夏場の街道自転車旅について(その2) | 旅はブロンプトンをつれて

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ブロンプトンを活用した旅の提案

(その1からのつづき)

4.早起き早立ちが基本
これは夏に限らず江戸時代の旅では普通のことでした。
街灯などまったくないあの時代、とくに夏場は4時~5時の日の出前から薄明光線で空が明るくなっていますから、夜に歩けなかった分を早起きすることで取り返していたのだと思われます。
それに、天気によっては日の出の前後が一日のうちでもっとも空が美しい時間帯です。
この時間に宿で寝てしまっていたのでは、すごく勿体ないことをしていたと、早起き街道旅をするようになって気付きました。
後段とも重なりますが、朝に走るには、エネルギーが必要です。
今はファストフード店の中に4時、5時から朝食を出す店があって助かります。
と同時に、その時間に朝食をとれば、昼食は12時まではとても持たず、9時から11までの間に食べるとちょうど良くなります。
これではもう、遅い朝ご飯みたいですが、早朝宿を出るときに前の日の夕方に買っておいたパンやヨーグルト、バナナをはじめとする果物などを食べ、この早すぎる昼食にファストフード店の朝食を食べると、食事代の節約になります。

もっとも、年をとるにしたがって一食あたりの量は減ってきて、以前のように遮二無二走るということも少なくなってきているので、一日2食でも間に合うことが多くなってきました。
また、食べるものを入れたら、出すほうも重要です。
「走り始めたらおなかが痛くてトイレを探し回り、旧街道どころではなかった」なんてシャレになりません。
その意味でも、前泊したほうが有利です。
上記のような理由から、尺取虫方式の旧街道の旅では、交通の便が良い駅(始発列車が多い駅)の近くに宿を複数泊とって、そこを拠点に鉄道で行き来しながら、先へ先へと進むのが効率的だと経験的に理解しました。
旧東海道であれば、熱海、浜松、豊橋、名古屋、亀山など、旧甲州街道であれば石和、小淵沢、上諏訪などがそれです。
鉄道併用旅だけに、路線の結節点がポイントになります。


5.基本はスローペースで無理をしない
旅をしているのであって、競技レースや肉体改造トレーニングをしているわけではありません。
一日で50㎞~100㎞超を、観光も兼ねながら進もうと思ったら、最初から飛ばすのはやめましょう。
人間不思議なもので、スピードを出せば出すほど、もっと速くと渇望が頭をもたげ、自分では止められなくなります。
旧街道の場合、過酷な夏であっても勢いで進むよりも、淡々と前進した方が一日の走行距離は伸びるようです。
もちろん、運動である以上平地ではダラダラと惰性で走るのではなく、呼吸に合わせてゆったりとペダルを踏むことは必要ですし、登り坂も、前輪が浮いてひっくり返るような急坂や未舗装の林道や山道でない限り、押し歩きはせずに、ゆっくりでも良いから乗ってしっかり登り切ることが、ペースを乱さないためには必要です。

ブロンプトンで常日頃からアップダウンのある土地を走っていれば、旧街道では峠越えの山道でない、車の走れる道であれば、押し歩きしないと登れないような坂はそんなにたくさんありません。
むしろ、旧街道を走るうちに坂道をのぼる行為がどんどん楽しくなってきました。
というのも、昔の人たちから数えて幾百万の旅人たちが、徒歩や牛馬が曳く荷車をひっぱったり押したりして、この丘を越えていったのだろうなと思うと、自分もそれにあやかりたくなってくるのです。
もちろん、その時代は道路も舗装されていないし、履物も貧弱で自転車に乗って坂を登る行為の方が絶対的に楽だとわかっているのですが、車やオートバイではない自転車だからこそ、電動アシスト機能などは使わずに、自力で坂道をのぼることにこだわりたくなったのだと思います。
なお、下り坂に関してですが、馴れない道においては途中で何が出てくるか、死角にどんな落とし穴があるかしれないので、わりと慎重に周囲に気配りしながら走るように心がけています。


6.距離を伸ばすのなら涼しい時間帯に
お百姓さんの野良仕事と同じで、自転車旅は涼しいうちに距離を稼ぎます。
夏場は走る地域や天候、時期にもよりますが、通常の晴天で朝の7時までがもっとも走っていて気持ちの良い時間帯、それから10時くらいまでが、それほど苦痛を感じなくても走れる時間帯、そこからお昼跨ぎで15時くらいまでがもっとも過酷な時間帯になりがちです。
これは、アスファルトは時間が経つにつれて蓄熱量が増えることと関係していると思われます。
とはいえ、前述の通りスローペースを崩さないという前提ですから、時間帯によってスピードを変えるということではなく、上記のようなおおまかなくくりの中に、食事や見学、休憩をどこでどれくらいの時間入れたら良いかということを経験的に覚えてゆく感じです。
たとえば、神社や石碑だけの旧跡は、基本24時間お参りと見学が可能ですから、もし行くのなら朝の涼しい時間帯に多く回っておくとか、お寺や見学施設は開いているじかんが限られているのでどこに入るかとか、休憩時間や回数は、一日の後半にはいってから回数か、時間をふやしてゆくとか、どうすればもっとも効率よく自分が理想とする街道旅ができるのか、反省をもとに技術を磨いてゆくと、旧街道の旅自体が楽しくなってゆきます。
なお、連泊などの場合には、夕食後お風呂に入るまでの間に、簡単な自転車のチェックをしておけば、翌朝になってトラブルに気が付くということは減ると思います。


