、お前を、愛しているよ。お前の、美しい心を。澄んだ、瞳を。」
 その言葉を聞いた怪鳥の瞳から、涙が溢れ出しました。
 でもその涙は、今まで幾度となく流した涙とは、まったく違うものです。

「私は、こんなことで、死にはしないよ。――また、いつでもおいで。」

*


 次の日の朝、銀寒木の折られた枝は、誰がしてくれたのか、元の場所に白い布で結わえ付けられていました。
 怪鳥はその枝に触れないように、そっと近づいて、ありがとう、とだけ言いました。
 相変わらず銀寒木は何も言いませんでしたが、怪鳥の心は十分に満たされています。

 それから彼らがどうなったのかというと、それはまた、別のお話。



* END *
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2005-12-09 09:10:31

千年祭 (1)

テーマ:魔女とうたうたい(仮)

ある夏の夜、ハルカはふと目を覚ましました。
どこからか、かすかな笛の音が耳に届いたのです。


耳を澄ませば、それは家の裏にある森から聞こえてくるようで、ハルカはそっと足を忍ばせて、部屋を出ました。
笛の音を、もっと近くで聴いてみたかったのです。


笛はやはり森の中から聞こえていて、それを奏でていたのは小さな男の子でした。
ハルカもよく知る、村の子供です。


この男の子は、千年祭と言う村のお祭りで笛を吹く役目を担っておりましたので、そのお稽古だという事はハルカにもすぐに分かりました。


千年祭は、千年に一度、森の神様に御加護を願うお祭りです。
先の千年祭よりちょうど千年目をむかえる今夏、村で盛大に執り行われるのです。
この村を囲む森の主であるモリガミ様に供物をお捧げし、それによって千年の平和と繁栄を約束されるのがこの村の習いとなっておりました。


「ここで聴いていてもいい?」


ハルカがそっと声をかけると、男の子は笛を吹きながらにっこりと頷きました。


笛の音は静やかで、時に軽やかで楽しく、また決して穏やかさを忘れずにいて、まるで村人の心根をうつしたかのようであり、ハルカの心に深く響きます。


男の子はひとしきり笛を吹いて、座って聴いていたハルカの隣に腰を下ろしました。


「とてもすばらしい音だったわ。」


そう言うハルカに、男の子は少しはにかんで笑います。


「モリガミ様に捧げる笛だもの。もっともっと練習して、とびきりの音色を聴いてもらうんだ。そうしたら、僕たちがどんなに幸せを願っているか、伝わるだろう?」


そういって目を輝かせた男の子をハルカはとても愛おしく感じ、この美しく澄みきった心がこの村の強さで、とても大きな宝なのだと思いました。


「そうね。心はきっと、伝わるわ。」




--つづく--

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2005-12-08 16:37:21

序章

テーマ:魔女とうたうたい(仮)

遠い昔のお話です。
ある村に、一人の少女と一人の青年が暮らしていました。
青年の名前はタケシ、少女の名前はハルカと言います。


二人は幼い頃から音楽が大好きで、晴れた日には必ず、小さな広場で音を紡ぎ、村人を楽しませておりました。


タケシの奏でるギターに合わせて紡ぐハルカの言葉は、風に乗り、村を囲む森森の木々を震わせ、空へと高く舞い上がります。


タケシの繊細なギターとハルカの優しい歌声は、村の誰からも愛され、慈しまれておりました。


優しい両親や明るい村人に囲まれ、二人は、とても幸せでした。



--つづく--

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2005-12-06 07:55:34

うみからきたしょうねん

テーマ:僕の中の小さな宇宙
 その少年は、海からあらわれました。
 木でできた人形にしがみつき、漂流しているところを、大人たちに助けられたのです。

 少年は、名前を「ルイカ」と云いました。

 少年を見つけたのは、一人の少女でした。
 海沿いの、小さな村に住むその少女の名は「ニィミィ」と云います。
 少女は、夜と朝の境を見るのが好きで、その日も夜明けを見に、海へと向かいました。
 そうしてそこで、ゆらゆらと海に浮かぶ、少年を見つけたのでした。

 ルイカはしばらくの間、ニィミィの家で暮らすことになりました。
 ニィミィの家はとても小さな家でしたが、優しいお母さんは「にぎやかになるわね」と喜んで迎えてくれましたし、力強いお父さんは「働いてくれるなら、それでいい」と言ってくれました。(何しろルイカを助けてくれたのは、ニィミィのお父さんでしたから)

*


 ルイカは奇妙な少年でした。
 自分の事が分からない、と言うのです。
 名前と年齢、それ以外は思い出せない、と言いました。
 何故、海に居たのかさえも。

 ルイカの記憶は、かすかな何かを残して、すっぽりと消えてしまっていたのでした。

*


 ルイカの体が元気になるのを待って、ニィミィはルイカを人形のところまで連れて行きました。
 ルイカのしがみついていた、木でできた人形。
 その人形はとても大きくて重かったので(大人と同じ大きさでした)、村長さんの家に運び込まれ、保管されていたのです。

 人形は「カン」という名前だと、ルイカは云いました。
 そしてカンと再会したルイカは、真剣な眼差しで一言、言ったのでした。
「直して、あげなくちゃ。」

 確かに、人形は酷いありさまでした。
 どこかにぶつかってしまったのか、右腕と右脚はもげて無くなっていましたし、残った体も、水を吸い込んで不恰好に膨らんでいます。
 唯一金属でできていた発条(ぜんまい)は、錆びて体にへばりつき、ピクリとも動きませんでした。
「本当に、直るの?」
 ニィミィにはこれは、どうしようもないガラクタにしか見えませんでした。
 直る筈も無い、捨てられるだけの運命。
 ニィミィの心配をよそに、ルイカはそおっと人形の胸に耳をあてます。
「大丈夫。まだ、心は残っているから。」
 ルイカは、静かな瞳を輝かせて、そう言いました。

 それからルイカは、何日も、何十日も人形の元へ通いました。
 ニィミィの家の手伝いをしながら、暇を見つけては木を拾い集め、人形の身体を丁寧に、慎重に直していくのです。
 百日以上かけて、人形がようやく形を取り戻した時、季節は冬へと変わっていました。
 前の晩から眠らずにいたらしいルイカは、夜明けを見に行こうとしたニィミィを引っ張って、人形の元に連れて行きました。
 すっかりきれいになった人形の背に手を回し、ルイカは発条をまわします。
――キリキリ。キリキリキリ。

 人形は動き出しました。
 最初は右足を。そして左足。
 右足で踏みしめる時に、ちょっとだけ傾いてしまうことを除けば、人形の動きは完璧でした。
「これはね、ロボットって云うんだ。」
 聞き慣れない言葉に、ニィミィは首を傾げます。――ロボット?
 不思議顔のニィミィに、そう、と頷いてルイカは言葉をつなげます。
「カンは僕の、お手伝いロボットなんだ。言葉は話せないけれど、優しい心を持ってる。」
 そう言ったルイカの顔は、とても誇らしげでした。

*


 それから少し経って、ルイカはカンと一緒に、一軒の家を建てました。
 村の外れの、家というよりは小屋といった方がいいような、小さな、小さな家。

 そこで少年とロボットは暮らすことになりました。

*


 今では、ルイカはその、驚くほど器用な手でいろんなものを作り、みんなを感嘆させています。


 それから彼らがどうなったかというと、それはまた、別のお話。



* END *
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