朝における時間の勘違い | 旅はブロンプトンをつれて

旅はブロンプトンをつれて

ブロンプトンを活用した旅の提案

「寝坊」の対義語は「早起き」です。
寝坊は怠惰な感じ、早起きは勤勉な感じと、この二つのことばの間にはかなり差があります。
睡眠は人間にとって必要不可欠な生理現象なのに、寝過ごすとマイナスイメージで、早く切り上げるとプラスイメージというのはどうもおかしい気がします。
これが「遅刻」とその対義語の「早退」になると、どちらもサボりのニュアンスが含まれて来るのに。
寝坊の場合、前の晩に深酒などして寝過ごしたというイメージ、早起きの場合、その分早寝しているという推理がつきまとうからかもしれません。
でも、人間は機械ではありませんから生活サイクルが乱れることも時にはあります。
お酒ではなく、読書に夢中になって日付け跨ぎしてから入眠し、翌日寝不足のまま仕事に行っても、自己管理がなっていないことには変わらないでしょう。
でも、本読みからすると「皆さんに夢をプレゼントします」などといって宝くじの券を配り、ギャンブル依存症への道を開くような大馬鹿が主催している、或いはグダグダと他人の悪口が飛び交う飲み会に参加しているよりはるかに大事なことが書いてある本について、夜更かししてでも先を読まねば眠れない晩があるのです。
(そういえば、スイスの法学者=カール・ヒルティの書いた「眠られぬ夜のために」という宗教書がありました)


因みに、私は寝坊をおそれていません。
年に数回、無意識のうちに目覚まし時計のアラームをとめていることがあり、うち1度か2度は時計をみたら6時ちょっと前だったということがあります。
そういう時は、正直に「ごめんなさい、寝坊しました」とメッセージを送ります。
いつも同じ時間に来ているから、「たまにはそういう日もあるでしょう」と理解してもらえます。
そしてその日一日遅刻した分余計に仕事して、翌日には残さないようにします。
自己を責めたり、また遅刻したらどうしようなどと先の不安を煽ったりするのは、エネルギーの無駄かつ良い結果をもたらさないことを経験的に知っているので、敢えて忘れるようにしています。
もちろん、目覚ましを枕元から遠くに置くとか、暫くの間二重にかけるとか、同じことを繰り返さない工夫はします。
しかしそれで安心したり、逆に不安になったりという意識は極力持たないようにしています。


実はごくごくたまに寝坊するように、同じように時間を勘違いすることがあります。
具体的には、実際に午前2時半のところを、同3時半だと勘違いして認識してしまうのです。
ある朝にトイレに行きたくて目が醒めました。
トイレを済ませてふと目覚ましに目をやったら、午前3時20分でした。
ああ、あと10分でアラームが鳴ると、目覚ましのアラームを切り、ふたたびまどろんで目をやると、午前3時45分になっています。
まずい、すぐに身支度をして出ねばと、眠い目をこすりながら着替えてブロンプトンを抱えて、真っ暗な外に出て、組み立ててから走り出します。
真冬と違い、この頃は4時前後でもずい分と暖かくなったなと感じながら、いつものようにお隣の駅前にある吉野家さんにゆくと、いつもは開いているはずなのになぜか閉まっています。
「そんな、また営業時間の変更か?」と思いながら閉まったドア越しに中を覗くと、電灯がついて動いている人がいます。
どうも開店準備をしているようです。
とここまで来て、腕時計をみてやっと現在の時刻が午前4時10分ではなく、1時間早い午前3時10分である現実に気付くのです。


どうりでいつもより余計に眠いわけです。
改めて周囲を見回してみると、24時間営業のカラオケ店から大騒ぎしながらでてくる若者や、暖かくなったからでしょうか、地べたに座り込んで話し込んでいるカップルが目に入ってきました。