7.食事もきちんと取る
4の「早起き早立ち」の項目にも書きましたが、早寝早起きは食事をとるタイミングと量に依存します。
宿で食事をとろうとすると、どうしても宿泊当日の夕食、翌朝食共に遅めになってしまうため、一日でまとまった距離を走ろうとする旧街道旅の場合、うまくゆきません。
それに、食欲の落ちる夏の場合、夕食前、朝食前に自転車で走ってある程度の運動をした方が、食事も適量を美味しくいただけるのです。
だから3食食べて一日中走る場合、朝食は5時前後に素早く、昼食は休憩も兼ねて11時くらいから長めに、夕食は走り終えた後に翌日に備えて少量をゆっくりとという風に工夫してとります。
これが2。5食の場合だと、宿を出る前に軽食を口にして、10時前後に朝食兼昼食を大量に、そして15時過ぎにはあがって夕食をとり、明るいうちに宿に引き上げて、自転車を点検した後に早めに就寝というパターンですが、いずれにせよ食事を1回完全に抜いたりすると、それが一度に大食するような呼び水になることがあるので、お店が無いような山間部の場合でも、街のコンビニに予め寄っておき、おにぎりなりサンドイッチなりを鞄に入れてしかるべくタイミングで食べるようにしています。


8.涼しい場所、区間を見極める
7月から9月にかけての都内はヒートアイランド現象で、夜中まで道路が熱をもっている日があるのは珍しくありません。
こうなると、日中に道路の上を小径車で走るのは、焼けついたフライパンの上を走っているようなもので。とてもではないけれど忍耐できない人もたくさん出てきます。
しかし、郊外や山間部に目を移してみると、意外に涼しい場所はたくさんあります。
ひとつは、川べりや海沿いなど、水が大量にある場所の近くです。
しかし、旧東海道の旅というと、一部にはそういう場所もありますが、かつてのそのような場所は、大概は埋め立てられて現在は内陸部になってしまっています。
もうひとつの涼しい場所は、地表の広い範囲に土が出ていて、日影が多い場所です。
たとえば雑木林のなかを行く道や、かなり樹木が成長している並木道で周囲が畑だらけの場所、そして山の中と、天気予報の気温は夏日や真夏日を指していても、実際の体感温度はそれよりもずっと低く感じます。
今日は気温が高いなと思ったら、都市部の走行は避けて、山の中で舗装路の多い区間、または町がそれほど大きくなく、街を出てしまえば森や林がふんだんにあるような区間を、順番が前後しても良いから走るというのも、ひとつの対処法だと思います。
なお、旧東海道は太平洋ベルト工業地帯に沿っているため、涼しい場所は街と街の間に分断されて残るのみですが、旧甲州街道の場合は東京から離れれば離れるほど、夏でもどんどん涼しくなって、空気もおいしくなってゆきます。
昔中央線の冷房なし急行に乗って窓を開けていたときも、それを感じました。
ですから、旧東海道よりも旧甲州街道の方が夏向きなのではないかと思っています。


9.夏の風を味方につける
冬の木枯らしや空っ風と違い、夏の風というのは台風が通り過ぎた前後でもない限り、そう強く吹く日はありません。
だから冬場のような、全然前に進めなくなるような向かい風というものに、私は夏にお目にかかったことはありません。
夏の風の方がもっと断続的だし、風力も冬のそれよりは弱めです。
ゆえに、それらに吹かれても冬ほどには走行の障害にならず、むしろ無風状態よりも風を体に感じていた方が体感温度はかなり下がります。
それに、長時間エアコンの冷風にあたり続けるような体力の消耗もなく、身体にはよさそうです。
否、夏は汗をかかないと身体の老廃物が一緒に出てゆかないから、どんどん体調が悪くなってゆきます。

だいたい、夏に気持ち悪くなるのは汗をかいて、その汗がとまらずに、衣服がぐっしょりと濡れてしまうような場合で、現場仕事の職人さんが着ているような、空調ファン付きのベストやジャケットは、絶えず身体を乾燥させておくことで、楽にする目的があるのだと思われます。
そこで、これは自転車に乗っている人にしかわからないことですが、歩行やジョギング、マラソンと違って、「風になる」の表現通り、自転車に乗って走る行為のみで風を感じることができます。
これは汗をかいても、自転車で走り出してしまえばその汗を乾かす方方向へもっていっていることになるので、炎天下に道路を薄着の格好でランニングしている人よりはずい分恵まれているとおもいます。
そこが歩いたり、ランナーとして走ったりすることとの大きな違いだと思われます。
(その3へつづく)