それにいつもはいるはずの駅前に佇む始発電車を待つ人がおりません。
そう、まだ朝というよりは深夜の時間帯です。
結局、今(3月)でも、午前5時と同6時なら空の明るさの違いで気が付くのですが、午前3時と同4時ではどちらも真っ暗だし、道を走る車の数もそう変わらないので、じっくりと時計を見ないことにはこのような勘違いをしてしまいます。
私の場合は、旅行のために自宅からお茶の水や三鷹までブロンプトンで走っていって1番電車に乗るということもするし、そのような日には意図的に午前2時や2時半に起きて家を出て走ることもあるわけで、夜中に走るのは全くの初体験ではないのですが、こと仕事に出るときの「早すぎる時間の勘違い」は困ります。


さて、どうしたものか。

まさか家まで戻って30分ほど眠るわけにもゆきません。
このまま吉野家さんの開店を待って、ここで50分間読書しようにも、暗くてちょっと無理そうです。
蛍雪の功ならぬ、街灯の灯りで本を読むわけにもいかないし、川崎駅まで走っても時間が余ります。
そこで考え出したのが、ここから横浜駅まで走ることでした。
日吉駅から横浜駅までゆるゆる走って50分ですから、元住吉駅からがんばって走れば、4時の開店直前には横浜駅西口の吉野家さんに辿り着けるでしょう。
しかも、横浜駅からなら大船駅までの運賃が新川崎駅よりも100円安いし、4時37分発の根岸線経由大船行きに乗れば、大船駅到着は横須賀線の一番列車より4分だけ(笑)早く着きます。
何よりも、ここから横浜駅まで走ればトータル16.1㎞(自宅~(3.1㎞)~元住吉~(13㎞)~横浜)と、いつもの新川崎駅までの距離よりも11㎞以上余計に走る計算になり、トレーニングになります。


ということで、夜中の3時過ぎに元住吉駅前から横浜駅に向けて走り始めました。
最初は裏路地を走っていたのですが、表通りも閑散としているので面倒くさくなって、綱島街道に出ました。
横断するタイミングを逃して、進行方向道路右側の歩道部分を走っていたら対向してきた車が急に手前で停まり、中から2人の男性が小走りに出てきていきなり目の前に立ちはだかりました。
よく見ると、パトカーに乗った警察官でした。
暗いし車のライトに照らされて逆光なので全然分かりませんでした。
ブロンプトンは小径車の見た目よりけっこう早く進むので、向こうが目測を過って、私の目の前に飛び出してくる格好になりました。
「こんばんは、神奈川県警です。」
あーこれが「警察24時」でお馴染みの職務質問というやつです。
昼間にブロンプトンで走っている時は、新宿の裏通りで道行く自転車を片っ端から職質している警察官に出会っても、完全にスルーされるのに、午前3時の歩道を「50分で横浜までゆくぞ」と真剣に走っていたら(もちろんライトを点けています)、やはりどこかから逃げてきた帰りに見えたのかもしれません。
泥棒だって帰り道は怖いといいますしね。
少しくらいは良いかと思って、お付き合いすることにいたしました。


その後身体検査されるのか、はてまたアルコールチェックするのかと思ったら、「自転車の防犯登録をされていますか?」と訊かれました。
なんだ、自転車泥棒を疑われたのかとちょっとがっかりしながら、「ちゃんとおたくの加賀町署でしてますよ」といってブロンプトンをひっくり返したら、しっかりシールが剥がれていました。
半年くらい前に見たときはついていたのに…。
「車体番号は分かりますか?」と重ねて問われたので、フレームに打刻してある番号を指さすと、何やらスマートホンのようなものに入力しています。
うーん、それで登録状況が分かるのだろうかと思っていたら案の定分からないようです。
よく考えたらこのブロンプトンは壊れたチタンモデルのメインフレームを他の車体と継ぎ合わせてあるので、購入した当初からかなり様子が変わっています。
だいたい、ブロンプトンは畳めるので家の中に保管するのが常で、夜中の駐輪場から拝借することなどふつうあり得ません。
そのことを、持ち主であることを証明する意味でも、自転車を畳みながら説明して差し上げようかと思ったのですが、向こうが勝手に職質をかけて来たのに、なんでこちらがサービスで畳み方までレクチャーする必要があるのでしょう。

下手するとおらが自転車自慢になりかねないし、それに今の私にはそんな暇はないと思い直し、無言で急いでいるような雰囲気を醸し出していたら、「これからお仕事ですか」というので、「ええ、横浜駅に4時には着きたいのです」と正直に返しました。
この答えをどこまで本気にされたかは不明ですが、どうも毎日朝から運動しているオーラが背中から漂っていたようで、「お気をつけて」とそのまま放免してもらえました。
向こうも「下手な鉄砲数撃ちゃあたる」式でやっているのかもしれませんが、小径車がかなりのスピードで歩道を対向してきたから何かを感じたのかもしれません。
それに、4月になったら原付同様にヘルメットの未着用を指摘されるのかもしれません。


とにかく今の私は4時に横浜まで走るという明確な目標がありますから、気を取り直して綱島街道を南へ向かいます。
日吉、大倉山、妙蓮寺、反町と、4つほど丘を越えてゆきますが、綱島街道は車もまばらで以前のような暴走車は影をひそめています。
また歩行者や自転車は殆ど見かけません。
それに、大綱橋で鶴見川を渡ってからは、かつて東横線沿線シリーズで使った旧綱島街道を走ったので、信号にも邪魔されずひたすら横浜を目指したところ、元住吉から37分で横浜駅に着いてしまいました。
各駅停車なら、菊名での優等列車連絡の時間を含めて23分かかるところ、自転車で37分というのは折り畳み小径車のタイムとしてかなり驚異的な数字です。
(前に話した通り、信号はちゃんと守っています)
結局横浜駅西口の吉野家さんが開店するまで、10分以上待つことになりました。
周囲を観察すると、こちらもカラオケ店や24時間営業の例のディスカウント・ストアの前に若い人たちがたむろしているほかは、配送用のトラックが停車しているだけです。
こんな時間に横浜のムービル付近の繁華街に来たのは、生まれてはじめてかもしれません。


4時と同時に入店して15分で朝食を済ませ、横浜高島屋の外周をまわって西口に乗りつけてから、ブロンプトンをたたんで地下のコンコースへと下ります。
まだ4時20分くらいで、この時間はJRも中央改札口しか開いていません。
東急線、相鉄線、京急線、市営地下鉄など私鉄の改札口は、みな手前の通路でシャッターがおりています。
当然、JRのホームも殆ど人がいません。
こんなに人出が少ない、SF映画に出てくるような横浜駅にお目にかかったのも初めてです。
ですが、1時間近く自転車で走ったとあって、汗をかいて身体はポカポカしています。
こういう時に電車が来るまでの間本を読むのが、実は一番集中力のかかった読書になります。
実際に、朝にある程度激しい運動をした後の読書は、読んでいていつもとは違う点に気付く内容が多いのです。
それは単に頭がすっきりして冴えているから以上のものがあると思います。
しばらく待って、お隣の東神奈川駅始発の根岸線下り一番電車に乗りました。
不思議なことに、あれだけ運動した後なのに、電車に乗ったら桜木町、関内と二駅くらいで意識が遠のき、あとは大船までぐっすりと眠ることができました。

大船駅に着いて改札を通り抜け、地上階に出てブロンプトンを展開してから走り出したら、駅のすぐ向うにある横須賀線踏切で、いつも自分が乗っている横須賀線の始発電車に行く手を阻まれました。
たったの4分差ですから致し方ありません。
そこから12分くらい走ってお寺に着いたときは、いつもより2,3分早く着いたものの、横浜まで走り通したことで高揚感が持続しました。
たまには1時間早起きして、その時間を折りたたみ自転車併用通勤に充当したら、電車賃がセーブできるうえに、よいトレーニングになると思います。
朝に寝坊すると時間の使い方は後手に回り、ずっと遅延を引き摺りますが、たとい勘違いだったとしても、その時間を有効に仕えたなら、その日一日は時間に追い立てられることもなかったように思います。
たまには、実際の時間をもっと遅いものと勘違いするのも、悪くはないと思います。
皆さまも、がんばりすぎないで良い朝活を。